第2話水平線の向こう側

長期休暇のある日から始まった。

 ガチャン!

「大洋、起きなさい!もうすぐ11時!寝すぎ!」

 ある日の朝激しいドアの音ともに母親の怒号が飛ぶ。

「分かったから…とりあえず向こう行って……」

「リビングにおにぎり置いてるから勝手に食べてね。足りなかったら自分で買って食べな。私はちょいとお隣さんと話してくる。」

 ガチャ

 ドアが静かに閉まる。

「よいしょっ」

 それと同時に眠い目をこすりながら重い腰上げる。

「ガラッ」と太陽を求め、窓を開けると、そこにはいつもと代わり映えのない山と連なった民家が見える。

「1!、2!、3!、4!」

日光浴をしながら軽いストレッチをして目を覚ますのが日課だ。

 そして軽いストレッチを終え、朝食を取るため、リビングに向かう。

 そして、おにぎりを片手にテレビをつけた。

「今日の天気は一日中晴れるでしょう。洗濯日和の一日となるでしょう。」

 雨続きの日々が続いていた中で、久しぶりの晴れ予報に気分も晴れる。

「久しぶりに散歩がてら"あそこ"に行くか!」

 そういっておにぎりを口に放り込み、身支度を整えた。一応報告も兼ねて

「散歩に行ってくる。」とだけ 書いたメモを机に残し、散歩に出かける。

外には元気よく遊ぶ子ども達や日光浴に楽しむ猫

や犬が居たりととても賑やかだ。

 そんな中とうとう目的の場所に着いた。

 それは山だ。

 山の中でも少し沿岸寄りの日がよく当たる所があり、そこで広い海を見ながら昼寝や読書をするのがとても気持ちいいのだ。

「うぁ〜」

 横になると久しぶりの感触にいつもよりも心地よく感じる。

 また、目を瞑る。

すると、色んなことが頭をいっぱいにする。

その中でも、強く思う事がある。

「水平線の向こうに行ってみたい。」

 そもそもは海に対しての強い関心から歩き回ったことからここへ辿り着いた。

 それからは何度もここへ来ては日が暮れるまで海を眺めたり描いたりしていた。

 その過程の中で1つのことに気づいたのだ。

 それは空と海が交わりその奥がどんな所なのかを僕はまだ知らないこと。つまりは水平線の先を僕はまだ知らないことだった。

 そこから生まれたのがこの思いというわけだった。

 そんな事を考えていた中でふと目を開けると、空は赤っぽくなっていた。

「よいしょっ」

 そろそろ帰ろうと思い、重い腰をあげる。

 そして帰路についた。

 家に帰ると、夕食が用意されていた。

 手を洗い、テーブルのそばに座る。

「いただきます。」

 そう一言をつぶやくと、

「はーい。」

 と返事が返ってくる。

 そして、母親からある言葉が僕に対してかけられる。その言葉に僕は思わず箸を置いた。

 それは

「お隣さんからアンタの大好きな"水平線の向こう側"へのツアー旅行のチケットを1枚貰った。」

 との事だった。

 僕は"水平線の向こう側"という行先も分からない抽象的な言葉にも関わらず二つ返事で

「行く!」

 と言う言葉を投げかけた。

 そして僕は憧れだった外の世界への切符を手に入れた。

 僕は早速準備を始めた。

 まだツアーの予定日まで、1週間もあるというのに…

 また、その1週間は僕にとって1年よりも長いものとなった。

 

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