第8話


「いや、死ぬわけないわよぉ!」

「わっマカさんが杖を!」

「電撃魔法でなにすればいいの!」

「ひょお! おぬしやる気だな。自分に魔法を食らわす覚悟はあるか!?」

「死なないならなんでもいいわ!」


 なんとマカは急に指揮棒のような杖を取り出して、息絶え絶えながらも懸命にわらわの指示を仰いでくれた。


 えらい、えらいぞマカーーーー!


 おぬしドライなヤツだと思ったが、意外と骨があるではないか!


 そういう人間がわらわは大好きだぞ!


 気に入った。おぬしにも四天王の座をあげよう。


 そうだなぁ、土の王の座をセーラと一緒に守るといい。


 ハッハッハッハッハッハ! 魔物軍も安泰だなぁ!


「ではマカよ、脱げ」

「なんでよぉ」

「いいからいいから」

「もしかして電気で心臓にショックを与えて正常化するのか」

「お? 回復魔法の常識は知らぬくせに、よく処置がわかるのぅマクセル」

「前世の世界じゃありふれた知識だからな。セーラ、マカを脱がしてあげろ」

「で、でも後でマカさんに殺され……」

「ぐふ! し、死ぬ」

「うぅ、なんであたしが……」


 意を決したセーラはガバっとマカのローブをめくりあげた。


 魔法使いの代名詞のごとく平凡なローブを着ていたのですぐに裸にできると思ったが、なんと下にはまだ服を着込んでいた。


 ええい、なんじゃこりゃあ。


 何枚服を着ているのだ。


 セーラも脱がせるのに手間取っているではないか。


 一刻を争う事態なのにどうしたものか。


 なんかこう、服を瞬時に消したりとかできればな。


 ………………。


 そうだ、シャム!


 おまえマカの厚着をワープさせろ!


「もう、マカさんなんでこんな重ね着してるんですか!」

「だって最近太っててボディラインがぁ」

「のう、シャムに服だけワープさせればいいのでは?」

「みゃ、そういえばそうだミャ」

「すっかり忘れていた。よし、スキル発動ワープ

「ほいにゃ」


 マクセルが一言発するとマカの衣服はどこぞへと消えて生まれたままの姿で転がされた。


 いや、脱がせすぎじゃ。


 上半身だけ脱がせれば十分だったのだが。


 それに仰向けで寝かせてたから、その、何もかも見せつけておるのじゃ。ぽっ。


 しかしマカよ。


 デカいな。


 マカじゃなくてデカじゃ。


 ………………。


 まって、またわらわのセンスが光ったわい。


「ふくっくっくっく……」

「マクセル! マカさんの裸見てないよね!? ちゃんと目を隠したよね!?」

「やめろセーラ、俺の目に指を突っ込むな」

「みゃあー服どこへ飛ばしたかにゃー」

「あの、恥ずかしいから早くどうすればいいのか教えてねぇ」

「おおそうじゃった。まずは杖を心臓に向けるのじゃ。そしてわらわのリズムに合わせて電気を放つ!」

「簡単に言ってくれるわねぇ」


 とか言いながらもマカは自分の技量に自信があるのか、はたまた己の心臓の不整脈を痛感して死を感じたのか、すぐにわらわの指示に従った。


 でははじめよう、蘇生のリズムを。


 地獄の稲妻に打たれても復活できる、偉大なるリズムを。


 今こそ奏でようではないか!


 今こそ教えようじゃないか!


 来たれ天啓!


 我の頭に”Rhythm”をッッッ!


 ……きた! この音頭じゃ!


 ──────もしもしかめよ!


 ──────かめさんよ!!!


「もっしもっしカメよォォ!」

「カッメさっんよォォォォ!」

「……あの、魔王さん、いきなり何を」

「乗らんかァ!」

「え!?」

「生きたければこのリズムに……ああっ次の歌詞が頭に! せっかいっのうっちにィィィ!」

「よく分からないけどわかったわ! 電撃!サンダー 電撃!サンダー 電撃!サンダー

「ひぇっ、マカさんが童謡に合わせてビョンビョン跳ねてる……」


 すごいぞマカ!


 なかなか自分に向けて魔法を打つなど肝が据わってないとできないことだ!


 しかしマカよ!


 おぬしホントに太ってるな!


 おぬしが飛び跳ねるたび、この頑強な城の床がミシと悲鳴をあげておる!


 土の王会心の出来の我が城が!


 ミシと! ミシミシと!!


「いや、そんなに太ってないってば! えい」

「痛ったぁ! おい、その杖で殴るな! 痛いぞよ!」

「生き返った……すごいよマカさん、もう元気に動けるなんて」

「ふん。どうせ私はデブよ」

「終わったのか? 俺はもう目隠し取ってもいいのか?」

「マクセルはまだダメにゃ。おい魔王、にゃんか着るものにゃいのか」


 そうは言われてもブヨブヨ丸が着れるようなデカパンとか持ってないぞよ。


 だってわらわ……


 めちゃくちゃスタイリッシュな体型だから────!


 すまんのう!!


 すまんのう!!


 わらわが痩せててすまんのう!


 わらわSサイズしか持ってなくてすまんのう!


 LLサイズにまったく縁がなくてすまんのう!


「そうじゃ! 思い出した!」

「なにをよぉ」

「下の階にビッグウィザードたちが使ってた部屋があるから、そっから好きな服を持っていけ」

「ビッグウィザードですって!? 私はあんなに太……」

「わかったニャ! 取ってくるにゃ〜」

「マクセル、どうせならあなたの好きな衣装をマカさんに着せようよ。ほら行きましょう」

「おいセーラ、俺は服など分からん……」

「お〜気をつけてな〜。床がミシミシなってて抜け落ちるやもしれんからのぅ!」

「あなたたちねぇ」

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