第25話 群がる者たち

 それまでろくに再生数を稼げもしていなかったチャンネルがいきなり百万再生を突破したからだろうか、二条高校跡地にはユーチューバーをはじめとした野次馬たちが集まって来ていた。


 もちろんマスコミ各社もやって来ているが、その殆どは立ち入り禁止区域の外側でワイワイやっているだけだ。


 大穴の縁は何度か崩れており、またいつ崩れるかも分からないし、唯一通れるように作られた道も朝から重機が動き回って工事中の状態だ。


 市や道の関係者も、安全のための装備がなければ工事の視察までしかできない。



「何で入れねえんだよ? 配信動画とかあるだろ、アレ何なんだよ⁉」


 そんなことを喚く他人の迷惑を顧みない連中は、危険の判断もできるはずがない。理由も説明せずに「貴方たちはダメです」の一点張りで締め出されている。


 それでも、通れる者はいる。



「あのすみません、工大の学生なんですけど入れますか? 母校なんすよ二条高校は」

「あー、名前と連絡先教えてもらって良い?」

「何でそいつは良いんだよ⁉」

「それが分からない人はダメです!」


 素通りとまではいかなくても、簡単に許可される者はある。ただし、地下に潜る前には持っている装備品の確認はされるし誓約書も書かされる。


「こんちは、佐々木です」


 工大生の二人組が署名しているところに佐々木貴史もやってくる。既に先行して地下に立ち入っている彼は、A6の簡単な協力者証を見せればそれで済む。


 ただし、持って来ている物や探索の方針については再度確認される。一晩の間に警察や消防が得た情報もあり、想定と変わっている可能性もあるからだ。


「あれ? もしかして佐々木か?」

「おあ、吉澤に村橋じゃん。めっちゃ久しぶり」

「君たち知り合い?」

「高校の頃のクラスメイトっす。お前らも来てたか、やっぱ色々心配だよな。早速だけど、何持って来てるんだ?」


「バイク用だけどヘルメットに、懐中電灯は一人二つ、トランシーバーを一組。それに、酸素濃度系。地下に潜るなら必要だろ?」

「それ助かるな。俺、そんな機械持ってねえからロウソク持ってきてたわ」

「原始的だけど、無いよりマシか」


 笑いながら吉澤がリュックから取り出すのは黄色い筐体の工事・閉所作業用の酸素濃度系だ。電池も予備をいくつか持って来ているので安心だという。


 さらに村橋と佐々木は鶴嘴つるはしを持ってきている。村橋も配信動画を見て岩を掘れる者は必要と判断したらしい。


 それらも全部記帳すると、三人一組で進むことに決まった。


 佐々木はもちろん、吉澤も穴の入り口付近は軽く写真だけ撮って洞穴へと入っていく。


「いきなり転んで怪我しないようにな」

「ダサすぎるやつだろそれ」

「暗い上に足場が悪いからな、油断してるとマジで怪我するぞ」


 足元は佐々木は登山靴、吉澤と村橋は安全靴だ。一長一短でどちらが良いとも言えないが、ウォーキングシューズでやってきている野次馬よりはずっと良いのは確かである。


 ザクザクと派手に足音を立てながら坂道を下っていると、下からもライトの光が近づいてくる。


「横に避けて道あけて」


 佐々木がすれ違いやすそうな所で足を止めて道を譲ると吉澤と村橋も何も言わずにそれに従う。


「お疲れ様でーす」

「ああ、お疲れさん」


 登っていくのは五人組だ。特に怪我をしていたり急いでいる様子もなく、単に時間がきての交代だろう。


 特に手助けをする必要もないだろうと、すれ違うとすぐに佐々木たちも再び進む。


「うお、思っていた以上に広いんだなここ」


 天井の高さは平均して三メートル以上。所々に巨大な岩の柱がありはするが、直径で百メートルほどの地下空間なのだ。


「さらに洞窟があるのはあっちの明かりだな」


 広い空間内に、二つのライトが目印として掲げられている。その他に動いているのはこの空間で手がかりを一生懸命に探している人のものだ。


「よっしや、じゃあここから撮影開始かな」

「やっぱ吉澤と村橋もユーチューブに上げるのか?」

「めっちゃ再生数伸びてるんじゃん。そういえば〝ささきたか4〟ってお前だよな」

「バレたか」

「バレねえと思ってたのかよ⁉」


 そんなことを言いながらも、二人はスマホを操作して撮影を開始する。そして、ホルダーにセットして首から提げる。


 電池にも余裕があるということで、光量多めで進む彼らの歩みは早い。最初の分岐までは五分ほどで到着し、そのまま太い道を進むことにした。


 というのも、右手の細い道の先に微かに光が見えたためだ。他の人が既に探索をしているところを一生懸命に探し回っても仕方がない。


 もうそろそろで二条高校が消失してから二十四時間が経つのだ。捜索範囲をとにかく広げていくしかないだろう。


「しかしこれ、モンスターとか出てきたらまるっきりダンジョンだよな」

「いや、なろう小説かよ」

「でも、巨大ワラジムシとか出てきたんだよな。同じくらいの倍率で巨大ネズミとか出てきたらヤバくね?」

「ええと、ワラジムシって普通は一センチくらいか? それが一メートル足らずだからネズミだと……」

「その十倍の大きさ」

「いやいやいや、体長十メートルのネズミって化け物すぎんだろ!」


 そんなことを言っている彼らの前に姿を現したのは、体長一メートルほどのネズミだった。

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