第5話

一同はウィンターウィスプに向かった。ウィンターウィスプに行くには山を越えなければならなかった。


「しかしこの山は高いなぁ。どこまで登ればいいんだろ?」


とブロギーが言った。


「それよりも寒さがヤバくないですか?」


とホッパーが言った。


「そう言えば精霊さんがくれたミノムシの衣を着てなかったな。今から着るか。」


とフロギーとホッパーがミノムシの衣を着始めた。


「おお!これは凄いですね!」


とホッパー。


「確かに暖かい!」


感動するブロギー。


「君らは体温調節ができないもんね。私には自分の白いふさふさの衣があるからね。」


と羨ましさと強気を兼ねた言葉をラヴィが発した。


三人は山をようやく乗り越え山頂へと近づいた。


「さて、そろそろ頂上だ。下は一体どうなっているのかな?」


とブロギー。


「うわー!真っ白!私の毛並みものけぞるよ!」


とラヴィが言った。山から下は一面が真っ白であった。晴れていたからよかったものの、これで天候が荒れていたら皆遭難するところであった。


「ここから先がウィンターウィスプなんですね。」


とホッパーが言った。


「とりあえず麓の街まで降りよう。」


とフロギーが言って一同は山から下りて行った。


「ここが街に当たる場所なのか?草木はほぼほぼ雪に覆われているぞ?どうやって食料を確保しているんだ?」


とフロギーが不思議がった。


「確かに。この街での気配は何かがおかしい。とりあえず生き物を見つけたら声をかけよう。」


とラヴィが言った。


しばらく進むと、針葉樹に覆われた下に『ウィスプ亭』と書かれた場所があった。


「ウィスプ亭?なんでしょうね?行ってみます?」


とホッパー。


「行ってみようか。」


と一同が行ってみた。


「ようこそ、ウィスプ亭へ。あなたたちは雪月信仰の方ですか?」


と白いフクロウが言ってきた。


「いいえ、違います。」


とフロギー。


「私は月光信仰の者ですが。」


とラヴィ。


「そうですか。異教徒なのですね。私たち雪月信仰の者はここ『ウィスプ亭』で眠りにつくと月へと行ける、魂が救われるという教えなのです。もし興味があるのでしたら氷樹の青花を取ってくると信仰の証として雪月信仰徒になれます。もちろん魂の救い、月への回帰も叶います。」


「どうする?」


とブロギー。


「私は月光信仰をしているが、そんな簡単なことで月へと行けるのはどうも胡散臭い。だから旅へと出たというのに。」


とラヴィ。


「しかし氷樹の青花を見つけたらもしかしたらチャンスがあるのかもしれませんよ?僕は一度試してみたいな。」


とホッパー


「やめとけよ、ホッパー。ろくなことがないと思うぞ?」


とフロギー。


「いやいや、試してみる価値はありますよ。」


とホッパー。


「そういうなら探してみるか。氷樹の青花を。」


とフロギーはホッパーの意思をくんでみた。


「フクロウさん、どこに氷樹の青花があるんですか?」


とフロギーがフクロウに問いかけた。


「この針葉樹の森を抜けて断崖がある。そこに咲いているよ。これを使うといいよ。」


とフクロウはロープを貸してくれた。


「大丈夫かな?色んな意味で。」


とラヴィ。


「やってみるしかあるまい。」


とブロギー。


「私が取りに行くから安心してください。」


とホッパー。


一同は針葉樹の森を抜け、断崖に辿り着いた。


「よし、ホッパー、ロープで結ぶからゆっくり降ろすからちゃんと取れよ!」


とブロギー。


「わかりました!」


ブロギーとラヴィはロープをもってゆっくりとホッパーを降ろしていった。


「この辺で大丈夫です!」


とホッパーが言って、ロープを止めた。セオリーの落ちそうになる要素はなく、無事に氷樹の青花を取ることができた。


「これが氷樹の青花か。行ってみる?『ウィスプ亭』に。」


とブロギーが言って、


「もちろんです!」


とホッパーが意気揚々と言った。


そして一行はウィスプ亭に向かった。


「氷樹の青花を持ってきましたよ!」


とホッパーがフクロウに花を渡した。


「あなただけなのですね。わかりました。でしたらその衣を脱いでこのゆりかごに寝てください。これは先ほど頂いた氷樹の青花から取れたエキスと同じものです。さぁ、これを飲んでお眠りください。」


「わかりました。」


残りの二人はホッパーが眠りにつくのを見ていた。


しばらく経ち、ホッパーは眠りについた。そうするとホッパーの体からフワっとモヤがでて上に上がっていった。もう御察しの通りそれはホッパーの魂で間違いなかった。


「やばい!」


とフロギーがモヤを吸い込み、ホッパーの体へ吹き込んだ。するとホッパーが


「なんで起こすの!なんで!もう少しで月に行けそうだったのに!なんで止めたの!なんでさ!」


と怒り散らした。


「バチーン!」


とブロギーがホッパーを叩いた。


「バカヤロー!お前、死んでまで手にしたものがなんになるって言うんだよ!死んで手にしてももうそれは手元にないんだぞ!その時だけだ!あの世があるかどうかはわからない!でももう二度と俺たちとも会えないんだ!」


とフロギーもムキになった。


「そうだ。誰しもが持ちつ持たれつで互いに迷惑をかけながら生きている。そして支え合っている。お前はその迷惑をかけた相手や支えた相手を全部放り投げて一人だけ無責任になる気なのか?お前のかけた迷惑を捨て、お前が支えた親切も捨て、そんな無責任な死が許されると思うのか?今まで私たちが共に過ごしてきた旅だって同じ目的だった。その中で育んできた友情なども全て捨てて無責任に一人だけ逝ってしまおうというのか?少なくともそんな無責任なお前を私は許さない。」


とラヴィが語気を震えながら伝えた。


「なぁ、ホッパー、本当に月に行くのはこの方法しかないのかもしれない。でも俺たちがそれを手に入れるのは最後まで生き抜いてきたときにとっておこうよ。それまでの楽しみにさ。スプリンググラスへ帰ろう。」


とフロギーが優しく諭した。


「ううううう...。ごめん、フロギー、ラヴィ。二人のことを置いて一人で行くなんてどうにかしてた。しかも死んで行ったってそれはズルいことでしかならないんだ。僕も最後まで強く生きるよ。二人ともありがとう。」


とホッパーは泣き崩れた。


3人は落ち着くまで待った。


しばらくして落ち着き、3人は帰ることにした。ウィンターウィスプを抜け、オータムフォレストを通って、サマーオーシャンに着いた。ここでラヴィとお別れすることになった。


「フロギー、ホッパー、本当にありがとう。この度のことは忘れない。これからこのことを月光信仰の伝承として伝えていくよ。また遊びに来てくれ!それじゃあ!」


とラヴィは月光信仰の祭司となった。


その後、フロギーとホッパーはスプリンググラスに戻り、旅の語り手となった。色んな不思議な出来事などをスプリンググラスのみんなに聞かせた。二人は旅の勇者としてスプリンググラスで一目置かれた。ただし、月への行き方は誰にも教えなかった。誰しもがみな最期に真実を知るのだから。

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Fly me to the moon 秦野 駿一 @kwktshun

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