両親の介護と頼りのないアンドロイド
ボウガ
第1話
70の父と80歳の母を持つアラフォーの娘。二人ともぼけているし、しかしぼけながらも生前の面影がある、何かあるたびに二人であつあつにべたつくのである。それも生前の記憶か。と思うものの、まあ介護の現場では一人で切り盛りするのは大変なもので、父はお風呂で小便をしたり、母は、ごはんを食べたり食べなかったりする。母の方は一人足が悪くたてないこともあるので、そうなると彼女が母を運ぶしかない。しんどくなってきた彼女は、決心をする。
「国の支援を受けるか」
そのころ、すでに近未来的な支援があった。介護する者がつけるパワードスーツ、最新型の貸し出しアンドロイドなど、機械をつかったサービスもある。人づきあいの面倒だと思った娘はアンドロイドを借りる事にした。
"チズちゃん"と名をつけたのは、母の名前に近いからだった。その年代の人々にもありそうな名前だ。チズちゃんが家にきてからはほとんど苦労が半分以下になり、困る事もなくなった。
「これはもう家族といえるかもしれない、いつか両親が亡くなったときには国にこれを返さなくてはいけないけれど、それまで、大切にしていよう」
だがそれも1年すぎると、当たり前になり、いい意味でも悪い意味でも家族のようになった。そして、チズちゃんにもお小言をいうようになる。そしてそのたびにいうのだ。
「ごめん、早くしろとか、もうちょっと考えろとかいっちゃって、チズちゃんはよくやってくれてるのに、仕事の関係でイライラしていたのは私だわ、申し訳ない」
がその半年後、父の耳が余計とおくなり、チズちゃんの手伝い(備え付けの集音機など)の利用があって初めて会話ができるようになったのだ。自分が話して伝わらない時などは、チズちゃんがより聞こえの言いように伝えてくれる。しばらくはそれでよかったが、数週間もすると妙な事も増えた。会話がうまく伝わってないことがあった。それにチズちゃんも、たまにカクカクと変な動きをするようになった。そこでまず国の機関に相談し、とあるサポートセンターに電話をすると、修理とメンテナンスの連絡がきた。
その間の介護は大変だったが、それよりもチズちゃんの事が心配だった。プログラムや内部AIの書き換えなどがあったら、あの親しみやすいチズちゃんの記憶がなくなってしまう、そう思うと自然と涙が出てくる。2週間ほどすると連絡があったので、忙しい合間を縫ってサポートセンターへと向かった。、会社は真っ白で綺麗な建物で、チズちゃんににたアンドロイドが受付さえしていた。そこで担当の人が、詳しく説明してくれた。まっている間、心配で心配でたまらなかったが、10分もたたないうちにとりつないでもらい、部屋に案内され思わずこういってしまった。
「チズちゃんは大丈夫でしょうか!!?」
「え、ええ……落ち着いて下さい」
あまりにすごい剣幕で迫ったようで担当の人はひいていたが、まずチズちゃんのカクカクした動作は、腕のモーターの故障ですでに取り換えたという。それからAIやプログラムに問題はないという。
彼女「では、どうして言葉がうまく伝わらないことがあるのですか」
担当者「これは、人によっては故障といえるかもしれません、ですが修正するかどうかは、覚悟家庭に任せています、要するに"あるプログラム"がうまく機能しすぎたのです、介護される人の気持ちになる機能が」
そういえば、チズちゃんの動きや、しゃべり方などは、介護される側の年齢や、性格に合わせて設定されている。それは最初に説明も受けた。
彼女「でもどうして、その機能が、うまく機能したといえるのです?」
担当者「これを見てください、"チズちゃん"が、会話をうまく取り次げなかったときのログです、いわゆるテキストデータ、会話を文章に起こしたものです」
彼女「これは……」
そこには、彼女の両親に対する愚痴がずらりとならんだ。一人で介護が大変すぎるとか、トイレでおしっこしなければ、とか、私の前でいちゃいちゃしないでとか、昔はかしこかったとか、確かに見ようによっては相手を傷つける言葉ばかりだった。
担当者「彼女のプログラム、いえ、すべての介護アンドロイドのプログラムの中に"介護者セーフティプログラム"がくみこまれていて、介護者の気持ちにそった介護を行うように設定されているのです、とはいえこの小さな愚痴が相手に伝わって問題があるとも思いませんし、このプログラムの修正はすぐにできますが、どうされますか?」
そう聞くと彼女は、少し間をおいてこういった。
「いえ、必要ありません、チズちゃんが来てから彼女のことを労り感謝することはしていたけれど、両親の介護が楽になり、チズちゃんに任せきり、頼り切りだった、チズちゃんだけじゃなくて、両親のことももう少しいたわってあげようと思います、せっかくチズちゃんが気づかせてくれたのだから」
両親の介護と頼りのないアンドロイド ボウガ @yumieimaru
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