30歳独身ですが、何故か女子高生の姪っ子に執着されています。
ちりちり
第1話 女難の相
「私が陽菜多を守るから」
そんなことを言った10代の頃の私は、目の前で泣いている幼い姪が可愛くて仕方なくて。
子ども特有の高い体温と心音を感じながら、この子のためならどこまでも強くなれそうだと思ったのを覚えている。
私に懐いてくれる可愛い姪っ子。
それも大人になるにつれ薄れていくかと思いきや――どうしてこうなったんだろう、と、大人になった今の私は、頭を抱えている。
「いや、無理でしょ。お兄ちゃん」
お昼も過ぎ、客足も疎らなファミレスで、正面に座る兄にきっぱりと告げる。
「いくらなんでも私が陽菜多と住むって…。そんなの無理でしょ」
私、
そろそろ浮いた話でも――だなんて、自分でも自分の周りをくまなく探してみるけれど、男の人影も話もなく。
彼氏もつくらず、仕事に趣味に精を出してそれなりに毎日を楽しんでいたところで兄から提案されたのが、姪とのルームシェアだった。
陽菜多は高校一年生で、兄の一人娘だ。
兄は奥さんを10年前に亡くしている。
そこから男手一つで、女の子をここまでよく育てた……とは思う。
でもそうしてまで育てた娘を、何で妹である私のもとへ送り込もうとするのか。
「陽菜多の学費も、生活にかかる費用は勿論、こちらで出すが……」
「いやいやいや、そういう問題じゃないって!陽菜多はお兄ちゃんの娘でしょ!?それなのに私と住むって何!?お兄ちゃんの家と私の家からも、通ってる高校同じくらいの距離じゃん!」
注文したアイスコーヒーをごくりと飲み、一呼吸置く。
そうでもしないと混乱して自分でも頭の中が整理できないからだ。
「――ねぇ、再婚相手の人と陽菜多って、そんなに相性悪いの?」
兄は近々再婚する。
これまでひとりでよく頑張ったと思う。
そう思うから、私や姉は今回の再婚を祝福していたのだ。
でも、その再婚で陽菜多が幸せになれないのなら話は別だ。
絶対駄目だ。
あの子には、幸せになってほしいのだ。
「あ、いや、凄く仲良いぞ。ふたりで買い物にもよく行くし」
「だいたい、俺が陽菜多と仲良くなれない人を再婚相手に選ぶはずもないだろう」と憤慨した様子で兄が腕組みをする。
兄が陽菜多を大事にしているのは傍目からも分かるけど。
じゃあどうしてその提案になるのだ。
「再婚相手の人とも仲が良くて、通っている高校も別に家から遠いわけでもなくて、何でこのタイミングで私と住むことになるの?」
「それは、陽菜多が俺の再婚を期に親離れして、お前と住みたいって言い張るから」
ルームシェアだ、ルームシェアと兄は言うが、要は私が保護者代わりになることは否めない。
「お兄ちゃん、陽菜多に甘すぎるん……ってことはないか」
どちらかというと陽菜多に甘いのは私だ。
「私だって、彼氏とか欲しいんですけど」
「えっ!?お前、そういうの興味あるの!?」
ぶん殴ってやろうか、この男。
思わず顔が引きつり、握り拳を作る。
「だってお前、今年30歳になったのに浮いた話もないし」
「そ、それは仕事が忙しくて」
思わずつい、と目を逸らす。
「仕事は基本的にずっと忙しいもんだろう。その合間でみんな恋人との時間を確保してやりくりするもんだ。それなのにお前は休日何してる?」
「録りためたアニメ観ています」
娯楽は大事だ。心のオアシスだ。
休日はいつもヘアピンで前髪をあげ、おでこを出した状態で、一日中アニメやドラマを見ている。
勿論、お化粧などしない。
「給料は何に使ってる?」
「フィギュア買ったり漫画買ったり、動画サイトのサブスク……」
「それじゃ金も貯まらんし、恋人が出来ても逃げるだろ」
「いやでも、それと陽菜多を受け入れるのとは……」
俺だって分かってる、とポツリと兄は呟く。
「でもあいつ、亡くなった母親に似て一度決心すると、俺が何言っても聞いてくれないんだよ」と頭を抱えた。
兄は女難の相でもあるんだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます