ASMR少女サンクスギヴィング!
右助
第1話 ASMR少女
ASMR。自律的感覚絶頂反応の略称である。
聴覚、視覚への刺激によって感じる、快感のこと。それは心地よさだったり、ぞくぞくする感覚。主に聴覚で得られる体験のことだ。
ならば、その体験をスポーツにしたら?
それはどんなエキサイティングな体験を民草にもたらすのだろうか――。
『じゃあ最後に息ふーってするね? ふーっ』
「高まるぅ~!」
日本VSMRスタジアム。
スタジアム上で激戦が繰り広げられ、そして終わった。
澄華は両耳に着けていた特殊なイヤホンユニットを外し、拳を空に突き上げる。
「勝者! 阿住澄華!」
割れんばかりの拍手が会場を包む。
終わってみれば一方的な試合だった。
「スミちゃん、やっぱり好き……!」
親友の
「やっぱりスミちゃんの声は、VSMR界の宝だよ!」
VSMR。正式名称は、日本対戦式ASMR。今、全国のASMR少女たちが熱中している競技である。
両耳に特殊なイヤホンユニットを着けたASMR少女同士の
メンタルポイントはいかなる刺激でも削られる。ルールに則ったルール無用のガチンコバトル。
少女たちはVSMR界の頂点を目指して、
「給子、勝った勝った~! イェイイェイのイェイ!」
「スミちゃんの声は突き抜ける青空のような声。これはもう間違いないね」
「ありがとう給子。それにしても流石、VSMRの全国大会だよ。みんなレベルが高い」
今日はVSMRの全国大会。
ASMR少女たちが繰り広げる声の決闘。
澄華はその激闘を難なく突破していた。彼女の声は感情を揺さぶる声。その声質は神からのギフトだ。
「声もそうだけど、可愛い子が多いよね。スミちゃん、惚れないでよ?」
「えー。何言ってんの。女の子が好きだからこそ、私は“ASMRボイス”が出せるんだよ」
「だからだよ。ASMRボイスは、女の子が好きな女の子から生み出される特殊な声。そんなのは世界常識なんだけど、それでもヤキモチ焼いちゃうんだよ!」
「まったく給子はいつまでも心配性だなー。いくら可愛い子好きだからといって、そう簡単に――」
次の瞬間、別スタジアムから大歓声があがった。
気づけば、澄華は走り出していた。
彼女の高いASMR
別スタジアムにたどり着いた澄華はそこで、不可思議な出来事に遭遇した。
「ここは、海中!?」
なんと、澄華は海の中にいた。先程まで、コンクリートの上だったはずなのに。
原因を考えることもなく、澄華は包み込まれ、揺られる。大いなる生命の源に抱かれることを受け入れよう。澄華は自然にそう思った。
「ち、が、う! こ、こ、は! 大、地、だぁ!」
澄華は自然と己の頬を打っていた。
海? 否! ここは紛れもなくスタジアムだ。
一時的にとはいえ、このような超常現象を可能とする者――!
実況役がその名を高らかに読み上げた。
「勝者!
「……勝負にすらなりませんでしたか」
茉莉は小さく呟き、そのままスタジアムをおりた。その表情は実につまらなさそうだった。
「波音……? どこかで聞いたような」
あとから追いついた給子が、その名前に反応する。
「な、波音!? まさかあの波音茉莉さん!?」
「知ってるの給子!?」
「なんでスミちゃん知らないの!? 日本が注目している天才ASMR少女だよ!?」
「天才ASMR少女――!」
「スミちゃんは山を反応させることができる?」
「え、何言ってんの? そんなの無理に決まってるよ」
「
「山ぁ!? む、無機物だよ?」
「誰もがそう思うよね? でも山は心地よくなり、次の瞬間には鎮火していたの」
澄華は思わず唾を飲み込んでいた。
「“無機物に命を与えるASMR少女”、それが波音さん。波音さんのASMR力は人間どころか、無機物さえ反応してしまうんだよ!」
「そんな子がこの日本にいるなんて! こうしちゃいられない!」
「待ってスミちゃん! どこへ行くの!? まさか――!」
「そうだよ! 私は今から波音さんに勝負を挑んでくる!」
「“野良VSMR”をやるの!? 本気!?」
「私が本気じゃなかったことある!?」
「考え直してよ! イヤホンユニットがなければ、ASMR少女は相手のASMR力を軽減できない! VSMRのレベルによっては機動隊すら動くんだよ!?」
「そんなの承知だよ! それでも、私はあの子と戦いたいの! たった今!」
「どうして!?」
「私は、あの子に
「ふふ、流石はスミちゃんだね。わかったよ、見張りは任せておいて!」
「ありがとう給子! 大好き!」
澄華は走り出した。
理由は戦いたいから、そしてもう一つ。
「ASMRの残滓ですら、私は海を視せられた。なら直接戦えば? 私は一体どうなるの? 確かめさせてもらおう!」
波音茉莉の作り出す
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