第14話 校舎の外へ
「俺、本当に生きているのか?」
自分の死体を見つめながら
死ぬとリセットされるという説明は分かるのだが、死体と自分の関係が不気味すぎて感覚がついていけないのだろう。誰だって自分自身の死体が目の前に転がっていれば混乱に陥るだろう。
先に死んだ余真紘の方も視線を彷徨わせたり自分の手足を見つめたりと、落ち着かない様子である。
「とにかくだ。きみらは二人とも生きているし、本物だから」
「そうそう。考えても答えが出ないこととか変な感情は横に放っておこう」
「今は合理優先。はい、目標は無事に帰ること。良い?」
パンパンと二度手を叩き、神玲が行動指針を述べる。阿知良は一度歯を食いしばって「分かってる」と答える一方で、余真紘は「外の方が怖い」と何度も繰り返す。
「じゃあ、まずはコレどうしよう」
「ここに転がしとくのは良くないよな。消すことはできないけど、目立たない場所に移動させようぜ」
「奥の空き教室で良いかな」
決まればすぐに動き出す。自分であるとはいえ、いや自分自身だからこそだろうか死体を担ぐのは気持ち悪いようで、阿知良も両腕を引っ張って廊下を引き摺っていく。
なお、血の跡は残っているが、それはもう無視することにしたらしい。食料補給なしで動き回れる時間を考えると、細かいことを気にしている時間はないという結論である。
相変わらず騒がしい教室は無視して、四人はさっさと階段を降りていく。その途中で阿知良と余真紘は自分のステータスプレートを改めて確認してしかめ面をする。
「なあ、おまえらさ。本当に見てないんだよな?」
「見てても見てないって言えよ」
「すまん、
「だから見てないって言えよ!」
二人が気にするのは、ステータスプレートはプライバシーの塊だからだ。スリーサイズどころではなく首回りや太ももまわり、足の長さなど、服や靴をオーダーメイドする際に採寸されるものはすべて記載がある。
さらに握力や肺活量などという体力測定の結果も網羅されている謎仕様だ。
そこまではまだ見られても構わないとも言えるだろうが、問題はその下だ。
初恋から始まり好きな人が一覧になっており、性的接触をABC三段階で何回経験があるかまで刻まれているのだ。
「くそっ! 砕け散れ!」
阿知良が叫んでステータスプレートは壁や床に叩きつけても砕けるどころか角が欠けることすらない。むしろ傷がついているのは壁や床の方だった。
思いついて、二人のステータスプレートをぶつけてみるも、どちらも全くの無事である。
「これ、壊せないのかよ?」
『ステータスプレートは絶対に壊れないから安心して良いよ』
「安心できねえよ!」
案内役の声は実に楽しそうだが、それはいつものことだ。阿知良と余真紘の方は息を荒くしながらツッコミを入れるが、相手をしても無駄だと肩を落とす。
靴を履き替え外に出てみれば、校門のあたりから坂になっていることが分かる。
奈落の底へと続いているようにも見える光景に、四人とも息を呑みたじろぐ。
「靴、履き替えようぜ。初めからスニーカー持ってこれば良かったわ」
「我も判断力がおかしくなっているわ。普通にローファー履いてきちゃったし」
「もどろもどろ。これじゃ無理無理」
などと言いながら四人は踵を返す。判断力がおかしいと言いながらも、ローファーのまま岩を下って行こうとしないだけ冷静な判断はできているのだろう。
何度かため息を吐きつつ来た道を引き返し、ロッカーから運動靴を出してくる。二条高校指定の上履きはスニーカーではあるのだが、こちらは明確に室内用である。外を歩くならば屋外用のスニーカーの方が良いに決まっている。
靴を履き替えると、四人は揃って岩の斜面を降りていく。斜面とはいってもそれほど急でもない。斜度は十パーセント程度で、普通に立ったままでの登り降りが可能だ。
「ここらから先はまた登りみたいだな」
「どれくらい下りてきたと思う?」
「進んだのは四、五十メートルだろ? あのボンヤリ青いのが校舎だから、下りたのは五メートルくらいか?」
「角度的にそんなもんだろうね」
現在の場所の認識合わせをしてから、何処へ向かってみるかを話しはじめる。
「迷わなくて良い、ということで考えるならこの谷底を進むか?」
「校舎を背に登っていくのと二択じゃない? 何も目標がない方向に真っ直ぐ進むのは不可能でしょ」
「確かにな」
「じゃあ、谷底で」
なお、神の決定に異論を述べることが許されるのは皇だけで、代名詞の二人には権利がない。
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