わたしの中に推しがいる!

ふぉるく

プロローグ

 いま、私の目の前に、推しがいる。


 艶やかなブロンドのセミロングヘア。抜けるように白い肌。人懐っこく口角を釣り上げる薄紅の唇。きらきらと瞬く星を散りばめた碧い瞳は、宝玉のようにまん丸で。ほっそりとしながら柔らかそうな腕が胸の下で組まれ、はりのある豊かなバストを押し上げている。


 紛うこと無く、私の推しだ。推しの、鳥羽アルエだ。


 もうすぐデビューから1年。明るく元気で何事にも一生懸命、楽しいことが大好きで、いまや100万人を数えるファンたちを、親友と呼んで親しんでくれる、みんなのアイドル。その鳥羽アルエが、目の前にいる。


 ライブ会場の最前列で目が合ったとか、握手会で対面しているとか、イベント生配信で画面越しに見つめあっているとか、限界こじらせオタクの妄想みたいな、生ぬるいオチではない。ここは私の部屋で、ベッドにへたり込んだ私の顔を、鳥羽アルエが覗き込んでいる。


「ねえ、大丈夫? 聞いてる、サヤカ?」


 少しだけ困ったように眉をハの字に曲げ、どう反応していいかわからずにいる私の、私の名前を、ひい、そんな鈴を転がすような声で名前を呼ばれたことなんてない!


 でも、あり得ない。こんなこと、起こりえるはずがない。


 いまを時めく大人気アイドルがうちにいるはずがないとか、そういうレベルの問題ではない。物理的に不可能なのだ。なにをどうしたって、私と鳥羽アルエが直接相対することなんて、出来るはずがないのだ。


 なぜなら。


 鳥羽アルエはVtuberで、この物理現実に存在しているはずなんてないのだから。

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