第22話 「スライムは食べられるよぉ」クリスの言葉に侍達はドン引きした
ダァ――――――――――――――――ンッ!
東の荒れ野に銃声が響き渡る。
立て続けに何発も。
周囲は
ダァ――――――――――――――――ンッ!
「くっ……! なんと凄まじい轟音だ……」
ミナはずっと両耳を塞いで顔をしかめていた。
少し離れた場所では、二十人ばかりが『すらいむ』の群れを相手に代わる代わる鉄砲を放っていた。
しかし、『すらいむ』は一体も破裂を起こしていない。
鉄砲玉の速さが破裂するまでの速さを上回っているからだ。
次から次へと干からびた『すらいむ』が生まれていく。
「異世界には恐ろしい――――」
ダァ――――――――――――――――ンッ!
「――――武器があるものだ……」
「仕組みが分かればどう言う事は無いぞ?」
ダァ――――――――――――――――ンッ!
「こんな轟音を聞かされ続け――――」
ダァ――――――――――――――――ンッ!
「――――てはそんな余裕などない!」
「魔法で轟音など聞き慣れておるのではないのか?」
「爆発するばかりが――――」
ダァ――――――――――――――――ンッ!
「――――魔法ではない! どうして平気な顔をしている!?」
「慣れているのでな」
「やはり貴様らは狂戦士だ!」
一方、叫ぶミナのすぐそばではクリスが涎を垂らさんばかりに怪しげな笑顔を浮かべていた。
「うへ……うへへへへ……。こっちの核は銀貨十枚。こっちは二十枚。あっちの魔石は……うへへへへ」
「言っておくが、ただではやらんからな」
「ええっ!!! どうしてぇ!?」
「いや、『すらいむ』を狩ったのは俺の家臣だろう?」
「そこをなんとか! ほら! 情報料とか!」
「ふむ……前向きに考慮した上で善処する方向で検討しよう」
「あっ! それってやる気ない時のセリフ!」
「何のことだか……」
「シンクローのケチ――――」
ダァ――――――――――――――――ンッ!
クリスの声を遮ったのを最後に銃声が途絶えた。
「よ、ようやく終わった……」
「そう疲れた顔をするな。この成果を見てみろ」
俺達の足元には干からびた『すらいむ』が数多く並べられており、
「討ち取った『すらいむ』は締めて二百六匹。この近辺の群れは根こそぎ討ち取りました」
「二百六!?」
「大儲けよぉ!」
ミナは驚きを、クリスは喜びをあらわにする。
「こんなに多数のスライムを一度に……前代未聞だぞ……」
「うへ……うへへへ……これだけあれば十匹くらいくすねても……」
「こらこら。全て聞こえておるぞ」
「お構いなく」
「構うわっ!」
銭に目が眩んだクリスに何を言っても無駄か。
「そう言えばこの干からびた姿を見ていると寒天のように思えてくるな……」
「若、ご冗談を。魔物など食べられる訳が――――」
「あれぇ? 話してなかったぁ? スライムは食べられるよぉ?」
「「はあっ!?」」
左馬助と二人、思わず大声で反応してしまう。
他の家臣達も「本気で言っているのか?」と気味悪そうな顔をしている。
だが、クリスは「嘘じゃないよぉ」と返答した。
「干からびた身体は乾燥材や緩衝材に使うんだけどぉ、核は食用になるんだよねぇ。魔石を取り除いた後ぉ、綺麗な水で洗ってぇ、乾燥させてぇ、
「ほ、ほう……。で? どのように食すのだ?」
「適量を水でグイッと一杯」
「……味は?」
「めっちゃ苦い。死ぬほど苦い。って言うか死んだ方がマシぃ」
「そんなものをどうして好き好んで食すのだ!?」
「ものすっごく栄養価が高いって言われているのぉ。それからぁ、血行促進、疲労回復、食欲増進、老化防止、その他諸々の効用があってぇ、万病に効くって言われているわぁ」
「良薬は口に苦し、か……」
「ですが若。良薬でもこれは
左馬助の言葉に家臣達が頷いた。
それを見たミナが不思議そうな顔をする
「魔物を相手にすることは平気なくせに、どうして食べることが出来ないのだ?」
「それとこれとは別だ。ほれ、湿気の多い所に出てくる、平べったくて黒っぽい色の気色悪いのがおるだろう?」
「うっ……。ゴキ――――」
「その名を口に出してはならん。身体が痒くなる。とにかくあれと同じなのだ。退治する事は出来ても、口に入れたいとは思わん」
「ええっ!? あれはあれで可愛いじゃない! それにぃ、どこかの国だと食材の一つだって――――」
「黙れ。それ以上言うと斬る」
「どうしてよぉ!」
クリスのセリフを聞いた家臣達は軒並み青い顔だ。腰も引けてしまっている。
これはイカン。
魔物の巣窟と言われる東の荒れ地で士気が下げるなど、己で己の首を絞めるも同じ。
なんとかしなくては――――。
「――――今日のところは、ここいらで切り上げるか!」
下がった士気をまた上げることは難しい。
俺はさっさと帰る事を選択した。
「それがよろしゅうございます! これ以上立て続けに鉄砲を放てば熱で暴発するやもしれませぬし、
「
「然り! 雑賀殿を怒らせても我らに得などありませぬ!」
俺の意を察した左馬助がすかさず同調し、帰るべき理由までこしらえた。
さすがは
「よし! 物見に出た山県が戻り次第、城へ帰るぞ! 皆準備をせい!」
「「「「「はっ!」」」」」
クリスは「もう終わるのぉ!? まだお昼にもなってないよぉ!」などと引き留めようとするが、聞く耳を持つ者はいない。
ミナも左馬助も家臣達も、帰り支度を始める者ばかりである。
ドドドドドドドドド………………………。
その時、東の方から馬蹄の音と土煙が近付いて来た。
十騎ばかりの集団だ。
先頭には騎乗する山県の姿も見える。
山県は俺のすぐそばまで馬を付けると、飛び降りるように馬から降りた。
表情が険しい……何かあったな?
「ご注進致します!」
「申せ」
「ここより東へ一里ばかりの場所で
「炊煙だと? 誰かが飯を炊いていると申すのか!?」
「はっ! たき火や山火事の類ではありませぬ。建物から立ち昇るものに相違ござらん!」
戦場の経験が豊富な山県のことだ、見間違えることなどそうはあるまい。
一方、ミナとクリスは驚きをあらわにしていた。
「一里は確か……四キロメートルだったか? そんな場所に人が? 冒険者も滅多に立ち入らない奥地だぞ?」
「シンクローの領地がやって来たせいで奥地までの距離が短くなったけどぉ、異変が起きてからはギルドから立入禁止令も出ていたしねぇ」
「お主らが分からぬのなら、我が目で確かめねばなるまいな」
領地のそばで、正体の分からぬものを放置する事は出来ぬ。
俺達は城へ帰る予定を変更し、炊煙が上がった場所へ向かうことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます