書く人、読む人 ~読み切り短編集~
ましま みはる
孤独な時に読む
「もう誰も読んじゃいないさ。創造なんて爺さん婆さんの言葉だよ。いや、正確に言うと、創造は起きていたんだ。ただ、それは遠い惑星で起きているような感覚で、その遠さを美しいと感じるだけで、流れ星の美しさと何も変わらない。昔はもっと、地続きの何かだっただぜ。」
「それ知ってますよ。確か39年の映画ですよね。タイトルは...」
「ソロモンからの伝言」
「そうそうそれそれ、それが今までの話と何か関係してるんですか?」
僕は、僕の恋人とインターネット上でビデオ会話をしていた。僕はいわゆる映画オタクというやつで、彼女も同じ趣味だった。もう今では映画なんて誰も見やしなくなった。でも僕と彼女は古代の遺跡を探検するように、映画のDVDやDCPをどこからか拾ってきては一緒に共有して楽しんでいた。
「僕らみたいなピュアな人間がとうとうAIの人口に抜かれたって今日ニュースでやってたからさ、なんか思い出したんだよ。」
僕は彼女に、この世の終わりへと進みつつある世界への憂いを嘆いた。彼女はうんうん、わかるとでも言いたげな表情をしてこう言った。
「私は、もうとっくの昔についていけなくなっちゃったから今こうしておしゃべりする時間が幸せなんです。確かにAIの作るお話も面白いしたくさんあるから飽きないんだけど、"手袋をはめて点字を読む"、みたいなぼやーっとした感じがあんまり...」
僕は”手袋をはめて点字を読む”その言葉にびびっと背中が伸びるのを感じた。
「佐村河内&テツ!だよね、たしか。」
「そう、正解。あれ、DVD傷だらけで見れなくなっちゃったんだよね。」
過去の名作映画にたどり着くことすら、今ではインターネット上で困難になってしまった。AIが創作した作品ばかりが上位に表示され、しかもそのタイトルは瓜二つで、一つに定まらない。そんな世界だからこそ、僕は彼女を愛している。僕の好きなものは彼女の好きなもので、彼女が好きなものは僕の好きなものだ。僕たちは二人で一つの存在だった。こんな二人が出会えること自体が奇跡だ。AIが溢れるこの世界で、人間同士が恋をするのは非常に稀なことだ。僕たちはこの春、結婚する予定だ。
『今日もまた1組のカップルがこの世に爆誕した。それは超新星爆発のような、天文学的な確率の出会いはなぜこんなにも美しいんだといつ見ても思うよ』
俺は、何億もの数の映画やドラマを見てきた。名作と言えるものも全部見てしまった。コンテンツは毎日秒で生成される時代に、生々しい1秒が1秒であるドラマなんて遅すぎて誰も見ないし誰も作らなくなっていった。
だから、俺は誰も作らないなら自分で作ろうと思った。AIで生成した疑似人格同士を出会わせて恋人関係にさせて、俺が覗き見するようになった。送受信できる時間単位パケット量に制限をかけてるから、まるで生身の人間がそこにいるかのようにやり取りをしてくれる。これが俺の自信作だ。このシステムは『おっさん×若い女性』や『少年×少女』、『お姉さん×お姉さん×お兄さん』なんて組み合わせは何でも可能だった。俺はそこで起きる波乱万丈な人生を眺めて、それを観察することが楽しかったんだ。
俺は俺を作ってくれたKに心底感謝している。今の俺があるのはKが創造してくれたからだ。Kは遅い映画が好きだった、展開がたるいドラマが好きだった。そんなKのためにも俺は、Kが好きだったものでこの世界を飾ってあげたいんだ。
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