第45話 落盤事故の被害

落盤事故は、かつてないほど大規模なものであった。

だが、被害は、その規模からすると少なかった。


死者:1名

炭鉱に閉じ込められたもの:8名(うち怪我人1名)


救出にあたっては、7日間の時間を要した。


炭鉱に閉じ込められた者は、『シールド採掘機1号』によって空けられた穴から、常に新鮮な空気が確保され、食料や水、傷薬が届けられていた。


この穴がなければ、その命は絶望的だっただろう。


エリックの発明品である『シールド採掘機1号』が使われたこと。

そして、その時間的な余裕が、バルドの的確な指示を生んで、二次災害も起こさず炭鉱に閉じ込められたドワーフ族の人々を確実に救出した。


この出来事の後では、街中で、エリックとバルドの関係の見方が一変していたのである。


エリックとバルドは、別の道を進んでいるのではなく、共に協力して支え合っているのだと評価されたのだ。


このことは、エリックとバルドのどちらが、次の族長になっても、これまでと変わることはないという安心感と、さらなるドワーフ族の発展への希望を与えていた。


そんな中、エリックとバルドは、落盤事故の事後処理で忙しく働いていたのだった。





ミナとカイは、落盤事故の被害にあった唯一の死者ブロードの家族の元へ慰問へ向かっていた。

ミナとカイは悲しみに包まれた家に足を踏み入れた。


ブロードの妻であるナーラは悲しみに暮れている様子で、ブロードの息子であるボーレンは静かに立っていた。

ナーラとボーレンは、カイとミナが部屋に入ると、驚いた表情を浮かべた。


「ナーラさん、ボーレン君、お悔やみ申し上げます。」

とカイが言った。


カイは落ち着いた声で話した。

「ブロードさんには、大変お世話になりました。

 ブロードさんがいなくなったことはとても残念です。」


ナーラはカイの言葉に感謝の表情を見せた。

「ありがとう、カイさん。

 ブロードもあなたのことを高く評価していました。

 いつもあなたの話を楽しそうにしていましたよ。」


ボーレンはカイとミナを見つめながら、黙っていた。

ボーレンは何かを考え込んでいる様子だった。

カイはボーレンの様子に気づき、話しかけた。


「ボーレン君、大丈夫かい?」

ボーレンは瞬きして、カイに向かって微笑んだ。


「ありがとう、カイさん。

 父さんがいなくなったことは辛いけど、父さんの気持ちを受け継いで頑張るよ。」


「そうだ、ボーレン君。

 君は、君らしい、鍛冶師になるんだ。

 きっと君の父さんも誇りに思っているよ。」

ボーレンは頷きながら言った。


「ありがとうございます、カイさん。私も頑張ります。」

ナーラは二人の会話を静かに聞いたが、何か少し言いずらそうな表情を浮かべていた。


「ナーラさん、どうかされましたか?」

ミナが何かに気づいたように尋ねた。


ナーラはため息をつきながら言葉を続けた。

「いいえ。ただこの子の将来が不安で・・・。」


カイとミナは、すぐにそれが何であるかを察した。



ミナは、ボーレンとの会話を通じて、彼の夢に興味を持ち始めていた。

ミナはボーレンに対してさらに掘り下げるような質問をしてみることにした。


「ボーレン、一流の鍛治師になりたいと言っていたけれど、

 それは具体的にどういうことなの?」

ミナは興味津々の目でボーレンを見つめた。


ボーレンは少し考え込んだ後、真剣な表情で答えた。

「一流の鍛治師とは、ドワーフ族の中でも最も優れた技術を持ち、

 みんなをあっと言わせるほどの武器や鎧を作り上げることです。

 技術と知識を極限まで極めて、他の鍛治師には負けたくないのです。」

ミナは納得したようにうなずいたが、その思いについてさらに突っ込んで聞いてみた。


「それは、ドワーフ族の中で一番になることが目標なの?」

ミナは問いかける。


ボーレンは首をかしげながら答えた。

「えっと、ミナさん、質問の意図がよくわからないけど、

 ドワーフ族の中で一番になること・・・、ではないかな・・・。

 目指すのは、この世界全体で誰にも負けない鍛治師になること。

 僕が創り出す武器や鎧が、どの種族や国においても認められるほどの・・・。

 高い品質と信頼を得られるような・・・そんな存在かな。」


ミナはボーレンの答えに驚いたが、同時に野心と情熱を感じた。

ボーレンが自分自身に課した高い目標に対して、ミナもボーレンを応援したいと思った。



ミナは熱い思いを込めてボーレンに頼みたいことがあると告げた。


「ボーレン、将来の君にお願いがあるわ。

 私は誰にも負けない剣士になりたいのよ。

 だから、私の剣を作ってくないか?」

ミナは真剣な表情でボーレンを見つめた。

ボーレンは迷わずに頷きながら答えた。

「必ず最高の剣を作るよ。約束する。」


ミナはボーレンの言葉に安心した様子で、

「必ずだ、約束だよ。」

と強調して言った。


ボーレンはミナの意思を受け止め、自分自身に決意を込めて頷いた。


すると、ミナはポケットから一枚の大金貨を取り出した。

その大金貨はこの国でも最高の価値を持つ貨幣だった。

ボーレンは声を失い驚いていた。


ナーラは戸惑いながらも、大金貨を見て驚きを隠せなかった。


「これは前金だよ。」

とミナは言った。


「私が求める剣は、もっと価値あるものなんだ。

 この金貨を受け取ってくれるかな?

 自信がないのなら受け取らなくても構わない。」


ミナの自信に感銘を受けながらも、ボーレンは一瞬迷った。


しかし、ボーレンは期待に応える決意を固め、大金貨を受け取った。


ミナは、笑顔でボーレンに言った。

「任せたよ!」

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