第15話 ついに真の理解者と出逢う


 ルナへと近づくセイカの桜色の唇。だが瞳の奥には憂いを宿していた。このセイカも転生者として特殊能力を持つ。


 ……ルナさん……かわいそうな人。もういいんですよ。 さっきからそんなに自分を偽って生きなくても……


 ご自由にとばかり許された唇をめがけ、その愛くるしい瞳と淡いピンクの頬が間近に迫る。


「はい。ならこのまま」


 と、膝枕のまま優しいキス。同時に発動する超能力治癒サイ・ヒールで鼻血を治す。


 ルナはその感触に意識を委ねると、有り得ぬ高揚感に焦り始める。


―――ん? 何で途中でこの場面シーンが終わらない?

 それにこの柔らかいリアルな感触と物凄い幸福感、頬をくすぐる髪から漂う芳しい花の香り……

 ってまさか!……はうあぁぁ……

 

 現実を受け止め切れず意識が遠のくルナ。


「あっ、ルナさん? お姫様は王子様のキスで目を醒ますものですよ!」


「ふあぁぁ~~……どっちが王子でどっちがお姫様で……もうわかられりるれろ……」


 そのまま気を失ってしまうルナ。



  **



 3時間ほど経ち、なお膝枕のままに気付く。ガバっと起き上がり


「はっ、ゴメンッ、セイカちゃん……重かったでしょ?!」

「ううん、こんな可愛い寝顔ずうっと眺めていられる。私、とっても満たされたの」


 呆気に取られ長い沈黙………。

 そして度し難さに思わず泣き出してしまうルナ。


「そんな筈ない……ボクなんかそんな事が起こる筈なんて有り得ない……あうあぁぁ……」


 優しく背中を包み込むセイカ。ほのかに桜色に染まる唇から優しく囁き続ける。


「でも、あり得たんですよ……」


「はぅ……っく……ボク……今迄ずっといやな事ばかりで……こんな事初めてで……そもそも恋愛なんてどうしたらいいか……」


「やっと本音を。……ごめんなさい、その元気さが『壊れた偽り』だって事、サイで分かっちゃうの。だから私はただ傍にいてあなたの癒やしになれたら。そんな存在になりたい」


「いいの? ……キミが望むなら、ボクもそうしたい……」


「そう言って下さるのなら、今度はちゃんとルナさんから誓いのキスを……そしたら私の人生はあなたに捧げます。ずっと幸せに。

 だってあなたはそうなるべき人です」


「う……でも……こんな腐り続けたボクでも良いのか……きっとふさわしくない……」


「……まだあなたが納得いかないなら……出来ることなら何でもします」


「じゃあ、ボクの事、話すよ。それで分かり合えたなら……一緒に。

 ……そう、ボクは以前――――」




 その半生。ヒドイ家庭に育ち壮絶な虐待の日々。そのせいで対人恐怖症、心因性失声症に。やがて声は戻れど吃音きつおんに。


 それが元で学校でも虐め抜かれた苦しみ。それでも兄がいて、如何なる時も支え、あの約束と共に守りきってくれた。

 それだけが希望であり、そしてそれが全てだった。

 

 だがそれを奪った事故。阻止できた筈がしくじった自分……

 身を挺され、後を追う事も許されず正気を失ってさ迷い続けた。


 やがて兄の背中から学んだ事を思い出して再出発した新たな人生。

 恩返し代わりに成長を……と、ようやく立ち上がったものの、その矢先に道半ばにして転生―――




 だがセイカはルナが語り始める前から既に小刻みに震え、止めどもなく涙を流していた。




[ ▼挿絵 ]

https://kakuyomu.jp/users/kei-star/news/16818093074993987900



「ごめんね、私、人の考えがこの能力で全て読めてしまう。あなたに何が有ったかも寝ている間に記憶から全部知ってしまった。

……あなたも大切な、そして最大の理解者の兄妹がいた事、自分の命をまるごと捧げても尽くせないと思ってたほど……あんなに……あんなに…………うう…………支えられて……それは大きな救いだった……」


 呆然と耳をそばだてるルナ。ただ静かに涙を溢し出す。


「だからこそ、その恩に報いる事に全てを懸けていた。なのに眼の前でそれを奪われてしまった痛みと悲しみは……私だけが……いや、私だからこそ分かる……………」


 セイカは震えながら刮目して言い放った。




「――――それは想像を絶するはず……………」




 その最後の一言に頭と胸を同時に撃ち抜かれる。こらえきれる筈も無かった。



[ ▼挿絵 ]

https://kakuyomu.jp/users/kei-star/news/16818093075290685330




「セイ……カ……ちゃ……あああうう……ぐっ……ふああぁ……はぐうぅ……っく……」


 セイカは再びむせび泣くルナをその胸に抱き、震える肩を優しく包んで囁く。


「辛かったんだね。私もそうなってもおかしくなかったのに最高の結末エンディングをあなたに貰えた。この恩をどう返したら……

 僅かでもその隙間を埋めて大切な人の代わりに……ううん、どんなに尽くしてもきっとそれは無理。でもせめてあなたの理解者に、慰めになりたい……」


 ただ春の日差しの様にどこ迄も穏やかな母性。無性に甘えたくなった。


「ありがとう……ありがとう……ありがとう……恋とかじゃない。本当の理解者に会えた……兄を失くしてからもう無理だと……

 けどボクはもう、一人じゃないのかも知れない……セイカちゃん……ボクはキミをずっと大切にするよ……」


 真に新たな人生が始まる、そんな想いを馳せる様に顔を上げる。

 だがそこでふとある事を思い出すルナ。


「……ところで神官から両性は狙われるって聞いたのだけど……大丈夫?」


「今の所知ってるのは貴方だけ。口外こうがいしないでくれれば」

「もちろん!」


「じゃあ大丈夫じゃないかな……では、理解し合えた所で……誓いのキスを」


 顔を近づけ見つめ合う二人。

 今日初めて話したと思えぬ既知感と無限に湧き出す愛情。



 そこへ何の気配も無しに突如二人の視界に映る大きな人影。



 ――――出くわしてはいけないもの。








< continue to next time >


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この少女と出逢ってはいけなかった理由。両性具有者が狙われる事を思い出したルナだが、時既に遅し。

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▼イメージBGM  There Was A Time (youtube)

https://youtu.be/bH8sq49wkjQ

(こんなに憂いをたたえた美しいメロディはそうそう出逢えない。ルナの過去の切なさ、それを祈る様にすくい取るセイカ。)

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