オバロ転生ただし日本【オバロ二次】

taisa

プロローグ 


――DMMO―RPGユグドラシル


 もともとは高性能サイバーデッキとニューロインターフェースを備えたデッカーによるフルダイブ技術を簡略化し、一般人も購入可能な環境で、仮想空間にてあたかも現実にいるかのごとく遊ぶことができる体感型ゲームの有名タイトルである。


 膨大なクラスや種族、魔法やアイテムの数々、そして九つある広大なマップは、自身のアバターやアイテム、住居等の外装、内部データのカスタマイズも可能であり、戦闘だけでなく生産や商売といった無数の遊び方が可能となり、戦闘主体であった既存DMMO―RPGタイトルとは一線を画す人気作となった。


 もっとも盛者必衰じょうしゃひっすいの理とはよく言ったもので、十二年続いた人気タイトルもサービス終了を迎えようとしていた。


 そんなゲームの片隅、ナザリック地下大墳墓 第九階層 円卓ラウンドテーブルにおいて、ギルドマスターであるモモンガは、久しぶりにギルメンとギルメンでこそないが古い友人と話に花を咲かせていた。


「音改さん。定期的に会っていたとはいえ、こうやって時間とって会話できたのって、いつ以来でしたっけ」

「そうですね。ここ最近引き継ぎやらなんやらで忙しくほとんどログインできませんでしたから、軽く三ヶ月ぶりぐらいでしょうか。ほんと申し訳ない」

「まったくよ。こっちも余波で忙しかったわ」


 モモンガは長らく遊んだゲームの最終日ということで、引退したギルメンも含めて知り合いにメールを送ったのだった。そして、最初に顔を出したのが音改と美由であった。


 モモンガから見て、音改は理想的な上司。そしてそのパートナーである美由は出来る女性秘書といったイメージを持っていた。そんな二人とユグドラシルの思い出を語り合う。それこそ、モモンガがこのゲームの最後に望んだ姿ともいえた。もちろんギルメンが勢ぞろいできればという気持ちは贅沢すぎると胸の奥に仕舞うのだが。


「それにしても最後にわがまま言って申し訳ない」

「いえいえ。そうなってしまった事情も知ってますし、ユグドラシル最後の時をパートナーと同じギルドでって気持ちはわからなくもありませんから。もっとも、こっちは相手がいませんがね」


 頭を下げる音改に対し、モモンガは「笑」のアイコンを出しながら気にするなと手をかざす。音改から一日限りということで、本来別ギルドの美由をアインズ・ウール・ゴウンに招きいれることになったのだ。もっとも美由とは、ゲームを始めた当初からの知り合いであり、ここ数年は下手なギルメンよりも顔を合わせていただけに、抵抗感はなかったというのもある。


「そういえば、美由さんのギルドハウスのアレどうなるんですか? 公式のCMにも載った空中庭園」

「あれは今、ナザリックの上空二千メートル付近に浮いてるはずですよ」

「ああっ。美由さんをギルドに入れる時に表示されたギルド統合って、そういう意味だったんですね」

「実際は数年前にゲーム人口が少なくなった救済策で実装されたものの一つですね。あと運営から最後の一週間になって例の条件が緩和されまして」


 モモンガはなるほどとうなずく。

 美由の所有する小さな浮島の上に作られた屋敷と庭園は、かなりリアルマネーを突っ込んだらしく、その出来栄えは素晴らしく公式CMに使われたほどであった。おかげで一時期空中都市系ギルドが人気となり、ギルド拠点の争奪戦が勃発したほどだ。


 もっともその火付け役となった美由の空中庭園は、一般人の観光可能、公式CMなどでの利用という条件で、運営が直々に非戦闘空域と設定された。おまけに観光しやすいようにと、各世界の第一都市から転移門まで設定されているのだ。


 同時に運営のお節介で実質譲渡不可となってしまった。そのため天使という異業種であり社会人という加入要件をクリアしていながら、パートナーの所属するギルドに加入できなくなったという、曰くつきの代物だ。


 そんな代物がナザリックのはるか上空に浮いているということは、目立つなんてレベルではないのだが……。


「まあ、最終日ですし問題ないでしょ」

「ありがとうございます。っと時間ですよ」

「そうか」


 由美はアラームでも設定していたのだろう、帰宅の時間を音改につげる。


 モモンガは一瞬手を伸ばし、最後までどうかと告げようとする。


「ああ、モモンガさん。ちょっとリアルの用事があるので、そちらが終わりましたらまた二人でログインします」

「また後程」

「はい。ではまた」


 そういうと音改と美由は軽く会釈しログアウトしていくのだった。


 モモンガは二人の言葉に安堵し、ログアウトエフェクトと名残惜しそうに眺めながらつぶやくのだった。


「まってますよ」


 もっともその言葉は誰に届くこともなく、円卓の間の静寂に掻き消えたのだった。

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