第81話 「馬鹿共を一網打尽にする」新九郎は奸臣の排除に乗り出した
「
「もちろん見たぞ。命知らずな戦い方をするものよ」
「敵の首は拾うものではございません! 敵の首は獲るものにございます! 命を惜しんでは獲る事は
「武士らしい物言いをするようになったわ」
「ありがとうございます!」
「お礼を言っている場合ではありません!」
笑顔で礼を申すクリストフに、ヨハンが割って入った。
「クリストフ様はブルームハルト家の跡継ぎなのですよ!? いくら軍事演習だからと言ってもあのような狂人じみた戦い方は――――」
「ヨハン、諦めるんだ」
「ヴィルヘルミナ様!? 何を仰います!?」
「シンクロー達の元へ来た時点で、遅かれ早かれこうなる事は分かっていた。狂人ならぬ
「あっ……。そ、それは…………そうでしたね……」
ミナの一言にヨハンはガックリと肩を落とした。
『ばあさあかあ』とは
ミナが詳しく申さぬから
ふむ。
これはミナを問い質してみるしかあるまいな。
とは申せ、衆人の目がある場所では尋ねても遠い目をして話そうとはせん。
これは機会を設けて逃げ場をなくし、問い詰めるしかあるまいな。
それは兎も角、ミナもヨハンもクリストフも少し勘違いをしている。
俺がクリストフを手放しで褒めたとな。
確かに物言いが武士らしくなったとは申したが、話はそれで終わりではない。
ヨハンが割り込んできたせいで話が途切れてしまっただけだ。
ここは勘違いを正しておかねばなるまいな――――。
「クリストフ殿もまだまだですな」
「左様。
口を開きかけた時、東西両軍の大将、
どこかしら傷を庇う仕草はない。
代わりに
ひどい姿のまま訳知り顔で頷く二人に対し、クリストフは
「あの……それはどういう意味です?
「よくお考えなさい。若はクリストフ殿の物言いをお褒めになられたのでござりますぞ?」
「左様。戦いぶりは褒めておりませんな」
「そんな!? 屁理屈みたいな事を――――」
「ふむ。
「
クリストフは心外だと言わんばかりの顔になる。
ミナとヨハンも意外そうに目を丸くした。
「よく考えてみよ。此度の
「……家臣達の気の緩みを正すため、です」
「左様。気の緩みを正そうと思えば、多少の
「はっ! 若の
「
「それは……」
「クリストフよ、お主が申すべきは『首を獲った』ではない。『敵の
「はっ……。お恥ずかしい真似を致しました。私は周りが見えておりませんでした」
肩を落とし、項垂れるクリストフ。
「気を落とすな。お主の働きで我が家臣の気も引き締まったであろう。何せ己の大将を討ち取られたのだからな」
「若の仰る通りでござります。東軍は奉行衆から馬の口取りに至るまで、
「そう言う事だ。
「また機会をいただけるのですか?」
「無論。期待しておるぞ?」
「はいっ!」
クリストフに笑顔が戻る。
ミナが呟いた。
「単に首を追い求めるだけではない……。理性を持って狂っている……。知能ある
「おいミナ。お主、相当に酷い事を申しておらんだろうな?」
「ほっほっほ。ご立派な大将振りにござりますなぁ」
いつの間にか丹波の奴めが背後に立っておった。
このクソ爺!
気配を消して近付きよったな!?
まあ良い。
丁度申したき事があったのだ!
「丹波っ! 勝手に
「おお恐い。年寄りには優しくしていただかねば……」
「何が年寄りだ!」
「加治田様にはお許しをいただいたのでござりますがのう?」
「
「お、お許しください。丹波様のお願いともなりますと、どうにも断り切れず……」
「新九郎! 器の小さい事を申すものじゃありません!」
「まったくじゃ。家臣には度量の大きな事を見せるものじゃぞ?」
「とても見応えのある一騎討ちでしたけど……」
「母上!? 利暁の伯父上に辺境伯夫人まで!?」
宴会で盛り上がっていたはずの三人がこちらにやって来た。
丹波めが「ほっほ」と笑った。
こ奴め……三人と誘い合わせてこちらに来たな!?
何と用意周到な…………。
「おや? 皆様お揃いでしたか」
後ろに引き連れた家臣達は
ミナとヨハンが不思議そうに「その大金はどうしたのか?」と尋ねる。
「見物の衆から見物料を徴収して参りました」
「見物料!? ぐ、軍事演習を見世物にしていたのか!?」
「無論にござります。見せるからには、取れるものを取らずに何としますか?」
「しかし軍事演習で商売とは……」
「詰まらぬ事に拘ってはなりませぬ。
そこでは、クリスや魔法師の冒険者が手傷を負った兵らを治して回っていた。
手傷が治ると思えばこそ、兵らも無茶が出来ると申す者。
あのクリス達には褒美を弾んでやらねばなるまいな。
弾正から
「で? 如何程になった?」
「見物人からは一人十文、物売りをしていた者からは一人三十文を取り立ててござります。見物の衆は二千人ばかりおりましたから、此度の
「あの……ちょっとお尋ねしても?」
「辺境伯夫人?」
「二万モンは、こちらのお金に換算するといくらになるのですか?」
「銅貨二万枚と言ったところですな」
「まあ……本当に? ネッカーでもやりません?」
「お母様!? 正気ですか!?」
「え? お……おほほほほ……。冗談ですよ?」
「本当でしょうね?」
いや、あれは本気だな。
ミナ達が揉めておる内に、弾正はスッと俺に近付き、耳元で囁いた。
「……ネッカーより知らせが」
「申せ」
「
「掛ったか。分かりやすい者共め。俺が三野へ戻った途端にこれか」
「はっ。ですが好都合にて」
「左馬助は?」
「
対して、九州衆が異界へやってきた今、斎藤家は二千を超える兵を用意出来る。
これに備えて兵の半分近くはいつでも動けるようにしておいたのだ。
「やるぞ。馬鹿共を一網打尽にする」
「心得ております」
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