第18話
目が覚めると日はすっかり傾き、外は青白く、街の明かりがぼんやりと見える。いつの間にかタオルケットが掛けてあり、薄暗い畳の部屋から、店の方を覗くと蛍光灯が明るい。
「しまった。」と思ったときは後の祭りで、バイトの時間ももうすぐ終わりだ。慌てて部屋を出て、人気のする店の方に走っていくと、おばあちゃんが
「里莉ちゃん。大丈夫?息子が、里莉ちゃん少し疲れているみたいって言ってたけど。」
と話しかけてくれた。
「すみません。大丈夫です。折角バイトきたのに寝てしまって!今日のバイト代いいですから!」
「いいのよ。気にしないで。」
自分は、今日一体何をしに来たのだ。まんじゅうを持ってきただけではないか。
一旦畳の部屋に戻り、タオルケットをそっと畳んで、のこのこと部屋を出ようとしたその矢先
「里莉ちゃん、駅まで送ろうか?」
藤井さんが声をかけてくれた。その時には緊張もほぐれていたのか、
「え、いいんですか。うれしい!」
それこそ、自分でも気持ちの悪いくらい、どこから出たのか分からないような高い声で返事をする始末であった。
夢を見ているような気分で藤井さんの車に乗り込む。純白の、今時では、珍しいセダンタイプの車、それも結構高級な車。余り詳しくない私でも、醸し出すオーラで何となく分かる。
なめらかなエンジン音が遠くから聞こえてくるような、華麗な走りで、駅まで「あっという間」に着いたときには、ちょうど電車の来る時間だった。もはや永久に来ないのではと思えるような幸せな時間を過ごしたにも関わらず、慌てた感じで車を降りて、振り向きもせず一目散に改札へ向かう。
電車に乗ると、ふいに寂しい気持ちになり、涙がこぼれそうになるので、周りの人に見られないよう、暗くて外が見えない窓の方に顔を向けた。景色なんて全然見えないのに馬鹿みたいだ。窓ガラスに反射した、見たくもない自分のしょんぼりした顔ばかりが見えてしまうので辛い。気を紛らわすために、帰り際に分けて貰ったおまんじゅうでも食べようとバックから取り出すとぺしゃんこになっていた・・・
電車は定刻に、私の住む街に到着した。何となく、すぐに家に帰りたくないので家に帰るのとは違う方向に自転車をこぎ出す。
暫くして、一体何処をどううろついたのかもよく覚えていないのだが、何とか家にたどり着いた。
疲れたやら寂しいやら分からぬまま、倒れ込むように部屋に入り、布団に潜り込むと、さっきまで藤井さんと二人きりでいたのが、まるで嘘か幻のようだ。あれこれと思い出すと、自分のふがいなさに呆然としてしまう。
母が
「里莉ちゃんご飯は?」と呼ぶが、もはやご飯を食べる気力もない。
「やることなすこと全部ちぐはぐじゃんか!」
「どうして、好きなだけなのにこんなに辛いの!」
布団を頭からかぶって、声が外に漏れないように気をつけて「エ~ン、エ~ン」と泣いた。
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