第3話

少しだけ休んでフロギーは稗や粟がある所まで行った。湧き水のすぐそばで自分の顔を水に映してるうさぎがいた。


「何が一番ジャンプが高いものが一番月へと近いかだ。そんなの間違ってる。本当に月光信仰者なら月へとたどりつかないとだめだ...。」


とぶつぶつうさぎは呟いていた。それを見たフロギーは


「あなたはこのサマーオーシャンで月の信仰をしている方ですか?」


「ん?あぁ、そうだが、君は誰だ?」


「あぁ、すみません。私はフロギーと申します。私は月に行きたいと願う者です。月の信仰のある方なら月への行き方を知っているのではないかと思いまして。」


「私はラヴィだ。月光信仰司祭の第一後継者だ。カエルのきみなら分かるんじゃないか?ただ跳ねることが月に行ける行為じゃないということを。」


「はぁ...。確かにそれは薄々ながら思ってました。しかしながら私たちにできることはジャンプするしかないので毎日ジャンプの練習をしています。」


「そうか...。私も初めは跳ねることが月に行けると信じていた。だがあくる日もあくる日もそれだけじゃたどり着けない。古文書も読んだがそれだけで月に辿り着いた者はいないということだった。ただ、ふわっと体が軽くなり宙に浮いて辿り着く方法があるらしい。現にご先祖様は月におられる。」


「そうなんですか。明日のお祭りの時は何をするのです?」


「ただ岩の高台からジャンプして一番高くジャンプしたものに月光の冠を頂けるというだけだ。それが一番月に近い者と言われるようになる。だが、私はそれがそもそも間違っていると思っている。私は祭司の孫でありこの祭りの毎回のチャンピオンだが、こんなことで月に行けることはないんだ。私は本当に月に行きたい。だからこの束縛から逃れたいんだ。」


とラヴィは自分の思いを吐き出した。するとフロギーが


「それなら私たちと一緒に旅にでませんか?本当の月に行ける方法を探しに。」


と言った。するとラヴィが


「しかし第一後継者の私が抜けると信仰している人々が迷えてしまうのではと頭を抱えているのです。」


と言う。するとフロギーが


「あなた自身が迷っているのなら信者も迷うというものですよ。そんな偽りの体で偽りを教えるのは苦痛以外の何物でもないです。自分の楔から解き放ってみませんか?」


と言った。するとラヴィが


「確かにそうかもしれません。それなら事を急がねば。祭りが始まる前には姿を消さなければ私は身動きが取れません。祭りの後だと向こう3か月間は自由が利きません。早く出立しましょう。」


「わかりました。私の連れを呼んできます。数刻後にこの湧き水の側で待ち合わせしましょう。」


「わかりました。」


そう言ってお互いに旅の準備を整えてすぐさまに出立することになった。これは思ってもみなかった。もっと情報を得られるのではないかと思っていたが、結局は地を這う者の苦しみというものと変わりはないのである。それを痛感させられるものであった。同じ思いで同じような悩み。あの月は狂おしいほど美しく残酷である。正にLunatic


「おい、ホッパー!急いで出立だ!」


とホテルに戻ったフロギーがホッパーに声をかけた。


「え?早くないですか?」


「それがな、こうこう、こういう事情でな...。」


「なるほどですね。月のうさぎさんでもそう簡単に月に行けるわけでもないんですね。それならば早く出立しないとだめですね。私の荷物は少ないですからもういけますよ。」


「そうか。俺ももうすぐ済む。悪いがホッパー、木の実4つを宿賃としてモーラーに渡してくれないか?」


「わかりました。」


そう言ってホッパーはモーラーのもとに向かった。


「どうした?もうチェックアウトなのか?何か事情でもあるようだな。わかった。木の実4つ受け取ったよ。またご贔屓を。」


とモーラーに宿賃を払って、ラヴィとの待ち合わせ場所へと向かった。


時間は昼になっていた。サマーオーシャンでは昼に行動する生き物は少ないためかえって人目につかないから丁度よかった。


フロギーとホッパーが待っているとラヴィがやってきた。


「ごめんごめん。あの祭りの準備から抜けるのに手間取った。取り合えずここの水を沢山汲んで行こう。」


「行先はどうする?」


とフロギーが言った。


「この西にオータムフォレストという紅葉樹に包まれた場所があります。そこには精霊がいるらしくてその方たちに話を聞いてみましょう。」


とホッパーが言った。


「ほんとホッパーは何でも知ってるな。1人でも月の情報を探しに行けたんじゃないかい?」


とフロギーが問うと、


「私一人だともう何かの動物の胃の中ですよ。だからフロギーさんと旅することに決めたんじゃないですか。」


とホッパーが言った。


「なるほどね。でも今回はもっと心強いラヴィさんもいるから頼もしいぞ!」


とフロギーが言った。


「いやいや、うさぎは草食動物だから何にも強くはないよ。」


とラヴィが言った。


「とにかくオータムフォレストへ行ってみようか。」


とフロギーが言って、一同はオータムフォレストへと向かった。

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