クローバーノート リレー小説部へようこそ!

やなか

プロローグ すぐに書けるよ

「小説なんて、すぐに書けるよ」


 ソーサクくんはそう言うと、わたしに顔を近づけた。


 ここは小学校の図書室。ソーサクくんがいつも座っている窓ぎわの席だ。


 ソーサクくんの顔立ちは整っている。前髪はさらさら。目は切れ長で、まつ毛が長い。なんだか王子様みたいにきれいな顔だなぁ。って、顔が近い近い!


 わたしは恥ずかしくなって、思わず顔をふせた。


 わたしはユメ。夏目夢なつめゆめ。区立ひぐらし小学校五年二組の女子だ。そしてソーサクくんこと森創作もりそうさくはクラスメートだ。


 わたしはこの日、ソーサクくんに相談したのだ。「小説って、どうやったら書けるの?」って。


 担任のカナ先生によると、ソーサクくんは小説のコンクールで何度も入選しているらしい。


 ソーサクくんなら、わたしの疑問にこたえてくれるかもしれない。そう思ったのだ。


 ふぅ。


 わたしは深呼吸して息をととのえる。それからソーサクくんの方を向いて言った。


「いやいや、すぐには書けないでしょ。だって小説だよ? 日記や読書感想文じゃないんだよ?」


 わたしの反論に、ソーサクくんはほほ笑んだ。

「難しくはないよ。だって、きみは小説を書きたいと思っているんでしょ」


「まぁ、そうだね」

「そして、きみの頭の中には物語がある」

「うん。あるかも」

「じゃあ、もうほとんど出来上がっているよ」


 ソーサクくんはさらりと言い切った。

 わたしはポカンと口をあける。


 ソーサクくんの落ちついた言葉を聞いていると、悩んでいるこちらがバカみたいに思えてくる。でもでも、そんな簡単なものじゃないよね?


 わたしは、これまでに何度も、小説を書こうとチャレンジしてきた。ノートとか、原稿用紙とかに。


 でも、書き出しの何行かを書いたら、そこで手が止まってしまうのだ。どんな風に物語を進めたらいいか、わからないのだ。


 わたしは読書が好きだ。そして、あれこれ空想することも好きだ。それらはトランプのオモテとウラみたいなもので、切っても切りはなせない。


「ユメちゃん、また空想の世界に入りこんでいるわねぇ」

 ボンヤリと空想しているわたしを見たママが、そう言ってあきれるくらいに。


 わたしは空想の中でなら、物語をいくらでもふくらませられる。でも、それを文章にすることは、とても難しかった。


「うーん。わたしにとっては、書くことって、大変なことなんだよね」

 

 わたしがそう言うと、ソーサクくんは「ふうん」と首をひねった。


 わたしはなおもつぶやく。

「空想は自由にできる。本だって自由に読めばいい。でも、書くときは、なんだか決まりごとばっかりで。どう書いていいか、わからないんだよ」


 するとソーサクくんが言った。

「じゃあ、試しに一緒に書いてみる?」

「え」

「ひとりで書くのが難しければ、チームで書くのはどうかな」

「どういうこと?」

「リレー小説って、知ってる?」


 リレー小説?


「知らない。初めて聞いた」

「チームで書く小説だよ。ほら、運動会のリレー競走みたいにね。リレー小説なら、書きやすいかもしれない」


 ソーサクくんのクールな顔が、このときは少しイタズラっ子のように見えた。楽しいことをたくらんでいるような。


「何それ。全然想像できない」


 わたしはわけがわからず、そう返事するしかない。


 小説は、ひとりで書くものだと思っていた。チームで書く小説があるなんて、知らなかった。


 そう。すべてはここから始まったのだ。

 ソーサクくんの提案から。


 わたしはソーサクくんのおかげで、リレー小説を知り、その魅力にハマることになる。


  ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎


 ★リレー小説(四人制)について


 ① 四人で順番に書こう。

 ② しょうてんけつを考えよう。

 ③ みんなでひとつの作品を完成させよう。


(日本リレー小説協会『公式ガイドブック』より)

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