【書籍試し読み増量版】神様のミスで異世界にポイっとされました ~元サラリーマンは自由を謳歌する~1
でんすけ/MFブックス
第一章 魔獣の森 (1)
なんとか仕事をやっつけ終電二本前の電車に乗るためにホームへ駆け降りると、丁度ドアが閉まるところだった。
まぁ、良い。次の電車でも終電一本前だ。とりあえず並ぶ。当然、先頭だ。
さて明日は土曜日。休みだ。
最近、仕事が立て込んで休日出勤が続いたけど、やっと土日とも休める。
明日は何をしようか? と考えていると、隣にも後ろにも人が並んでいく。
う~ん、久々にソロキャンでも行くかな。新しいテントも買ってからまだ使ってないし。場所はどこにするか? と考えていると後ろの方が騒がしい。酔っ払いが騒いでいるようだ。こういう時は振り返らずにいることが肝要だ。万が一、酔っ払いと目が合って因縁でも付けられたら面倒だ。
うん、明日行くのは久々にあそこにしよう。あのキャンプ場に行く手前のスーパーで食材を買っていけば良いな。ああ、そろそろジ○ニーのオイル交換もしないとな。
洗濯や掃除は日曜日に早く帰ってからやれば良い。うん、そうしよう。
それにしても後ろが騒がしい。
おっ、電車の到着を告げるアナウンス。先頭車両が見える。
「きゃー!!」と後ろから声が聞こえたかと思うと、ドンッと背中を押されてホーム下へと投げ出される。
なぜかスローモーションになっている。運転士が驚いている。目が合った。
これは死んだな。
と思ったら白い霧が立ち込めた空間にいた。霧の奥にはかなり強い光源があるようだ。
「申し訳ないが君は死んだ」と声がする。
「えっ、あ」
「お
「あの、ちょ……」
「そうだな、火・水・風・土・光・闇の六属性魔法と誰でも使える無属性魔法。そして君が使えるか分からないが、無属性魔法の派生である時空間魔法も付けよう。それと剣も使える素質も付けて体も強くして、魔力親和性も高めて、と」
「え、あの……」
「持ち物は一般的な服装に着替えも付けよう。あとはナイフと、他にもいくつか入れとくか、まぁこれで良いな。では我が世界へと来てもらう」
「え、あの、是非安全な……」
「ふむ、そうだな。慣れるまで時間は必要だ。たしかあそこはかなり安全な場所のはずだ。そうしよう。うん、では行け」
「え、あの説明をき……」と言うが、途中で景色が変わる。
えっ? ここどこ?
見渡すと森のようだ。周りには三~四人が手を
どこ? 説明とかは? 無いの?
ふと足元を見ると革で出来た大きめのリュックがある。リュックを
たしかに目線も低くなっている。声を出してみるとまだ声変わり前だ。十一か十二歳くらいかな?
服装はゴワゴワした黒い長袖のシャツと紺色のズボン。いずれも厚手だ。ズボンはゴムやベルトではなく通した
シャツの上には太いベルト。小さなボタン付きのポケットやら何かを差すところやら色々ついている。
そしてシャツの上から生成り色のフード付きポンチョを羽織り、マフラーをしている。
靴は頑丈そうな革製で、厚手の靴下も履いている。
頭を触ると短めの髪型。帽子などは無い。ポンチョのフードを被るのだろう。
リュックの中を確認する。
カバーを開けて巾着のように縛られている紐を解く。
長袖のシャツが一枚にズボンが一枚。パンツが二枚、靴下が二足。手拭いが二枚。小さな巾着が一つにゴツいナイフが一本。
そういえばと思いナイフをベルトに差す。ピッタリだ。
小さな巾着の中身を確認する。
巾着には白い石のような塊が入っている。
多分あれだ。少し
全て
次はどうする。と考えようとした時に違和感に気付く。
動物の気配がない。鳥の鳴き声や小動物の声なども聞こえない。
近くの草むらを見ても虫さえいない。
不思議な森だ。
たしかに安全そうだ。
さて俺はキャンプが好きだ。と言ってもブッシュクラフトとかサバイバルの経験があるわけではない。動画で見たキャンプグッズを買い、安全・安心が確保されたキャンプ場で優雅なソロキャンプを楽しむ。そんなもんだ。
だけど今回求められるのはサバイバル能力だ。
たしかにちょっとした興味本意でそんな動画などを見たことはあるが、サバイバルはやったことが無い。今の所持品では火も起こせない。
どうしよう?
そうだ水だ。まずは水を探そう。
耳を澄ましてみるが水の流れる音は聞こえない。
どちらに向かって進むのが正解かな? まぁ、考えてもしょうがない。適当に行くか。と草を踏みしめながら歩き出す。
しばらく歩くと草が生えていない場所に着く。道か?
右を見ると道っぽいのが左にカーブして続いている。左を見ると右にカーブして続いている。
これは一周回れるのか?
道のようなものに目印として少し大きな石を積み上げる。
ヨシ、この道のようなものに沿って歩いてみよう、と右へと向かう。
時計がないので正確には分からないが三時間ほど歩いただろうか? 目印を発見。やはりグルっと一周回ってきたようだ。まぁ、確認出来たからヨシとしよう。
多分三時間歩いた。たしか人間の歩く速度は大体時速四㎞。三時間で十二㎞かな。
円周十二㎞とすると……直径が約四㎞ぐらいかな。半径は二㎞ぐらい。中心部へは歩いて三十分ぐらいかな?
中心部へ歩いてみるか。と再び歩き出す。
三十分ほど歩くと視界が開けて空が見える。中心部には巨木は生えていない。
でも色々と低い木が生えている。他にも色々と生えている。なんだろうか?
この開けた場所は直径三百mほどの円形。そのあちらこちらに色々な物が生えている。もちろん、生き物の気配は無い。
赤い実がなる木がある。近づいてみると、リンゴだな。多分。
その実を一つ取ってみる。匂いを嗅ぐ。
うん、リンゴ。
一
「
思わず声が出る。美味い美味い。そのまま黙々と食べきってしまった。
リンゴの木は三本。他には……
みかん?
一つ取る。匂いを嗅ぐと間違いなくみかんだ。
皮を
うん、甘いみかんだ。美味しい。
三つも食べてしまった。
みかんの木は四本。
目線を下にすると……
トマト?
赤く熟した物を一つ取る。
一齧り。うんトマト。これも美味しい。
思わずリュックから岩塩を取り出して、ナイフで削ってトマトに掛けて食べる。
美味い! これも甘みが強くて美味い。
他にもキュウリ、ナス、トウモロコシ、ジャガイモ、サツマイモ、玉ねぎ、長ネギ、ニンニク、ショウガ、里芋、白菜、キャベツ、レタス、小麦、大豆などなど。
ハーブ類も豊富。
他の木にはさくらんぼ、ブドウ、桃など多数。
少し目線をずらした時に気が付いた。倒木が
近づいて見てみると……キノコ類が生えている。
多分、
でもキノコは怖いから食べられない。
ここはなんなのだろうか? 誰かが管理しているのかな?
う~ん、謎だ。
その他にも木があり、その木に見たことのない実がなっている。
これも怖くて食べられない。ほっとこう。
そういえば……水場が無い。どうするか?
う~ん。
うん? 何か忘れている? 何だ?
ああ、神様が魔法がどうたらこうたら言っていたな。
魔法が使えるの?
ではまずはアレだ。異世界といえば定番だね。
「ステータスオープン」
……。何も起きない。気を取り直して、
「ステータス」
……。うん、次いこう。
「メニューオープン」
……。次。
「メニュー」
……。うん、これはアレだ。ステータスを見るには教会とかギルドとかそういう場所で水晶とか魔導具とかギルドカードで確認するやつだな。そうに違いない。オホンッ。
ふふふ。たしか火、水、風、土、光、闇の六属性魔法に無属性魔法、それに時空間魔法が使えるとか神様が言っていたな。
では水魔法で水を出せば良いのだ。
ふふふ。
では水魔法を使ってみようか。
ふふふふ、今日から俺は本物の魔法使い。
それではやってみようか。
右手を前へいっぱいに伸ばして
「水!」
ポタッ。
えっ……。まぁ、初めてだからな。
「水!」
ポタッ。
……。
「水!」
ポタッ。
イメージが足りないのか……蛇口を
「水!」
ポタッ。
……。
「水!」
ポタッ。
ぐぬぬぬ。
「水!」
ポタッ。
一時間続けた結果……垂れる
大きくはなったけれど、のどを潤すにはまだ足りない。
あまりの結果にリアルorzになる。こんなはずでは……。
ふふふ、でも俺はめげない。一時間で三倍の大きさになったのだ。ポタッでも。ならばもっと訓練を続けよう!
と半日掛けて直径一㎝の水の玉になった。
ふふふ、成長しているぞ。
もう夕方なので、適当に野菜や果物をもぎ取り、夕食にする。健康的な食事だ。でも、肉が食べたい。
日が暮れて夜空に月が見える。
周りに灯りがないと月の光が明るく感じる。
木に背を預けて、
「水!」
ボタッ。と繰り返すこと四時間。
水の球が直径二㎝となる。順調順調。最低でも直径五㎝になるまで頑張ろう。
おやすみなさい。
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