クローバーノート リレー小説部へようこそ!
やなか
プロローグ すぐに書けるよ
「小説なんて、すぐに書けるよ」
ソーサクくんはそう言うと、わたしに顔を近づけた。
ここは小学校の図書室。ソーサクくんがいつも座っている窓ぎわの席だ。
ソーサクくんの顔立ちは整っている。前髪はさらさら。目は切れ長で、まつ毛が長い。なんだか王子様みたいにきれいな顔だなぁ。って、顔が近い近い!
わたしは恥ずかしくなって、思わず顔をふせた。
わたしはユメ。
わたしはこの日、ソーサクくんに相談したのだ。「小説って、どうやったら書けるの?」って。
担任のカナ先生によると、ソーサクくんは小説のコンクールで何度も入選しているらしい。
ソーサクくんなら、わたしの疑問にこたえてくれるかもしれない。そう思ったのだ。
ふぅ。
わたしは深呼吸して息をととのえる。それからソーサクくんの方を向いて言った。
「いやいや、すぐには書けないでしょ。だって小説だよ? 日記や読書感想文じゃないんだよ?」
わたしの反論に、ソーサクくんはほほ笑んだ。
「難しくはないよ。だって、きみは小説を書きたいと思っているんでしょ」
「まぁ、そうだね」
「そして、きみの頭の中には物語がある」
「うん。あるかも」
「じゃあ、もうほとんど出来上がっているよ」
ソーサクくんはさらりと言い切った。
わたしはポカンと口をあける。
ソーサクくんの落ちついた言葉を聞いていると、悩んでいるこちらがバカみたいに思えてくる。でもでも、そんな簡単なものじゃないよね?
わたしは、これまでに何度も、小説を書こうとチャレンジしてきた。ノートとか、原稿用紙とかに。
でも、書き出しの何行かを書いたら、そこで手が止まってしまうのだ。どんな風に物語を進めたらいいか、わからないのだ。
わたしは読書が好きだ。そして、あれこれ空想することも好きだ。それらはトランプのオモテとウラみたいなもので、切っても切りはなせない。
「ユメちゃん、また空想の世界に入りこんでいるわねぇ」
ボンヤリと空想しているわたしを見たママが、そう言ってあきれるくらいに。
わたしは空想の中でなら、物語をいくらでもふくらませられる。でも、それを文章にすることは、とても難しかった。
「うーん。わたしにとっては、書くことって、大変なことなんだよね」
わたしがそう言うと、ソーサクくんは「ふうん」と首をひねった。
わたしはなおもつぶやく。
「空想は自由にできる。本だって自由に読めばいい。でも、書くときは、なんだか決まりごとばっかりで。どう書いていいか、わからないんだよ」
するとソーサクくんが言った。
「じゃあ、試しに一緒に書いてみる?」
「え」
「ひとりで書くのが難しければ、チームで書くのはどうかな」
「どういうこと?」
「リレー小説って、知ってる?」
リレー小説?
「知らない。初めて聞いた」
「チームで書く小説だよ。ほら、運動会のリレー競走みたいにね。リレー小説なら、書きやすいかもしれない」
ソーサクくんのクールな顔が、このときは少しイタズラっ子のように見えた。楽しいことをたくらんでいるような。
「何それ。全然想像できない」
わたしはわけがわからず、そう返事するしかない。
小説は、ひとりで書くものだと思っていた。チームで書く小説があるなんて、知らなかった。
そう。すべてはここから始まったのだ。
ソーサクくんの提案から。
わたしはソーサクくんのおかげで、リレー小説を知り、その魅力にハマることになる。
✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎
★リレー小説(四人制)について
① 四人で順番に書こう。
②
③ みんなでひとつの作品を完成させよう。
(日本リレー小説協会『公式ガイドブック』より)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます