第48話 テッペン目指せ!パフォーマンス大会。

 学園祭は金曜日と土曜日の二日間行われる。

 金曜日は生徒達だけで試験運転をする。土曜日は一般公開で、誰でも入る事が出来る。

 俺は金曜日の朝まで、薬を飲むかどうか悩み続けた。

 メイド服に着替える時間が来て、満を持して薬を飲み込んだ。

「つかさ。本当に飲むとはな。」りんのすけは心配そうな顔で俺を見つめた。

「いたたた。」俺は節々が痛くなる感覚に襲われる。

 体が縮み、髪が少し伸びた。俺はスマホで自分の顔を確認する。面影はあるが、女の子になっている。髪はウルフショートカットになっていた。

 メイド服に着替え、りんのすけにドヤ顔をした。

「どうだ?女の子になってやったぞ!」

 りんのすけと周りの男子達も俺の方を見た。

 ずるいぞ!何だそれ!と言う声が上がったが俺は無視をする。

「ふーん。」りんのすけは目を細めて俺を見た後、自分より背の低くなった俺を見下ろした。

 いつもより大きいりんのすけに俺は少し身動いだ。

「な、なんだよ!」俺は強がって睨んだ。

 りんのすけは俺の頭を鷲掴みにして、顔を近づけた。普段なら気になら無い筈だが、俺は何故か緊張した。

「なかなか可愛いじゃないか。」

 真顔で言われた俺は顔が熱くなる。両手で顔を覆って隠し、手の中で篭る声を上げる。

「うるせー!」

 声は元の声を高くした程度で、あんまり変わっていない様に感じた。

 りんのすけもメイド服に着替える。ウィッグを被り、黒髪のツインテールになった。

 美少年が美少女に変身し、男子生徒達は「おお!」と声を上げた。

「相変わらず、女装似合うな。」

 俺は久しぶりのりんちゃんを見て、ニコニコしてしまう。

「まあな。」りんのすけはドヤ顔で言う。

 開店時間になり、教室のドアを開けると行列が出来ていた。

 恐らく、りんのすけを見に来た生徒だろう。女子生徒が多かった。

 席は一瞬で満席になる。シフトが終わるまでの時間、慌ただしく働き回った。俺は目が回りそうな忙しさで混乱してしまったが、りんのすけは動じず、お客様に笑顔を向けて接客をしていた。

 金曜日のシフトを終え、制服に着替えた。サイズが大きいため、ズボンの裾を少し折り曲げた。

「この薬、パフォーマンス大会までには切れるかなあ。」

 俺は不安になり、りんのすけに聞く。

「知らん。」

「冷たいなあ。あ、お化け屋敷行くか?」

 隣のクラスの前を通り、俺は足を止めた。

 りんのすけは頷き、二人で一緒に入る事にした。

 真っ暗な迷路に、ホラーなBGMが掛かっている。学園祭のお化け屋敷だと少し馬鹿にしていたが、意外と怖かった。

 真ん中くらいまで進んだ所で、後ろで物音がする。俺は驚き振り返ると、ホッケーマスクを被ったムキムキの殺人鬼が現れた。

「ギャァァァアアアア!!」

俺はりんのすけに飛び付く。

「あれ?りんのすけじゃん。誰それ?彼女?」

ホッケーマスクを外すと、ひゅうがの顔が現れた。

「此奴はつかさだ。」

「え!つかさ?マジで薬飲んだのかよ?」

 ひゅうがは俺に顔を近づけ、よく見ようとした。今日は何でこんなに緊張するんだ。俺は高鳴る心臓の音を聞かれないように一歩下がる。目を逸らしながら俺は言った。

「ひゅうがも手伝ってるんだな。」

「うん!エキシビジョンマッチは明日だから、今日は手伝えるんだー!」

 ひゅうがは太陽の様な笑顔を向けた。普段より眩しく見える。

 後ろのお客さんが来てしまい、ひゅうがと別れて外に出た。

 りんのすけは俺の腕を引っ張って、オカ研の部室に入った。

「おい、つかさ。貴様、何か変だぞ。」

 りんのすけは疑いの眼差しを向ける。

「うん。俺もそれに気付いてるよ。何故かキンチョーするんだよな。」

「心も女の子になるのかな。」進一がボソリと呟いた。

「え!居たのか、進一!」俺は驚いて仰け反った。

「その薬、ちゃんと試した事無いんだ。他にも変な事無い?」

「うーん。りんのすけとひゅうがに顔を近づけられると、心拍数が上がるんだよなあ。」

「なるほど。」進一はメモに何か書き始める。

「そろそろ昼飯を食べるぞ。パフォーマンス大会に遅れる。」

 りんのすけは腕を組みドアに寄りかかりながら言った。

「わかった。進一!また何か分かったら教えてくれ!」

 進一はコクリと頷く。俺とりんのすけは部室を後にした。

 他のクラスが出している焼きそばやおにぎりの屋台で食べ物を買い、屋上で食べる。

 緊張感のせいで、俺は一人で勝手に気不味くなった。りんのすけは首を傾げて俺を見る。

「体調悪くなってないか?」

 りんのすけが心配そうな声で聞く。

「な、なってない。」俺は首を横に振りながら言う。

 りんのすけは俺に近づき、俺のオデコに手を当てた。大きなりんのすけの手は少しだけ冷んやりしている。

「熱があるんじゃ無いか?顔も赤い。」

「無いよ!顔が赤いのはアレだ。生理現象だ!」

 俺はりんのすけの手をオデコから離した。

「ふむ。やっぱり変だな。まあ、薬のせいだろう。」

 りんのすけは一口だけ残っていたおにぎりを食べ切った。

 校舎に入り一階へ下ると、和田が居た。知らない先輩と一緒に歩いていた。

「おい和田!そろそろ着替えに行くぞ!」

 俺は声を掛ける。

 長いもっさりした髪の毛で、ひゅうが程の背丈の先輩は振り返って俺を見た。すると指差して大声を出す。

「ぬっぺぽう!!」

 俺は首を傾げる。

「何だ、つかさとりんのすけか。女装しても、私の目は誤魔化せないのだよ!」

 和田はドヤ顔で言う。

「その先輩、紹介してくれ。」俺が頼むと、先輩の方から自己紹介してくれた。

「オレは左門時だ。君。何で妖怪連れてるの?取り憑かれた?」

 長い前髪の間から片目を出し、先輩はブツブツと言った。

 俺は自分の体を捻って見回した。背中に何か貼り付いている。俺は摘んで、先輩の目の前に突き出した。

「これですか?全然気づかなかった。」

「何が見えているんだ?説明しろ。」

りんのすけは俺の肩を叩いた。

「肉の塊みたいな見た目で、小さい手足が顔から生えてる。体は無い。肉が垂れ下がっている所が、目、鼻、口に見える。」

俺が説明すると、先輩が補足した。

「それはぬっぺぽうと言う妖怪だ。和田とオレ以外にも見える人居るんだ。なんか安心するな。その妖怪は余り情報が無いんだ。逃げ隠れが上手いから。」

「妖怪に詳しいんだな。」

りんのすけは腕を組んで先輩を見据えた。

「いや、別に。普通だけど。オレなんか中途半端な知識しか無いし。あ、でも、小さい頃から妖怪とかUMAに興味あって。ってゴメン。自分の事ばっかり話して。興味無いよね。」

 左門時先輩は卑屈になってブツブツと呟いた。

「サモン先輩とは塾が同じで仲良くなったのだよ。妖怪と話しているのを見かけて声を掛けたら意気投合したのだ。」

 和田はメガネをクイっと上げる。

「ほう。興味深い。今は着替えを急ぐ。勧誘はまた後日行わせて貰おう。」

 りんのすけは更衣室へ入って行った。俺は先輩に頭を下げてから更衣室へ入る。

 衣装はやはりブカブカになっていた。裾を折って、転ばない様に気をつけよう。

 りんのすけと和田と一緒に更衣室を出ると、ひゅうがと野崎先輩と会った。

「待って!一緒に行こう!」ひゅうがに言われ、更衣室に戻る。

「つーちゃん、女になってるじゃん!まだ妖怪連れてるし。」

 野崎先輩は着替えながら俺に話しかけた。

「いろいろありまして……。まだって、この前も憑いてました?」

「公園行った時から憑いてたけど、大した妖怪じゃ無いから無視してたわー。」

「早く言って下さいよー!」俺は項垂れた。

「うんちじゃ無くて妖怪踏んだんじゃね?」

ひゅうがは笑顔で言う。

「あの時か。うわー。いつかいなくなるかなあ。」

 俺が少し落ち込んでいると、着替え終わった野崎先輩は俺の前まで来て壁ドンした。怖い。

「オイ!妖怪野郎。つーちゃんに変な事したら、一発で消し飛ばしてやるから覚悟しとけよォ?」

 ドスの効いた低い声で睨みながら言う。睨まれたぬっぺぽうは、俺の背中に隠れた。

「まあ、雑魚そうだし、今のところ害はないから放って置いて大丈夫だぜ。」

 野崎先輩は歯を見せて笑い、俺の頭を軽く撫でた。

「ありがとうございます。」俺は頭を下げる。

 その後、一緒に講堂へ向かった。

 出番が近づき、舞台袖で待機する。

「ひゃあ!緊張してきたー!」

ひゅうがは胸の辺りを擦りながら言う。

「へえ。ひゅうがでも緊張する事があるんだな。」

りんのすけは珍しいモノを見る様な目でひゅうがを見る。

「おれ、試合の前とか毎回緊張してるよー。始まればどうって事無いけど。」

 俺と和田は緊張でガチガチに固まっていた。それを見て野崎先輩は指を刺して笑う。

「ハハハ!ロボットみてェな顔してンじゃん!どうせこの一発しか無ェんだから、気イ抜いとけよ!」

「そう言われても難しいのだよ!ぐぬぬ。」

 和田は悔しそうな顔をする。

 後ろからそっと手を添えられ、振り返ると山河先輩が居た。

「付き合ってくれてホントにありがとね!全力でたのしもー!」

「はい!ありがとうございます!」

 俺は山河先輩の笑顔に救われ、お礼を言った。少しだけ緊張が解けた気がする。

 袖で待機していると、MCの放送委員がマイクで呼んだ。

『続きまして、マジ研とオカ研のコラボによるダンスパフォーマンスです!曲名は“ハウユーライ◯ザット”!』

 呼ばれて四人はステージに出る。

 客席から割れそうな程の声援が聞こえる。

 四人は定位置に着くと、照明が切り替わり、カラフルなスポットライトが四人を照らした。

 音楽が流れ始め、りんのすけが堂々と中央に座りダンスを始める。

 客席からはペンライトが見えた。四色の色が見える。ファンクラブの影響か、黄色と赤色のペンライトを持っている生徒が多く見えた。

 ひゅうがの見せ場になる。客席から見て左端から前に出てリードをし、直ぐに下がって、りんのすけがセンターになる。またセンターが切り替わり野崎先輩が前に立つ。

 センターが切り替わる度にペンライトを器用に変えている生徒も何人か居た。

 袖から見ても分かる観客席の熱気に、心が震えた。

 山河先輩がセンターに立つと、名前を叫ぶ生徒がいた。山河先輩はアドリブで投げキッスをする。観客席のボルテージはさらに上がった。

 最後のサビで、俺と和田が出る。一度後ろに下がってから前に進み、ステージのギリギリまで前に出て踊り切る。

 最後は六人が横一列に並び、しゃがみから立ち上がり決めポーズを取る。

 講堂に広がる大きな歓声。ステージは大成功に終わった。

 袖に下がると、六人で抱き合って成功を讃えた。和田は感極まって号泣している。

「めっちゃ楽しかったー!パイセンもカッコよかったっす!」

 山河先輩は野崎先輩に肩を回した。

「あんなに盛り上がると思って無かったわ!スゲー!俺達最強じゃね?」

 野崎先輩も山河先輩に肩を回して喜ぶ。

 一頻り讃え合うと、講堂の観客席に移動した。六人で固まって座ると、周りの生徒達から称賛の声を貰った。

 六人共、笑顔が止まらなかった。

 観客の投票で勝者が決まる。全ての演目が終わると、椅子に置いてあったアンケート用紙に記入し、係の生徒に預ける。

 結果発表前の休憩時間で着替えを済ませ、また席に戻った。

 MCが話し始める。

『それでは!第◯◯回静丘県立静丘学園高等学校文化祭、前夜祭のパフォーマンス大会の結果発表を致します!第三位は、軽音部チームアルファ!』

 呼ばれた代表者が舞台に上がった。観客席から拍手が起こる

『第二位は、漫才コンビ、ギャロットフィッシュ!』

 今度は二人一緒に舞台へ上がった。また拍手が起こる。

『そして、優勝トロフィーを手に入れるのはぁ!?……。』ドラムロールが鳴る。

『マジ研だぁぁぁぁ!!』

 観客席から歓声が上がった。オカ研メンバーは笑顔で先輩達を送り出した。山河先輩と野崎先輩は舞台に上がる。

 優勝のトロフィーを手にした二人は満面の笑みを浮かべた。観客席から拍手と口笛が鳴り、パフォーマンス大会は幕を下ろした。

 学園祭の一日目が終わり、生徒用の控え室で帰り支度を進める。学園祭の間は教室が使えないため、二クラスで一部屋の控え室が用意されている。

 俺はまだ女の体のままだった。

 この姿のまま家に帰ったら、家族に説明がつかない。俺は途方に暮れた。

 その時、りんのすけが声を掛けてくれた。

「家に帰るのを渋っているだろう。それなら、僕の家に泊まれば良い。」

「良いのか?」俺は顔を上げりんのすけを見つめた。

 りんのすけは頷き、俺は握手をしてお礼を言った。それを偶然目撃していたひゅうがが、話に入って来る。

「それなら、おれも一緒に泊まる!男と女が二人きりになったら危ないだろ?」

「つかさの中身は男だぞ。僕が変な気でも起こすと言うのか?無礼な奴だな。」

「体は女だろ?風呂の時だって、トイレの時だって、隙がありまくるじゃんかあ!絶対おれも泊まる!」

「ふん。勝手にしろ。お前こそ変な気を起こすなよ!」

 りんのすけとひゅうがは睨み合った。

「皆んなでお泊まり会出来るの楽しみだな。はは。」

 俺は苦笑いを浮かべながら、二人を宥めた。

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