1章 鋼の意志に祝杯を

第0節 プロローグ



 冒険者、と呼ばれる人々がいる。

 歴史を紐解けば"奈落アビス"という危険地帯の守人というルーツに行き着く彼らは、今や現在の世界においてなくてはならぬ存在だ。

 強大な敵に立ち向かい、人々の困りごとを解決し、時として未開の地に足を踏み入れ、開拓する。いつも隣り合わせな死すら笑い飛ばし、莫大な富と栄誉をその手につかむ。極点に至り、国を拓いた者もいれば、はじまりの剣に触れ、神へと至った者すら存在する。彼らの鮮烈な生き方に人々は、憧れと畏怖の念を以て彼らを冒険者と呼ぶのだ。


 ブルライト地方に存在するグランゼール王国はそんな冒険者たちが数多く集まる都市国家だ。広大な"魔剣の迷宮"が存在し、未だその全容が暴かれたことはない。この都市に集まる数多くの冒険者はその迷宮を踏破し、名を上げてやろうと血気盛んな冒険者たちばかりだ。

 冒険者は不文律とされるルールこそあるが、その出自を問わず、誰もがなれる自由な存在だ。だからこそ、自分こそはと夢を見、冒険者ギルドの戸を叩く。ここにもまた、冒険者をこころざし、ギルド支部の戸を叩く者が一人。


「たのもう!〈鋼鉄の意志亭アイアン・ウィル〉とはこちらのことか!」


 左目を貫通する傷と長い三つ編み。若いながらも鍛え上げられた肉体は、服の上からでも強く主張する。一振りの剣と小さなラウンドシールド。手入れはされていようが、依然傷一つなく光沢を放つそれは彼が素人であることを如実に物語る。

 彼もまた、一人の冒険者に憧れを抱き、この道を目指した者。彼は名をルーファ・グラハムといった。

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