第7話 煉獄界にて 【転生の条件】




 そうして生命のエネルギーが宿って行くと、スックとルナは立ち上がった。


「命が吹き込まれたようじゃな。では先に進めるぞよ。

 ソナタは生前の善き行いにより、幾らかを選び与えられる。今からそれを決めるぞよ。先ず、記憶は持ち越すか? 恩返しがどうとか言ってたが」


「もちろん持ち越す! チャンスがあるなら今度こそ……ところで選び与えられるって何を?」


 

「魂の修行の場、そして能力などが多少選べるぞよ」


「それなら……カラテ以外ホント不器用だから、才能とか人格も選べる?」


「いや、記憶継続ならむしろ色々引き継がれるかの。

 では転生先を言い渡す。ソナタは神の評価に強い不満を持っておる……よって『より徳に応じて評価される世界』……そこへの転生を候補とする!

 そう、望んでた世界じゃろ。これで不満ならもうソナタの問題じゃ」


「より徳に応じて評価される世界……」


「そう。善き行いにより徳が増せば評価され、実力も増大する。そう言う世界じゃ」

「それなら……」


「そして生前の強さと正義感、向上心をかんがみ『侵略者から善良な市民達を守り、救える場』 とそれを可能とする『能力』 を付与する。但しその成否は本人次第じゃ」



 侵略者から守る……あの人がしてくれた事に意味を示せるなら……


「やりますっ!」


「うむ。因みに場所は前世とは異なる云わば並行パラレル世界ワールド。剣と魔法、更に実弾も飛び交う世界じゃ。そしてとんでもない敵がおる」


 そうして神官は転生先への準備の事、チート能力の事等の説明をしていった。


 ――――だが続く様々なやり取りは神官の想像の斜め上を行き……で紛糾。



 何とか定まると、ヤレヤレと神官が立ち上がる。



「はぁ……こんな『ダブルジェンダー』を選ぶ者など初めてじゃわい。状況に応じて男女入れ替え等とは……全く」


「有り難う! 想いが溢れた時にチェンジ、でいいんダヨネ ?!」


 無邪気に特殊能力ゲットで嬉々とするルナを横目に思わず溜め息を洩らしながら、大きく息を吸う神官。


「が、準備は整った!―――――

 最後に今一度〈大事な事を言う〉から心して聴け!

 次の世界はきちんと徳を評価され、その分だけ力を授かる。だが都合良くそれで報われる訳では無い。

『力を得た分、何を為すかをより問われる世界』じゃ。寧ろしっかり自分と向き合う世界とも言える」


「自分と……向き合う……でも思い出したくない事もある……」


 『そのトラウマ!!……それを封印するのでなく解き放つのじゃ!!』


「だって……そんなの……ムリ……」


「いや、兄との事故はソナタをいたずらに苦しめる為の物でなく意味がある! だから前を向いて乗り越えるのじゃ。

 それに今や自分の命と引換に人を救った事で逆の立場になったのも忘れるでない」



「……逆の……立場……」


「しかしだからこそ見えて来る事もある。そして全てが終わった時、何もかもが無駄ではなかったと思える様、悔いなくやり抜くのじゃ。


 さあ、既にその世界がソナタを待っている。臆せず存分に活躍して来るが良い!」

 

 そういって錫杖の様な棒をやにわに振りかざして宣告した。



「――――ではいざ、転生せよ~……―――」




 その瞬間、突如視界が光の渦に飲まれ、何処かへ転落して行く様な感覚に見舞われた。





  * * *


  * *


  *





「―――――う……うう……ここは……」


 窓の無い燭台しょくだいの明かりと十数人による妖しげな儀式。

村の命運を賭けた召喚の儀。床に光る魔法陣の中心に霧の様に現れ眠りから醒めるルナ。


 前世同様、整った輪郭にその瞳は愛らしくパチリとして人目を引く。若干タレ目だが目尻と眉はキリリと少し上がって凛々しさも兼ねる。

 転生で変わった点は瞳の色と長い髪は花緑青はなろくしょう色となって、より美しく輝いていた。



[ ▼挿絵 ]

https://kakuyomu.jp/users/kei-star/news/16817330660982663026



「おお何と愛らしい少女! お告げ通り月の女神(ルーナ)の化身の召喚、神の子降臨だ!」


 村の窮状から期待は甚大であり、それを表す様に暗がりの奥からも歓声が上がる。


「神の子、バンザ――イ、バンザ――イ」


「ボクはここで……人生をやり直すのか……みんな、ボクはルナ。ここで困っている人の話を聞いて送られて来た。先ずは皆のこと、教えて欲しい」


「ホォ、名前までルナ、早速に気にかけて下さるとは! やはり今回の召喚は成功だ!」


 転送出現型フォアードの転生召喚の成功だ! 即戦力だぞ! と興奮する声が飛び交う。するとそこへ慈悲深げな面持の村長が近付き話しかけて来た。


「ルナ様と申されましたか。まあ一先ひとまずこの成功を祝って宴でも行いながらじっくり話しを聞いて頂きましょう。この村の、そしてこの世界の窮状を……」




 早速村の要人と供される歓迎の宴。山盛りのご馳走が期待の大きさを物語る。


「えっと、ボクは何をしたらいい? 何か侵略者がどうとか、皆を護る使命があるとか……」


「百年の災厄……一言で言えば、魔物の侵略と人拐ひとさらいとの長い戦いです」


 ルナの翡翠の様に輝く瞳に一気に眼力が入る。やっつけるだけかと思ったら、人さらいも阻止するのか、と一筋縄にいかなさそうな緊張が走る。



「大昔、この世界は愛に満ち徳の好循環の世界だった。それによる魔法や超能力を活かしてそこそこ幸せに暮らしていました……」


 だが地上の豊かさを邪魔に見ていた魔物はそれを嫌う。それでも地上と地下で住み分けが出来ていて争いはほぼ起きていなかったという。ところがある頃からその均衡は破られ、魔に少しずつ侵食されていった。


「奴らは徳を持つ者を悲しみの瘴気で覆い、力を奪ったのです。そして瘴気に囚われた人は次々と魔に取り込まれて行った」



 ……瘴気に囚われないようにしないといけないのか……



「そして不思議なのは地上を根絶やしに出来る程の規模と力を持ちながら何故か遠回しな遣り方をして来るのです」


「追っ払えば良いの? なら得意だと思うよ」


「それが既に約半数の国がほぼ乗っとられて……転生者なら一般人よりも何倍も強いのですが、被害は減るどころか……この増加ペースだとあと数年で全土がやられてしまう」


「急ぐ必要があるんですね」



「はい。ともあれこの世界を事は、力を得るだけでなく瘴気を祓い、それが人や街の回復にも繋がるのです。

 だからどんどん魔と戦って少しでも多くの人を救って貰えればと。ルナ様には是非ともそのお役目を果たして頂きたい」


 徳が重んじられる世界、そう神官も言ってたっけ……。


「ボクは前世で優しくて良い人が虐げられる事を憎み戦ってきた。この世界が正にその事で苦しめられてるのならボクにピッタリの使命! 全力で頑張りますよ!!」


「是非に!日に何十人もの人拐いに苦しんでおり、ここもそうなる瀬戸際なのですから」



 あと数年で全土が瘴気で覆い尽くされる――――

 思った以上に深刻な状態に気を漲らせるルナだった。



 と、そこへ村長が何か不思議そうな面持ちで近付いて来た。








< continue to next time >


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