第二章 ディストピアからの脱出 第八話 決断の時
ユグドラシル運営は二一三八年にサービス終了を発表した。
サービス開始から十二年。世間の技術革新にベースプログラムが付いていけないなどもあり、収益面でもゲームとしても当初の計画を上回る成果と評価しつつも、サービス終了が決定されたのだ。
そして多々良の進める異世界脱出計画はすでに大詰めを迎えていた。AOCにはモモンガと音改が残るのみとなっている。また傾城傾国や無銘なる呪文の保有ギルドと、そのギルドメンバーの所在なども把握している。
「異世界に脱出できなかった場合は簡単なのよね」
「ああ。来年完成するクレイドルに移住することになるし、いい加減子供を作れと急かされてる。どうせ治癒力が遺伝するかの検証だとうが」
「そうね。もし異世界にいけたらなんて理由で子供を先延ばしするとはおもわなかったわ。あとせっかくだからOFF会を盛大に開催しましょうよ」
「そうだな」
多々良の体質は、施された遺伝子操作と本人のDNAの組み合わせ、そして成長によるものと結論づけられた。現在はそれらの情報をもとに再現の研究もすすんでいるが、他者にまで回復力を与えるほどの効果は得られていない。もっとも、現在の状態でも多々良の細胞から医療に転用し難病が回復したなんて成果があるのだから、子供についても遺伝するのか手ぐすねひいて待たれている状態である。
「異世界に脱出できた場合は、一緒に行ければいいのだけど」
「最悪別々に飛ばされる可能性がある以上、合流を第一目標にしよう。そのために必要なアイテムは、ギルドにも備蓄しているが事前におのおののアイテムボックスにいれておこう。そして合流後は、この世界への扉が開けるかどうか、それぞれのワールドアイテムで試すと」
「もしこの世界に扉を開くことができなければ?」
「あちらで楽しく余生をすごそうか」
友梨佳のキャラクター美由はワールドアイテム世界転移門があり、その記載と効果として世界の壁を越えて移動する門の作成。そして多々良のキャラクターである音改は、それこそ運営権を行使して今回のために作らせたワールドアイテムがある。しかし、それでも東京アーコロジーに戻ってこれない可能性があるのだ。
「逆に、この世界も開くことができれば……」
「まあ、ゆっくり考えよう。移住しようにもあの世界のホモサピエンスは、生存競争に負け死に絶えている。こちらの人間がそもそも生きられるのか? こちらの物理法則を想定した武器が有効なのか‥‥‥」
考えられることは多いが、たらればばかり。
「どっちにしろ面倒ね」
「最悪、脱出計画が成功した場合、こちらの人間としての体がどうなることか。消えてなくなるならしょうがない。体が残るようであれば、アレのデータから……」
そういうと多々良はめんどくさそうに情報端末に残された重要と割り振られたレポートをもういちど確認する。
最近になりベルリバーさんが入手した情報を、ウルベルトさんが隠し持っていることが判明したのだ。
「最後の最後で、ウルベルトさんか。本当に私と悪魔は縁があるのだろうな」
そんなことを多々良はつぶやくが、その意味を友梨佳は理解することはできなかった。
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