第72話 妖精の森、そして兄妹の真実



 サイ治療を始めるファスタ―の目に映る二人。



[ ▼挿絵 ]

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 超オーバーラップによる大爆発の手ひどい傷、更に闘いながらの治癒魔法での粗雑な修復、無茶な体の使い方等、二人に凄まじいダメージを残し意識を失っていた。


 必要箇所をサイキック視で探し出し、一つ一つ丁寧に治癒を施してゆく。


 いつもの優しい眼差しに戻ったファスター。




[ ▼挿絵 ]

https://kakuyomu.jp/users/kei-star/news/16818093078282738235



 ルナの頬の涙を指の背ですくい取り、ひそめた眉を手かざし治癒で解きほぐしながら心の中で優しく語りかける様に見つめてつぶやいた。




[ ▼挿絵 ]

https://kakuyomu.jp/users/kei-star/news/16818093078282733408



 最後の一瞬、相方にかばわれて……

 そんな辛かったのかい。

 あの日の事、許しておくれ。



 ルナ……



 ……また逢えて嬉しかったよ。ピアスのデザイン、探られたのに気づいて変えてしまってゴメンよ。


 今はまだ、訳あって立場は明かせないから……


 そう、あれは……



  



 ―――約二年前、妖精の森・最深部―――


『伝説の勇者』の隠遁いんとんする砦にて



  * *


 朽ちかけた妖精族地下宮殿で、かつて世界救済を成した妖精の勇者が若者を前に佇む。その齢は悠に百歳を超えて尚、決して老いて見えず。

 その白く峻厳な美しき面持ちと冷徹な双眸をむけ歩み寄る。


「ファスターよ、この修行もいよいよ大詰め。皆伝かいでん後は人類と我ら妖精との橋渡し、そして大いなる権限を与える」


 意思を引き継ごうとする若者を前に、仄かに光を纏ったその妖精の師は厳かに言い渡し、そして続ける。


「お前なら人とも協力しあって偉業を成し遂げてくれる事だろう」



[ ▼挿絵 ]

https://kakuyomu.jp/users/kei-star/news/16817330661511391918



「お前を召喚した時には自分の召喚力をどうかと思ったが、よくぞ耐え抜いた……お前はワタシの希望だ。

 果たせなかった地下魔界の完全討伐、お前にならきっと託せる……」


 勇者は感慨深げにそう漏らし、修了時に授けられる戦士のピアスへ施す意匠デザインの要望をファスターに尋ねる。


 と共に、だがこれだけは伝えておかねばと、その強大なサイによるをファスターに告げた。

 それを耳にしたファスターは思わず確かめ直す。


先生マスター、本当にを予知したのですか?」


「間違いない。 お前もサイの力がそろそろワタシに追いつく頃だ。同じ予知を感じぬか?」


「何となく。只、まさかと思ってたので……でもどうして……折角助けたのに……」


 ファスターは信じたくなかった。命を救ったはずの大切な存在が死してこの世界へやって来る事を。


「少し先だが恐らくお前の様に大いなる徳をもってこの者はこの世界にやって来る。その尊厳のたまものだ。決して悔いのある結果としてでは無いだろう……」


「だと良いのですが……」

 憂いを秘めた瞳で呟いたファスター。


「心配ない。 しかし本人次第だが、お前と同様この世界にとって重要な役割を担う事となるだろう。さすればお前も相当な覚悟が必要だ。それは恐らく過酷なものとなる……」


先生マスター……この世界が平和に、そしてここへやって来る『妹』が幸せになれるのなら、私自身はどんなに過酷であろうが一向に構いません!」


 流し目の如く冷ややかに白い瞳だけを若者へ移す。




「なら早速だが前世の立場を明かしてはならん! 」




 僅かに瞑目するファスター。ゆっくり瞼を上げた。

「……逢うことも、許されませんか?」


「そうは言わぬ。が、お前をこの者、決して冷静になれぬし心を隠す事も出来ず、サイに長けたジャナスに悟られ人質に……

 さすれば地上最大戦力かつ軍師としてのお前は封じられ、全ての計画、ついしか感じぬからだ。

 どうだ? 隠し続ける事など本当に出来るのか?」


 コクリ、と微かに喉を鳴らし真っ直ぐに見つめ直すファスター。皆と、そして妹の為なら……と。


「全てを覚悟します!……ならば先生マスター、最後の手ほどき、この命にかけて全力をもって邁進まいしんします!

 ―――――限界までお願いします! 」


 その覚悟、受け止めた! と刮目と共に力強く言い放つ勇者。更に厳しい念押しが添えられた。



「くれぐれもおくのだぞ」




  * * *




 続く治癒。予知通り再会した事を感無量に思い返し、互いに変わらぬ想いでいる事に心を温める兄。


 手かざし治癒をしつつ更に忘れえぬあの日々にも思いを馳せ始めた。



 ……俺の心の灯火ともしび

    ルナ……

     いつも……一緒だった――――






  ――――幼少期――――


 兄・一星いちせと2歳年下の妹・瑠奈るな


 いつも親から叱られる妹ルナ。特に悪い事はしていなくとも成績優秀でないと執拗に叩かれる。ストレスのはけ口、虐待だ。


 兄は生後僅かから小2頃まで異常なほど執拗に受け続けてた虐待によりノイローゼになっていた。それは無数の骨折の跡が物語る。常に死んだ目をしていた。

 そう、生きながらにして既に心は死んでいた。



 だがそんな兄にも一つだけ心が温かくなる瞬間があった。そう、2才下のルナを見て兄は心を癒やされていた。



「なんて笑顔がキレイなんだろ……」




[ ▼挿絵 ]

https://kakuyomu.jp/users/kei-star/news/16818093078282742330




 その女の子は生まれながら本当によく笑う笑顔の似合う子であった。

 

 兄はその後も続く虐待が怖くて必死に勉強し、成績が良くなった頃、徐々に矛先がルナへ向かう。


「ごめんなさい、ごめんなさい、もうしません、ちゃんとやります……」


 ルナは常時受ける暴力にオドオドして親に謝り続けていた。兄は何もしてあげられず、


『あんなにいつも笑顔だった子が、こんなにおびえきって……結局、ボクと同じ運命……』


 せめて慰めてあげる事が精一杯だった。

 震える日には抱きしめて眠った。その兄の手の温もり。

 その時だけは妹の怯えていた目が嬉しそうに安堵の表情を浮かべた。




[ ▼挿絵 ]

https://kakuyomu.jp/users/kei-star/news/16818093078282746004




 次第にエスカレートして、遂にルナは酷いコミュニティ障害となり、一時期声さえも失う。その後、声は戻れど極度の吃音きつおんに。


 そうしてその気後れした雰囲気をいじめっ子が嗅ぎつけた。学校では執拗な虐めに合い、常時諦め顔となるルナ。

 最初、からかわれていた吃音。それがやがて小突かれる様に。突飛ばし、言葉責め、取り上げ、物隠し、冤罪……


 家では母親はその頃再婚もして、相方の男と共に更に虐待を増して来た。体罰、暴力、そして食事抜き。


 もう自分が守るしか無い―――小心な兄でさえそう思った。


「こんな悲惨な人生はボクだけにしたい。あの笑顔を取り戻してあげたい……」


 こっそりとラップを手に忍ばせて自分の分の食料を包んで隠れて渡す。時としてその日の全てを譲り与えた。



 そうした日々に兄が少しでも自信をつけるため始めたカラテ。親友がカラテ道場のオーナー師範の息子という事もあり、月謝は払えないものの見学だけはさせてもらえた。


 必死で見よう見まねをしていたら高い素質を見込まれ、大会で優秀者を多く輩出したいからと道場の特待生として無料で教えてもらえる事になった。


 やがて兄はカラテの実力も自信もつき、妹へのイジメを風の便りで聞きつけ、直ぐに首を突っ込むようになり、随分助けた。


 妹の教室まで頻繁に見守りに来て何かあれば即介入。両手を広げイジメっ子に立ち塞がる。

 ルナはその手の陰でいつも申し訳無さそうにしていた。


 しかしそんな日は家に帰ると嬉しそうに言った。

『お兄ちゃん、ありがと』




 ……お兄ちゃん……あんなにいつも死にそうに怯え続けてたのに、こんなにも一生懸命になってくれて……

 こんなダメな妹のために……




 そんなある時、学校から帰るとルナの顔に大きなアザが出来ていたのを見て問い詰めた。

 イジメが激化してないか心配して聞いたが、ルナは断固として口を割ろうとしなかった。



「それならお兄ちゃんはルナのことキライになるよ!」


 なかなか口を割ろうとせず眉尻を下げる妹。

 だがそれ以上に嫌な事は無かった。


 白状したアザの原因、それは親だった。



『アンタをいたぶる事でオマエの兄さんは楽出来てんだよ! 《ドカッ》……ホントはアイツの分だけど最近やたら成績も良くて……《ドカッ》 殴れやしない《ドカッ》

 ……いちせ(一星)もアンタに感謝して貰わないとね―っ《ドカッ、ドカッ》


 オラ、言いつけてみなよ、歯向かったらしばけるし、ホラ、ヤツの前で泣いてみろ!《ドカッ》

(―――お兄ちゃんを巻き込ませるもんか……)


 タマにはあいつを殴らせろっ! 小さい頃のヤツは《ドカッ》もっと泣き喚いて楽しかったんだよ!《ドカッ……ドカッ……ドカッ……ドカッ……ドカッ……》』




 ―――ルナは身代わりになってた? 僕のせい?



 ……どうしたら……









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