第26話 鬼
「あ、おーい! ねぇ、御札持ってる!?」
コーヒーカップから出てカメラマンさんとも合流したその直ぐ後のこと。
出演者の一人であるお笑い芸人の
手には未使用の御札を持っていて、まだ悪霊に取り憑かれているようだった。
まだ御札が未使用の出演者を探しているんだろうけど。
「すみません。この通りで」
背中に貼り付けられた御札を見せると、厚木さんは崩れ落ちた。
「マジかー! 時間あと何分ある?」
「えーっと、あと二十秒ですね。ご愁傷様です」
「くそぉおおおおおお!」
今度は完全に仰向けになって倒れ、そんな厚木さんに配慮することもなく無情にも時は流れる。残り時間がゼロとなり、厚木さんは強制的に脱落ということになってしまった。
俺が看取ることになってしまったのは残念だ。
「俺はもうダメだけど頑張ってね」
「ありがとうございます。厚木さんの分まで頑張りますね」
ゆっくりと立ち上がってとぼとぼと去って行く背中はどこか小さく見えた。
「さて、残り二十分か」
「切り替え早っ」
この調子で行けば逃げ切りは余裕かな。
そう思っていると懐から軽快な音が鳴る。
「連絡、さっきのか」
携帯端末に連絡が入り、脱落者の名前が報告された。
厚木さんを含めた三人の脱落者がいて、残りの人数は六人。
更に連絡が入り、残り時間が十五分を切ると鬼が更に三人追加される旨が報告された。
「鬼の数がこっちと同じになるのか」
ここからは少なくなった出演者が更に捕まりやすくなる。
俺は鬼がどれだけ増えようと捕まらない自信があるけど。
流石に六人の鬼を引き連れて逃げ続ける絵面は不自然極まりない。
他の出演者にも頑張って生き残って貰わないと。
「立て続けに連絡がくるな……あぁ、敗者復活戦」
再び携帯端末が音を鳴らす。
確認すると俺たちが逃げ回ったりミッションをクリアしているうちに敗者復活戦があったようだ。どんな戦いが繰り広げられていたかは本放送を楽しみに待つとして勝者は松ジェット飛行機さん。
一番最初に捕まったお笑い芸人さんが復帰してゲームに参加した。
この四十分、ずっと檻の中にいたんだ頑張ってほしいな。
「あれ? また」
間髪入れずにまた携帯端末に連絡がくる。
内容を確認すると松ジェット飛行機さんが捕まった、というものだった。
「えぇ? さっきの今で?」
なにしに出てきたんだ? この人。
多分、檻に戻ったら滅茶苦茶弄られるんだろうな。
テレビ的にはそのほうがおいしいのかも知れんが。
「まぁ、いいか」
生き残りは変わらず六人。
それから人数の変動なく五分が経過し、鬼の数が倍になった。
「おっと、いるいる」
遠目に鬼の姿を確認してそっと無人のクレープ屋に身を隠す。
気配を消して鬼が通り過ぎるのを待ち一息をついた。
「流石に厳しくなって来ましたね」
「どうですか? 生き残れそうですか?」
「もちろん。逃げ切りますよ」
鬼の足音が聞こえてこないことを確認して移動しようとしたところで空から一羽の小鳥が舞い降りた。俺の肩で羽根を休めたそれはカメラマンさんやカメラの画面にも映らない式神。八百人からの連絡だ。
「撮影中だ、そのまま反応せずに聞いてくれ。園内にいる怪異はあらかた祓い終えたんだが問題が起きた。鬼の一人が取り憑かれている。式神だけでは人体から怪異を追い出すことは難しい」
八百人が対象の近くに居れば話は別だが、出演者でもないマネージャーが園内を歩き回るなんてことは当然できない。この状況下、自然に鬼と接触できるのは出演している魔術師の俺だけ。
接触するということは捕まるリスクが高まるということで。
まぁ、なんとか上手くやろう。
まだ賞金を諦めるには早すぎだ。
「そろそろ移動します」
「あ、はい」
カメラマンさんにそう告げてクレープ屋の物陰から出る。
「道案内は任せてくれ。こっちだ」
小鳥の導きのまま行き先を決めて小走りに向かった。
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