参ノ四 咖哩と生演奏

第35匙 〈なる〉ほど、こうゆう店か:NARU(A14)

 「夜の咖哩をしないかね」と題したこの章では、ここまで、三つのパートに分けて、〈夜〉にバーや居酒屋を巡ってきた。例えば、神保町から九段下にかけての〈西神田〉、神田から末広町にかけての〈秋葉原〉、淡路町から小川町にかけての〈小川町〉がそのエリアで、連夜に渡って訪れた場合もあれば、一夜で数軒を渡り歩いて、カレーと一緒にお酒も嗜んだのであった。


 いずれにせよ、〈夜〉にカレーを食べながら〈お酒〉を、という二つのテーマに基づいて、書き手は店を巡ってきたのだが、この章の最後に訪れる事にした「NARU」は、ここまで敢えて〈夜〉に訪れてきた九軒の居酒屋やバーとは趣が、かなり異〈な〉ってい〈る〉。


 「NARUお茶の水」のホームページには、「MENU」という項目があって、試しにここをクリックしてみると、「BEER & OTHER」「SCOTCH・BLENDED」「SINGLE MOLT」「BOURBON」「JAPANESE WHISKY」といったように、提供可能なアルコールが分類されている。だがしかし、この項目には、お酒の一覧はあっても、カレーを含めたフードメニューの欄は見当たらなかった。

 つまり、食事の提供は、「NARU」においてはイレギュラーな事態で、二〇二三年秋現在、カレーは月曜日と火曜日においてのみ、「カレーのための月曜日」「カレーのための火曜日」として提供可能な事が、店の週間スケジュールによって知る事ができる。


 つまるところ、月曜と火曜に、通常の客に加え、スタンプラリーに参加しているカレー・ラヴァー達も、この週の最初の二日間に集中するのは必然で、それゆえに、火曜日の夜の営業時には既に、カレーが枯れてしまい、店のシャッターが閉まっているという事態も起こり得るのだ。

 だから、週二日しかカレーが提供されていない「NARU」でカレーを食べんと欲するのならば、月曜日のランチ・タイムにこそ訪店するべきであろう。

 だがしかし、書き手は、〈夜〉にカレーを、というテーマで「NARU」を訪れようと考えていたので、月曜日のディナー・タイムの開始時刻である十七時半に開店凸する事にし、神保町からお茶の水方面に向かって、「明大通り」の坂道を上り始めたのであった。


 実は、以前、書き手は火曜日の夜に訪れて、閉じられたシャッターの前で立ち尽くした事もがあったのだが、この月曜は、書き手の望み通りに入店を果たす事ができた。

 

 さてさて、「NARU」は、原則、バーとして営業している店で、事実まったくもってその通りなのだが、「NARU」は、只のバーではない。

 再確認になるが、「NARU」が位置しているのは、「明大通り」という坂道の頂点付近で、その周辺には様々な楽器店が立ち並んでいる。つまり、「NARU」は、こうした〈楽器街〉に在リ、「NARU」もまた音楽関連の店、いわゆる〈ジャズ・バー〉なのだ。


 「ナルがJazz界の入り口でありたい」、「本物のJazzをライブ(生)で体感する 」というコンセプトを掲げている「NARU」の、その歴史は古く、一九六九年という、学生運動真っ盛りの時期にお茶の水で開店し、二〇二三年に創業五十四年を迎えたのだそうだ。


 つまるところ、二〇二三年秋現在、月曜と火曜以外の「NARU」は、原則、アルコールが入ったグラスを傾けながら、ジャズのライヴを楽しむ空間で、ライヴ開催の予定のない月曜日と火曜日のみ、〈カレーの日〉として、カレー料理を提供し、これをもって、「スタンプラリー」に参加している次第なのである。


 この日、店の入り口前には、現在提供可能な、二種のカレー・メニューが示されていて、それは「特製欧風ポークカレー」と「たっぷりトマトの夏野菜のカレー」であった。ちなみに、ライスの大盛は〈無料〉であるそうだ。

 「NARU」を訪れたのは九月の初旬、夏野菜のシーズンもそろそろ終わりである。そこで、書き手は、「たっぷりトマトの夏野菜のカレー」の方を注文する事にし、地下に位置するジャズ・バーへと続く、階段を下りて行った。


 店内に足を踏み入れ、着座した書き手の視界に入ってきたのは、この日は演奏者不在のドラムセットとグランドピアノであった。


 やがて提供された赤味の強いカレーを口に運びながら、書き手は、この日は、カレーのみで、アルコールもミュージックも無いままなのだが、カレーが食べられない曜日の訪店には〈なる〉が、音楽とお酒を楽しむ目的で「NARU」を再訪するのも悪くないな、と思うのであった。


〈訪問データ〉

 お茶の水 NARU:お茶の水エリア

 A14

 九月十一日・月・十七時半 

 たっぷりトマトと夏野菜のカレー(一〇〇〇)大盛り(無料)パクチー(二〇〇):一二〇〇円(現金)

 北斗の〈券〉:NO.08 リン&バット〈四枚目〉


〈参考資料〉 

 「お茶の水 NARU」、『神田カレー街 公式ガイドブック 2023』、二十八ページ。

〈WEB〉

 「HOME」「MENU」「ABOUT」、『NARU お茶の水店』、二〇二三年十月三十日閲覧。

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