第22匙 特別じゃないのは嫌なので限定カレーを注文したいと思います。:スパイスパレット(A11)

 限定——

 その言葉が持つ響きに、抗い辛い何かを覚えてしまうのは、はたして書き手だけであろうか?


 原作がライトノヴェルで、アニメ化もされた『痛いのは嫌なので防御力に極振りしたいと思います。』の主人公の「メイプル」は、アニメ第一期の第二話において(3;20~3:55)、「上位に入ると、特別限定の記念品がもらえるんだって。こうゆうのってやっぱり欲しくなっちゃうよね。(中略)。だって、〈限定〉って言われると欲しくなっちゃうんだもん」と語っている。


 つまり、〈限定〉を欲するのは、ヲタクの性質のようなものなのであろう。

 

 かく言う書き手も、そんな〈限定〉に弱い一人なので、八月の第四週目に四日間〈限定〉で、TAKEUCHIさんが提供した「標津町を楽しむ鮭節踊る帆立マリネと北海出汁の粗挽き鶏豚キーマカレー」という、ラノベのタイトルのような名前の特別なカレーを食べる目的で、「MID STAND TOKYO」にまで足を運んだのであった。

 そして、この特別企画に参加した際に、限定にして特別なコラボカレーを食べた事によって、書き手は、〈スッペシャルなカレー〉という新たなテーマを得たのである。


 そんな書き手が、八月の最終日である三十一日の昼に向かったのが、秋葉原エリアの昭和通り沿いに位置している「スパイスパレット」であった。

 

 この店は、「神田カレーマイスター」でもある店主が、趣味を昂じさせて開いた特別な店というだけではなく、月替わりの〈限定〉カレーの提供さえ行っている。

 SNSにおける店のプロフィール欄には、「ランチはカレー、夜はお酒も楽しめる緩〜いバルっぽいお店」と書かれており、さらに、いつものガイドブックには、「看板メニューのチキン&キーマの他にも自由な発想から作る限定カレーも評判」と書かれていた。


 書き手は、夜には何度かスパイスパレットを訪れた事があるのだが、お酒を提供している〈夜〉にもキーマカレーといった、通常メニューの注文は可能であった。しかし、「限定カレー」に関しては、原則、昼のみの〈限定〉品なので、これまで、スパイスパレットで「限定カレー」を注文できた事はなかったのである。

 つまり、この店の「限定カレー」を味わうためには、昼、盤石を期するのならば、カレーが枯れてしまう前、なるべく早い時刻に訪店するに越した事はないのだ。


 スパイスパレットは、秋葉原エリアに位置しているものの、昭和通りを渡った所に在るため、住所それ自体は、千代田区ではなく台東区なのだ。そして、地下鉄を利用する場合、日比谷線の秋葉原駅か、銀座線の末広町駅が最寄りとなるのだが、書き手は、利用路線の関係上、銀座線に乗って、開店直後の正午前に末広町駅に降り立ったのであった。


 さて、スパイスパレットの「限定カレー」は月単位で替わってゆくのだが、八月のそれは、「せろり香る夏野菜の冷やしカレー feat.薩摩ハーブ悠然どり」という、夏ならではの〈冷やしカレー〉であった。


 書き手は、これまで、冷やし中華や冷やしつけ麺を口にした事はあったのだが、冷めたカレーではない、〈冷やし〉カレーなる品は初体験であった。

 そして更なる特別感は、「薩摩ハーブ悠然どり」というトッピングである。この鶏肉は、その名に「薩摩」とあるように、鹿児島で飼育されている地鶏なのだ。


 この鹿児島の鶏肉は、カレーの具材になっているのではなく、調理されたブロックが、黄色いライスの上に悠然と置かれていた。

 その塊は、大きさと白さは豆腐のようで、口にするまで、それが鶏肉という事に気付かなかったのだが、口内に運ぶと、それは確かに鶏なのに、鶏肉独特の臭みは全く感じられなかった。

 書き手は、これを、鶏肉だけで数切れ、それから、鶏肉とライスで楽しんだ後、鶏肉と黄米をカレーと一緒に、最後に満を侍して、副菜と残ったライス、カレー、そして、悠然どりを、パレットの上の絵の具のように、混ぜ混ぜしながら口に運んだ。


 繰り返しになるが、この冷やしカレーは八月の限定カレーなので、食べられるのは、八月三十一日が最後で(SNSによると、実際は、八月の最後の日までではなく、その週末まで提供されていたそうだ)、九月からは、また別の限定カレーに替わってしまう。

 つまり、この品が食べられるのは、八月三十一日がラスト・チャンスだと思ったのだ。

 

 書き手は、カレーメニューに付いてくる、独特な味わいのスパイス・スープを口に運びながら、八月限定の、悠然どりの冷やしカレーを、カレーが枯れるその前に味わう事ができて、満足にして満腹感を覚えたのであった。


〈訪問データ〉

 スパイスパレット:秋葉原エリア・昭和通り

 A11

 八月三十一日・木・十二時

 せろり香る夏野菜の冷やしカレー feat. 薩摩ハーブ悠然どり(ご飯大盛):一二〇〇円(QR)

 北斗の〈券〉:No.07 サウザー〈三枚目〉


〈参考資料〉 

 「スパイスパレット」、『神田カレー街 公式ガイドブック 2023』、六十二ページ。 

 アニメ:『痛いのは嫌なので防御力に極振りしたいと思います。』第二話、二〇二〇年一月期。

〈WEB〉

 「薩摩ハーブ悠然どり」、『全国地鶏銘柄鳥ガイド』、二〇二三年九月六日閲覧。

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