ある大魔王の旅のはじまり
エシャーティ
第1話
「報告ー! 勇者一行がついに四天王の最後の一人を討伐しました!」
またか。
ここ数日、毎日のように同じ報告を受けている。
昨日は四天王のナンバー2、おとといは魔物軍海上司令、その前は……
もう思い出すのも難しいほど、次々とわらわの支配網が切り崩されていた。
「ついに四天王も全滅か……しかしヤツは四天王の中でも最弱だったのに、今まで後回しにされてたのだな」
「はい、問答無用で弱かったです。だって土属性ですから」
「土属性なのに最後まで後回しか」
「はい、なぜか土属性を後回しに」
土属性だったら普通なら最初にやられそうなものだが……いや、別にわらわは土属性は嫌いじゃないぞ?
でも土属性だぞ。弱いよ。うむ。
まあそれは別にいいとして(元より土属性の四天王なんて期待していなかったし……)問題は勇者率いる一行の意味不明な戦闘力である。
魔物たちからの報告によると勇者はたった3人の仲間しか連れていないのだという。
……なぜ!?
我が軍は数千万の魔物と、絶対的カリスマを発揮する魔王わらわによる圧倒的統率で長年人間どもとやり合っていたのに、なんでたった4人で戦局を台無しにできるのだ!?
もっと大所帯でもよかろうに!
「うむー、勇者め一体どんな手を使っているのだ」
「それなんですが魔王さま、土の王が決死の覚悟でわずかながら情報を残してくれました!」
「なにっ、土属性なのに有能!?」
「はい! 土属性なのに有能です」
す、すごいな土の王!
今まで不明瞭だった勇者たちの情報を得て、なおかつこちらへ送るとはとんでもない快挙だぞ!
土属性のくせに生意気だな!
弱いけど見直したぞ土の王!
「では早速教えてくれ」
「どうやら勇者は”スキル発動!”という謎の掛け声を発すると予測不能な攻撃をしてくるようです」
「スキル発動だと?」
「はい、スキル発動」
「肝心のスキルは一体どういうものなのだ」
「全然わかりません。大事な部分は報告にありませんでした。やっぱ土属性ですから」
「そうだな土属性だからな」
期待しただけ損だったようだ。やはり土属性に過度な期待をしてはいけない。
結局どう対策を取ればいいのか思い浮かばぬまま、今夜も頭を悩ませた状態で眠ることになりそうだな。
報告を終えた我が右腕とも言える有能な魔物を帰し、少し気分を切り替えるためわらわは窓辺から外を眺める。
わらわの視界に見慣れた海が、山が、森が、空が見える。
たった数日前まではこの風景全てがわらわの手の中にあった。
それなのに……それなのに!!
「今やこの城しかわらわの居場所は無くなった」
「三ヶ月前はあの海へ避暑をしに行った」
「二ヶ月前はあの森でキャンプを楽しんだ」
「一ヶ月前はあの山にわらわの銅像を立てた」
「それが、もう誰一人あそこにはいないのだ」
「一緒に泳いだ海上司令も、自らキャンプファイヤーの炎を務めた四天王ナンバー2も、勝手に銅像を立てた土の四天王も……」
たった数日でッッッ!
何もかも奪われたッ!
あんなに栄華を誇った四天王の三人も、誰一人としていないッッッ!
海上司令の水の王も、ナンバー2の火の王も、最弱の土の王も!
……いや、待て。
「そういえば面白半分であやつらを四天王に任命したが、三人しかおらぬではないか」
「なんで今まで誰も指摘しなかったのだ」
「……」
「いや、誰も魔王の決定に意見できぬわい」
窓から吹き込む冷えた風に煽られると、現実逃避のような独り言をほざいてしまう。
冷えるのう、冷えるのう。
数日前までこんなに冷たい風ではなかったのに。
どうしてこんなに寒いのだ。いつの間に世界はこんなに冷たくなったのだ。
勇者が現れるまでは人間など恐るるに足らぬ存在だったのに、今や世界は人の天下も同然となった。
わらわの下した指示が悪かったのだろうか?
教えてくれ、わらわがみなを無駄死にさせたのか。
答えてくれ、誰でもいいから答えてくれ……
世界をこんなに冷たくしたのはわらわなのか、それとも勇者たちなのか。
「教えてくれよ、みなのもの……」
「ぐすん」
「魔王さま、エアコンつけたまま窓開けるともったいないですよ」
「うわ!」
「もう四天王がいなくて城のエネルギー源はあなた頼りなんですからね」
「そなた、さっき帰ったんじゃ……えっくし!」
「ほらほらエアコンと外の風で体が冷えちゃった。もう早く寝てください」
「う、うむ」
めそめそ、こんなに冷えるのは自分のせいじゃった。
わらわは悲しいよ。しくしく。
なんだか魔王なのに乙女心が傷ついた気がするけどまあいいや。わらわも女の子なんだしたまには人前で涙を見せてもいいでしょう。
四天王はみな死んだが、わらわにはまだコイツがいるのじゃから。
コイツがいる限りは安心して眠ることくらいできよう。
「スピースピー」
「眠りましたか、魔王さま」
「グガーグガー」
「どうかごゆっくり休んでくださいね」
「あなたは強いが……優しすぎますから」
「頭を抱えるのは我々雑兵だけで十分」
「では失礼しますね、偉大な魔王さま」
「あと、もう少し静かに寝れませんかね」
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