迷宮見廻りバズ・ニンジャ:横暴腹黒幼馴染配信者からクビにされた裏方モブ忍者が、ギャルのサムライに拾われて真の居場所を見つける話。

ヤマモトユウスケ

一之巻:横暴腹黒幼馴染配信者からクビにされた裏方モブ忍者が、ギャルのサムライに拾われて真の居場所を見つける話。

第1話 クビになるニンジャ



「モブ蔵、あなたはクビです」


 冷たい声が通路に木霊した。

 荒く削られた岩肌の洞窟。そこかしこにへばりついた光るこけによって、そこに立つ二人の人間の姿が、ほのかに照らされている。


 一人は男。黒い忍者装束に身を包み、頭巾で顔を隠したいかにもな忍者ルックの男子高校生――俺、加藤かとう段蔵だんぞう


 もう一人は女の子。白を基調とした、西洋の騎士鎧とウェディングドレスを組み合わせたような戦闘用配信衣装ダイブドレスに身を包んだ、黒髪ボブカットの女騎士――上杉うえすぎ姫虎ひめこ


「あなたはカメラに映らない。配信に出ない。影ながら私をサポートするだけの、裏方スタッフに徹する……、そういう約束だったはずです」


 冷たい敬語で淡々と責めてくる。姫虎は旧華族の家の出で礼儀正しいが、なかなかキツイ性格をしている。……幼馴染の俺だから知っていることだ。視聴者リスナーは知らないだろう。


 そう、姫虎はダンジョン配信者だ。それも、かなり人気がある方。

 配信を始めて一年ながら、その清楚で美しいルックスと、棘付きメイスを使ったワイルドな戦闘スタイルが話題となり、登録者五十万人を数える人気ダンジョン配信者ダイバーである。


「モブ蔵、あなたは契約を破って余計なことをした。なぜですか」

「……危機に陥っている者がいた。とっさに体が動いてしまったんだ」


 それに対して、俺は姫虎のスタッフに過ぎない。全身真っ黒な裏方。配信を手伝う、モブなのだ。


「私を助けるためのあなたが、どうして他人を助けるのですか。私に雇われている自覚がないのですか」


 なのに、モンスターに襲われている女の子を、とっさに助けてしまった際、姫虎の配信用カメラにばっちり映ってしまったのだ。

 姫虎の怒りはもっともだ。しかし……。


「あの子を助けられるのは、俺だけだった。勝手なことをして、カメラに映ってしまったのは、本当に悪かったとは思うが」

「見捨てればよかったではありませんか。ダンジョンに夢を見た初心者が、ちょっと殺されかけていただけでしょう。自業自得です」

「姫虎、それは……!」


 その発言は、さすがに聞き逃せない。


「死にかけている者がいて、自分に助けられるならば、助けるべきだと俺は思う。たとえ仕事中であっても、だ」


 胸に手を当て、真摯に告げた言葉に、姫虎は「ふーん」と爪を眺めた。


「要するに、相手がカワイイ女の子だったから助けたんでしょう?」

「違う。そんなことは言っていない。たしかにカワイイ女の子だったが」

「モブ蔵は普段から私のダイブドレスの胸の隙間とか脇の隙間とか太もものあたりとかよく見ていますものね。気持ちわる。やっぱりカワイイ女の子を見ると、ちょっかいをかけたくなるんでしょう」

「違う。見てない。姫虎によこしまな視線を向けたことはない」

「いいえ、あります。いっつも私の太ももを見ています。かなり。頻繁に。大方、あのギャルっぽい女の子のおっぱいが大きかったから、引き寄せられて行ったのでしょう? 不埒です。下品です。あー、汚らわしい」

「違う。引き寄せられていない」

「でも大きかったですよね?」

「……」


 まあ、それは、はい。大きかったと思う。事実だ。

 なにも言わないでいると、姫虎が目じりを吊り上げた。


「否定しないということは、やっぱり大きい方が好きなんですね? 最低です。最悪です。あーあ、こんな性欲にまみれたけだもの・・・・が幼馴染だなんて、私も運が悪いものです。何年も面倒を見てきた私って、とぉっても優しいですよね?」


 面倒を見た、って。

 どちらかというと、俺のほうが面倒を見てきたつもりだが……、いや、みなまで言うまい。実際、この一年間は雇用関係で、俺の雇い主だったのだ。バイト代だって出してくれていた。


「でも、まあ? そんな優しい私ですから、みっともなく泣きついて『俺には姫虎様しかいないんです、なんでもします、一生一緒にいてください』って足の甲にキスするなら、再雇用してあげてもぉ……」


 一年間、この横暴でわがままな幼馴染に、よく付き合ったほうだと思う。

 学校が休みの土日や長期休暇どころか、場合によっては放課後まで日本各地のダンジョンに連れ回された。


 もちろん、人命救助をしたためにクビを切られるのは、納得いかない部分もある。

 だが、雇用主の意向通りに動けなかったことが、忍者としては失格なのもまた事実。姫虎の意向通り、まったくカメラに映らないまま人命救助を成し遂げる実力があれば、問題なかったのだ。

 つまり……、俺の修行が足りないのである。


「姫虎の怒り、もっともだ。俺が悪かった。忍者として恥ずべきだと思う」

「そうでしょう、そうでしょう。さあ、足の甲に口づけを」

「だから、本日これにて上杉への勤め、降りさせていただく。姫虎、今まで世話になった。ありがとう。では」

「え゛っ? ちょっ、待っ――」


 姫虎に背を向け、ダンジョンの入り口まで忍者ダッシュで引き返す。

 まずは己の未熟を見つめ直すとしよう。

 そう、具体的には――この一年のこと、それから今日のことを。


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