公爵七女の嫁入り前
UD
第1話 死んだはずだわよ
「うわあああああああああああああああああああああ!」
屋敷中に響き渡る声で叫ぶ私の声。
なんだ今の!?
私は死んだはずじゃ?
「どうされましたか!? ネーテアお嬢様!」
ドアの向こう側から聞こえるメイド、ミレナの声がする。
「な、なんでもないですわ! ただ夢見が悪くて。着替えたいのでお願いできるかしら?」
「承知しました。準備してまいりますのでしばらくお待ちください」
ミレナの足音が遠ざかって行く。
「ふぅー」
大きく息をつく。
確かに私は処刑された。
夢? そんなはずはない。
私は聖王国でも最も王族に忠誠を尽くしていたルシャンドル家に嫁いで平和に暮らしていた。確かにルシャンドル家では持て余されていた感は否めないけれど。
そして聖王国で反乱が起こった。
反乱が起こったと聞いた私は何もしなかった。
というか何も感じなかった。
公爵家の七女として生まれ、政略結婚の道具としてルシャンドル家へ嫁入りした。
私の夫であり、ルシャンドル家の当主であるバルザック・ルシャンドルは私を愛していたわけではない。
彼の目的はこの地を支配することだけだった。
だから何がどうなって反乱が起きたのかも、ルシャンドル家が何をしたのかも、なにもかもわからないまま私は処刑された。
「処刑された私がなんで?」
目を覚ますと嫁入り前に戻っている。
とりあえずミレナに急かされているので扉を開けなければ。
「お嬢様。さすがに朝からあの大声はいかがかと思いますよ」
「ご、ごめんなさい、大きな声を出してしまって」
「お、お嬢様?!」
「はい?」
「熱でもあるんじゃないですか?!」
「え?」
「お嬢様が謝るなんて、雪でも降るんじゃないですか?!」
「ええ? あの、私」
確かにそんな気がする。
当時の私はわがまま放題で完全にみんなをバカにしていたような気がする。
「そ、そうですわね。私がミレナに謝るなんて、変ですわね」
「お嬢様」
「は、はい!」
「私の、私の名前をお呼びくださいましたね」
ミレナはなぜか涙を浮かべている。
「あの、ミレナ。どうしました?」
「いえ、なんでもありません。名前など呼ばれたことがなかったものですから。あ、朝食の準備ができておりますのでお着替えを」
たしかにあの頃私はメイドなんて人だとも思っていなかった。
ミレナは私がルシャンドル家に嫁いだ際も一緒に来てくれ、幽閉された後も食事を運んでくれたりお話をしてくれたりした唯一の人だった。
私はなんてひどいことをしてきたのだろう。ミレナはそんな私を見捨てずにいてくれたのに。
「ミレナ、本当にありがとう」
「お嬢様、ほんとどうしちゃったんですか? 熱ですか? 腹痛ですか? あ、わかった! 今日のお勉強、またおさぼりしようと思ってるんですね!」
「ミレナ。もういいわ、着替えましょうか」
私は着替えを済ませ、ミレナに連れられて部屋を出て食堂へと向かう。
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