《完》76話 私の空には一番星があるから






 ルナを導くべく、ただ静かに見つめるファスター。そして。




[ ▼挿絵 ]

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 その熱い想いを治癒ヒールに変え、ヒビ割れだらけのそれへ注いでゆく。 一層優しい声で、



「いいパーティーとの出会いだったね。でもキミがそんなに大切に思えたなら、それはきっと偶然なんかじゃなかったんだよ」




《……そう、これは『必然』だったんだよ……》

 と、密かに深層意識へとサイで埋込むファスタ―。




 鼻をすすかすれる声で、


「はい」


 と目を細めるルナ。愛しそうにその思い出―――力をくれた少年パーティーのあの言葉を反芻はんすうする。



 《 誰かの為に生きて、死ぬ。だから戦うんだ!》



 なら、この言葉はファスターさんが言うように、何処かで見守ってくれてるお兄ちゃんが、あの少年少女達を通じて伝えてくれてたのカナ……



 遥かなる兄に想いを馳せるルナ。すると何やら目眩のような感覚に捕らわれ、気が付くと心の奥底の世界に佇んでいた。





: + ゜゜ +: 。 .。: + ゜ ゜゜ +:。. 。.





『助けないで欲しかった………助けないで欲しかった………助けないで欲しかった………助けないで欲しかった………助けないで欲しかった………こんなに苦しむ事になるなら、助けないで欲しかった………』



[ ▼挿絵 ]

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『意味がない……こんな自分は生きてる意味がない……意味なんて無いんだよ……全て無意味だ……


 ………こんなに苦しむ事になるなら、助けないで欲しかった………………こんなに苦しむ事になるなら、助けないで欲しかった………………こんなに苦しむ事になるなら、助けないで欲しかった………


 赦せない……何もかも……全てが。……何も聞きたくない。何も見たくない。……何もかもどうだっていい。


……この世の全てが壊れれば良いのに……。


 赦せない……何もかも……全てが。……もう何も聞きたく…』




『ルナ……』




『!!』



[ ▼挿絵 ]

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『その声は!……どこっ?……どこなの!』



『ここだよ』





[ ▼挿絵 ]

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『お……にぃ……本当にお兄ちゃんなの?!』


『うん、そうだよ』


『お兄ちゃんっ!』



『おいで。こっちだよ』




[ ▼挿絵 ]

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『もう……行っても……良いの?……』


『うん。今までそんなにボロボロになるまで、よく頑張ったね。だからもう……こっちに来ていいんだよ。治してあげる』




『お兄ちゃん……姿を見せて!』



『それなら明るい方へ進んでご覧』








[ ▼挿絵 ]

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『あっ!!……お兄ちゃんっ!』


『さぁ、ここから出るんだ』


『けど……』



『じゃあ先に行ってるよ』



『……待って! もう独りにしないで!』




『大丈夫……。ゆっくりおいで。こっちに来れば大丈夫なんだよ。ホラ、だんだん治ってきた』





[ ▼挿絵 ]

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『そっちに行けば会えるの?』




『いつか必ず逢える。それまでずっと見守るから、信じてこの道を進むんだ』



『ホントに? 約束出来るの? 前の約束は……』


『ルナ。こうして約束通り、見えない所からでも見守ってるんだよ』



『うん……確かにこの異世界でも。だけど……私はあなたを救えなかった……私なんて居る意味がない。ついてく資格もない』



『そんな事ない。それどころかキミがこの世界を救った。希望を繋げた。だからそんな風に自分を棄てないで』


『……』



『ホラ、そんなツライ顔ばかりしてちゃ駄目。ルナはせっかく可愛いんだから』





『かわ……いい……』




[ ▼挿絵 ]

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『うん。スッゴク可愛いよ』






『!!!……………………はぅ……』





[ ▼挿絵 ]

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『ありがとう……』








『……うん。……そして誰より頑張ってきた。この異世界でもね。

 そんなキミで在ろうとする限り見守り続けるよ。そして新しい約束をしよう』




『新しい約束……』




『うん。この世界を救いきれたら、その時は本当に逢えると約束する。それまで信じてこっちに向かい続けて。

 その約束をするか、全て諦めるか、今、キミ自身が選ぶんだ』





『……私は……逢いたい……逢いたいよ!…………でもお兄ちゃんは?!……この世界に来る時、神官が、逢いたがってないって……』


『折角助けたのだから当然だけど、でも逢いたかったんだよ』



『ホントに?』



『うん。さあ、だから涙を拭いて、あの光に向かって……』




[ ▼挿絵 ]

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『分かった。進むよ……そこにお兄ちゃんが居るなら、絶対に会いに行く。こっちだね。必ず待っててね。

 新しい約束だからね』



『もちろんちゃんと待ってるよ。だからルナもこの事を忘れないで。

 いいかい、全ては偶然なんかじゃないからね』




『……うん』





 : + ゜゜ +: 。 .。: + ゜ ゜゜ +:。. 。.





 そして幻覚から戻ったルナに突如、一つの確信が飛び込んで来て、眼を大きく見開いた。




 ……必然……そう! 必然だったんだよ!


 偶然とか試練なんかじゃない! 色んな事を通してどこかで見守ってくれてるサインなんだよ、きっと!




 そう思えた途端、兄との思い出の言葉達にこの世界で何度も遭遇したのは決して偶然ではなかったと確信した。


 そしてそれらが次々と脳裏に巡ると、その瞳に光りが戻ってくる。





   ∙  •  ✶  ✷





  ルナ、心配しないで。大丈夫




  じゃ、お兄ちゃんの為に

     もっと可愛くなったら嬉しい?



  貰ったものはこっちの方が大きいんだよ



  ルナ……ボクは今出来ることを

          やり抜いたよ……



  それでも僕の自慢の妹だよ



  この世界に生まれてきた意味、

       ルナが教えてくれたんだよ





 ✷  ✶  •  ∙  … ☪︎






 ……この世界に来てからやたら思い出の言葉に巡り合わせになって……きっと寂しさからかと思ってた……でもこれって。




 ああ……ずっと、転生してもずっと

 こんなに見守って貰えてたんだ……

 あの約束は、嘘じゃなかったんだ……








『―――だからボクは約束する。ルナの事、絶対に守りきってみせるよ。例え離れ離れになるようなことがあったとしても』








 実は入室時からファスターはその強大な力で〈サイ・精神メンタルヒーリング〉によりボロボロだったルナの心を癒やし続けていたのだ。


 それは隣りにいる高位のサイ使いのルカにさえ気付かれぬ様、穏やかな海の如く、優しく、深く、そっと包み込むように――――。





 そして互いの想いとサイの治癒ヒールがルナの空虚を全て満たし、そして遂に溢れ返った時、二人は同じ幻影を見た。


―――地の底に沈んていた魂が光の手によって優しくすくい上げられる様を。





[ ▼挿絵 ]

https://kakuyomu.jp/users/kei-star/news/16818093078692765202






 それは悠然と天へいざなわれ、あの焦がれ続けた星に達すると満ち足りた様に朝空に消えていった。




[ ▼挿絵 ]

https://kakuyomu.jp/users/kei-star/news/16818093078692771092






 そうしてファスターの心眼で覗き見るルナの中の心象風景…………それはあの荒廃し尽くされたものから美しく晴れ渡る高原の様なものに変わっていた。





[ ▼挿絵 ]

https://kakuyomu.jp/users/kei-star/news/16818093078692788964






 遂に『あの日』以前の瞳の輝きに戻ったルナをそこに見届けたファスタ―。




 そしてこの瞬間、ファスターは瞳を瞑り天に感謝の念を送った。


 それは妹の記憶を読み取った際、この世界に妹を送ってくれた神官の配慮を知った事によるものだった。


 ルナが兄の元へ行きたいと嘆願した時、それを叶えるとも否とも言えなかった神官。

 それはルナが色々知った状態で転生すれば、隠す必要のある兄、延いては転生先の世界の運命に干渉してしまうから。


 それでもルナの願いを捨て置くどころか、敢えて無視するふりして『気まぐれでその世界へと送り込む』という神をも欺く行為に出てくれていたのだ。


 その様にして便宜上、転生者の希望を叶えた訳ではないコトにしてくれたお陰でルナは、『最大級の治癒魔法の剥奪』をルカの様にされずに済んだ、いや、そうしてもらえた。


 全ては慈愛に満ちた神官の瞬時の判断により、過酷な二人の運命へのささやかながらも大きくもある2重の粋な計らいをしてくれていたことにファスターは気付き、改めて謝意を念じたのだった。





 そうして安堵に満ちた表情で微笑みながら、今度は隣のルカヘ向かって優しく言葉を投げかける。





「そしてキミと共に戦ってくれた隣のバディーも同じ想いで臨んでくれてたようだね。

 彼女なりのこの世界に転生して来た意味を、正に同じ気持ちで。真に最高のパートナーだ!」




『!!』




 目を丸くし、再び電流が走るルナ。悲嘆に暮れるルカも項垂うなだれながらも涙をこぼす。





[ ▼挿絵 ]

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『誰かのために戦って、生きて、死ぬ……』

 ルカもあの時、そうやって私に……この子なりの『今出来る事をやり抜く』 ……そうしたかっただけなんだ!……


 そもそも自分こそお兄ちゃんやルカを助けようと身を挺したクセに人には禁止だなんて。

 そっちの方が自分勝手だったんだよね……。



 ルカ……ゴメンね。



 まるで自分ばっかり苦しんで来たかのように当たってしまって……



 あの『運命の日』――――

 誰かのために戦って、死ぬ……

 どれだけ望んだか。


 なのにお兄ちゃんの為に役立って死ねなかった事が……どうしようもなく悔しくて……悲しくて……


 でもやっと解った。


 独り残された事、恩返しさせてくれなかった事、そんなのを恨んでたんじゃなかった……




 お兄ちゃんを助けられなかった『自分』を……

 どうしても……。

 それだけはどうしても……赦せなかった……


 ただ、それだけだったんだ……。




 全てが氷解してゆく。




 自分を不幸に仕立て上げていたもの。

 むしろいつも幸せに導いてくれていたもの―――。




 次第に霧が晴れていく。

 頭の中に直接陽射しが差し込んで来る様だった。



 新しい意味の涙で満ち、更に瞳に宿ってゆく光。



 ……ただ、コレばっかりはそう簡単に治るか分からないから、またあんな風になっちゃうかも知れないけれど、でも、これからは――――。






 涙を袖で拭い、たおやかにルカの方へ向く。

 再び潤む瞳に涙声。そして柔らかい眼差しで。




[ ▼挿絵 ]

https://kakuyomu.jp/users/kei-star/news/16818093078692784408




「……ルカ。また頑張ろうね」










『……!!』



 あまりの衝撃に脳が痺れて全身に震えが走った。



 存外の一言に返す言葉さえ戸惑うルカ。 間違いなく縁を切られると踏んでいた。


 直後、一気に込み上がる想いに顔が激しく歪むルカ。たまらず叫んで隣のベッドへと飛び込んだ。





「ふああぁぁぁぁっ ルナァ――ッ!!、ゴメンネ―――ッ、ゴメンネ――――ッ」




[ ▼挿絵 ]

https://kakuyomu.jp/users/kei-star/news/16818093078692807303




 涙を撒き散らし胸にしがみついて駄々っ子の様に大声でわめきちらすルカ。

 もう何を言ってるのかさえ分からない。必死に何かを伝えたいのに雫と嗚咽しか出て来ない。



 ルナもひたすら頭を撫で頬をすり寄せるだけ。息も乱れて言葉も出ぬもどかしさに只々固く抱きしめ、溢れ出るものでその愛らしい顔を互いにグショグショに濡らし合う。



 ルカ……ルカ!  ルカ !!……

 大大大好きだよ!



 ……でもこんなに想いが溢れてるのに何故かお互いジェンダーチェンジしてないね ……



 そっか……そうだよね……

 だってそんなのもう、どっちだって良いんだよ。

 ただ傍にいてくれるだけでいいんだから。



 ……ああ……思えばここまで辿り着けたのは……

 ルカ、キミのお陰なんだよ。


 こんな壊れた身勝手な子、今まで見捨てないで、ずっとずっと傍で支えてくれて……




 ホントに……本当にありがとね。

 きっと……これからも一緒だよ――――





 感涙に震える二人を傍らで優しく微笑んで見守る兄・ファスター。




 そして人生を取り戻した妹 ―――――





 ……ねえ、サインありがとう!


 私、この世界でもチョットは自慢の妹になれたかな……今どこかで見ててくれてたなら、そう思って貰えるかな……



 お兄ちゃん……



 これでもこんな自分が少しは必要とされて役にも立てた……存在理由を貰えた。

 この世界に転生まれた意味。




 『誰かの為に―――』




 ここでまだ私、頑張ってみるよ……

 ……みんなを救えるその日まで……


 きっとどこかで、見守っててね……。

 だから私も絶対に……




 ――― あなたを忘れない……





 やがて少しずつ顔を上げるルナ。見守ってくれている存在へと遥かな想いを馳せる。

 あの転生時の神官の言葉を思い出しながら。




『与えられたのじゃ。やり直しの機会を。そして自らが望み、挫けずにやり抜けば、ソナタにとって途轍もなく大きなものをつかみ取るじゃろう』





 ……そして神官の言った様に、お兄ちゃんもどこかに転生してこんな風に活躍してるのなら……

 決して事故で私達が不幸になった訳じゃなかったんだよね。




 だから私を残して逝ってしまったこと、もう恨んだりしないから心配いらないよ……




 だって――――




『私の空にはいつでも一番星があるから』








 それを確かめる様にふと目を移し見上げた窓の外。


 そこにある筈の星はもはや一つも見えず、青白く突き抜けた朝空が、今はただ途方もなく高く感じられた。

 真っさらな気持ちで仰ぎ見る。





『あ、名残なごりの月。真っ白だ。

 フフ……。

 場違いなのに、あんなに堂々としてる……』





〈名残の月〉

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 星に先立たれ朝空にポッカリと取り残されたルナ


 これ迄は置いてけぼりに見えていたそれは今、ものともせず敢えてちゃっかり居座っているようにさえ思えた。



 場違いの空、「異世界」に。




 それを映す瞳にその輝きが灯り、新たな決意を胸にいだいて歩み始めたルナ。







 市街に潜む脅威からの〈地上奪還〉


 大侵攻・奴隷化からの〈覇権維持〉



 そして


 拐われし者の〈奪回への道〉が遂に開けた。








 こうしてこの世界数十億の民は、希望を見出す第一歩を百年ぶりに踏み出そうとしていた。








<完>







    ◇ ◆ ◇




『異世界でチート超人になったら人生とり戻せますか? 褒めて貰えますか? ~ダブルジェンダー転生記』




『転生と再生の章』 END












――――――――

ここまでお付き合い頂き誠にありがとうございました。


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