第二章 <承> 試される日々

第14話 意外な転生者




 アストゥロ国からの要請で日課となった国境の見回り。


 美しい野原がどこまでも続く丘陵地帯を超高速で疾走するルナ。


「ああ、ここは何てキレイなんだ。こんな世界、絶対に守りたいよ。この国には一匹たりとも入れない! そして人拐いから守るんだ!」


 淡いピンクのカーペットの様な広大な花畑の中をまるで飛ぶように突っ切る少女。異世界へ来てリセットされた解放感も相まって、その愛らしい顔に晴れやかな笑みを湛えて駆け抜ける。一面ピンクの園に長く美しい花緑青色の髪が棚引いてその軌跡に花吹雪が舞う。




[ ▼挿絵 ]

https://kakuyomu.jp/users/kei-star/news/16818093075681803399




「お兄ちゃん見ててね。ボク、絶対やるよ !!」


 そこへ丘の上から白いワンピースの裾を春風で膨らませ、それと髪を押さえながら何やら可憐で清楚な女の子がやって来る。ゴクリ、百倍視でジックリとイヤラシクなめ回す。


「は、はああ~! か、可愛~い! 超ボク好み! 早速男子になるチャンスかぁ~っ ?!」


 例のヨダレ顔、突如速度を落とし丁寧に見回る。いかにも紳士的に近づきイケボを作り、

「ボクは見回りの者です。お嬢さん、身辺に異常はありませんでしたか?」


[ ▼挿絵 ]

https://kakuyomu.jp/users/kei-star/news/16817330660984764783


 聡明で優しげなパチリとした瞳、のセミロングヘアをお嬢様風少女が答える。


「はい、特に。ところであなた、ルナさんですよね。逢いたかった……」


 胸に手を当て瞳を潤ませたお嬢様風少女の激しく喜ぶ様子が伺える。


「えっ!……て、ボク有名人になって来た ?!」


 だが直後、ルナから何かを読み取って酷く辛そうな表情となり、『そんな……なんて人なの』と洩らした。

 しかしルナは別の事に気付く。


「……あれ? あなたどこかで……」


「そう、あなたに事故の時救ってもらって……。あの時は本当にありがとうございました」


 ハッとして身を固くしいぶかしむルナ。確か車から回避させた筈。何故この異世界に?


「実は臓器移植で生き延びていた私には、あの車からの回避で強く抱きこまれた時の衝撃でさえ思ったよりダメージがあって……車と地面からはしっかりガードして貰えてたけれど段々弱ってきて……

 命の終わりが近づくのが分かって……でも嬉しかった」


「はぇ?!……」

「私、弟への恩をいつか返したくて……それが出来たからなの……」


 恩返し……出来た――――その言葉に突然顔に影を落とすルナ。


「私には小さい頃から夢があったの。どうしても悔いを残したくなかった……それでとても心臓の弱い弟と知りつつ腎臓ドナーをしてもらって……凄く申し訳ないと思いながらも中々ドナーが見つからなくて我儘を……私と弟は血液型が特殊だから」


「それで弟さんは自分の危険を省みず……」


「幼少よりどんどん弱って死線をさまよった私は悲嘆にあけ暮れ泣き続けた。憧れてたささやかな夢……せめて充実した青春を過ごして終わる。それでさえ絶望しか無かった」


 目にいっぱい涙を溜め想いを吐露する少女。


 弟はそんな姉を誰よりも気遣いドナーを申し出てくれて悔いのない日々を過ごせたと。そのお陰で友人と行きたい所を全部回り、夢だった吹奏楽の県大会を勝ち抜くまで皆と全力で駆け抜けた日々。


 部活動での初恋の成就と失恋……やっておきたい事全て、弟のお陰で出来た、そう語って潤んだ瞼を持ち上げた。


「だから中々現れなかった弟への心臓のドナー、それに丁度私がなれるなんて……あの子の為になれて……あの子の中で私が生き続ける事が出来るなんて本当に嬉しくて、これ以上幸せな事は無かった……

 逆にもし事故に会わずあのまま生き続けて弟の死を見るなんて事でもあればそれこそ……死んでも詫びきれない最悪な事だった」


 ルナは真っ青になり『死んでも……詫び切れない……』と消えそうに呟く。


「だからこの人生の幕引きは最高のエンディング。あなたには本当に感謝をしてるの」


「……一番大切なものに命を使えたなんて……ホントに良かった……ですね……」


 微かに震え、視線を外し俯くルナ。口は固く閉じられ眉はひそめられている。


「はい! でも恩返し出来たのは私が救われただけでなく、あの事故で庇おうとした弟もあなたは助けてくれたの……私の命以上に大切なものを。この二つもの恩」


 切なさと嬉しさを瞳に帯びて更に一歩近寄る。


「だからこそどうしてもお礼しに会いたくて神官にお願いして私も転送型フォアードとしてこの世界に。

 そしてここへ来る際、あなたの役に立ちたくて困り事を解決する存在になりたいと申し出たら、失った理解者の代わりを求めてずっと苦しんでるって。

 そう、生涯のパートナーに困ってると聞いて、ならばあなた好みのツガイにと……」


「えっ! う、うん! 困ってる! いっつもジェンダー的に嫌われてばかりだった。だから必ず相手の望む性別になれるように頼んで転生した! なのについこの前もどういうわけか……

 やっぱボクに良いことなんて……。起こってもそれはいつも幻……」


「ならご安心を。私は両性具有。どんな性別だろうと結ばれる事ができるのです。神官によればあなたの特殊なジェンダーにはそれ以外ツガイにはなれないと聞いて頼んだの」


 それはオカシイ、誰にでもジェンダーフィットする筈では? と訝るルナ。

 だが直ぐに居直る。こんなに可愛い子が自分だけの人に! このジェンダーチェンジの効用が絵に描いたようなご都合展開で……と。

 しかしそんな現実を夢だと疑い始める。


 ……ま、でもこんなのどうせ夢だよね~、妙にリアルだけど! そうだ、夢なら思いきり楽しんじゃぉ!


「あの、ところでお名前は……?」


「あ、そうだった。ンフッ、申し遅れました。私、星香セイカって言います」


「セイカちゃん……ステキな名前デスネ……じゃ、じゃあ、こんどデ、デートしてくれマスか? いや、もう夢なんだからいっそ、お、お嫁さんになってよ!」


「まあ、嬉しい! こちらこそぜひ。今からでもいいですよ……ぁ? ルナさん?!」


『ブッシャ――――ッ』


 と鼻血を噴出し卒倒するルナをサッと受け止め甲斐甲斐しく膝枕と鼻血テッシュで介抱し出すセイカ。起こる筈の無い展開に急に真顔となるルナ。


「31連敗中のボクがそんなのイキナリ有り得ない! ねえ、やっぱこれ夢ですよね……」


 フフフ、い~え現実ですよ、とニコやかに返されると、プ……と吹き出したルナは、


「え~だってここ、異世界デスよ~」


 等と理屈も破綻した緊張感のない声と超緩み顔になる。


「クスッ、 でも現実です。そんなに私で喜んでくれるのならそのお嫁さんとしてキスして見ましょうか? 夢なら途中で覚めてしまうのでは?

 私は徳と報奨倍率でサイが得意な転生者。何やらを沢山貰えたの。

 その証拠に魔法のキスならぬ、サイキック治癒ヒーリングのキスによりその鼻血を治しましょう」


「はにゃぁ~……ふふ、ど~せ夢だからキスでもなんでもドーゾ」


 その愛らしい顔が上から近づくと『栗色の巻毛』がルナの頬をくすぐる。


 ……あれ、ボク、たしか村長にその髪の人と出逢ってはいけないって予言を教わったような……。なんでダメなんだっけ?

 え……と、あーも一何でもいいや。 


 だってこれは夢なんだし!



〔 もし出逢ったら―――

  生死に関わる何か最悪な事になると

   ……最終手段を取らざるを得なくなる 〕








< continue to next time >


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大きな転機を向えたルナ。異世界での自分探しにもし応援頂けるなら ☆・♡・フォローのタップにて宜しくお願いします。

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▼イメージBGM GUARDIAN  (youtube)

https://youtu.be/9Zod4yq5EW8

(この夢の中で飛翔するカンジ、冒頭の花畑を疾走するルナの気分そのもの。そしてその後のルナの頭の中のお花畑にも)





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