第三章:エマと一緒に異世界旅行
第26話:二人旅へ
次の休日に異世界の聖域を訪れる予定を立てた私は、毎日の仕事を頑張ってこなしていた。
忙しい土日は懸命に商品を作り続け、客足が落ち着く平日には、新商品について考える日々。
食レポが上達したエマとキャッチコピーを考えたり、異世界事情に詳しいノエルさんにデカ小豆の仕入れ先や栽培状況を教えてもらったり、安くておいしい甜菜糖を扱う取引先をお父さんに調べてもらったり……。
新商品を販売するまでに越えなければならないハードルを、新しい家族全員で乗り越えようと頑張っている。
菓子店の経営を任されている身としては、新商品を軌道に乗せなければならないので、今が頑張りどころだ。
コスト削減や値段設定だけでなく、大人のどら焼きの味を微調整して、最高の状態に仕上げていく。
相変わらずシルフくんからは『やっぱり欲望の味がするね』と、ケタケタ笑われてしまうが、こればかりは仕方ない。
綺麗事ばかりでは商売ができないのも、事実なのだから。
しかし、そんなことをずっと考えていては、身も心も持たない。
夜は自分の時間をしっかりと取り、火の妖精が喜びそうな貢ぎ物を考えて、シルフくんに餌付けしている。
妖精の契約者としての仕事……とは思いつつも、可愛らしい妖精のペットができたみたいで、仕事の疲れを癒してくれていた。
次に出会う火の妖精は、いったいどんな方なんだろう。やっぱり情熱的な人なのかなー。
うーん……! 次の休日が楽しみで仕方ない!
久しぶりにアルくんとも会えるし、シルフくんみたいに仲良くなれるといいのになー。
***
そんなこんなで月日が流れて休日がやってくると、事前に準備をしておいた私は、早朝から異世界を訪れていた。
「ママたちも来たらよかったのに」
ボソッと呟くエマと二人きりで、である。
妖精や王族に関わる案件だったので、私もお父さんとノエルさんがついて来ると思っていたんだけど――、
『と、父さんは遠慮しておくよ……』
『勇者様が残るのであれば、私も遠慮するわ』
と言われ、アッサリと断られてしまった。
お父さんに関しては、きっと娘の私に勇者の姿を見られたくなかったんだと思う。あんなにも渋い顔をするお父さんを見たのは、初めてのことだった。
気持ちがわからなくもないだけに、さすがに強く誘うこともできなかったよ。
ノエルさんはなんだかんだでお父さんに甘いから、放っておけなかったんだろう。エマに親離れさせるために来なかった可能性もある。
今回は異世界に危機が迫っているわけでもないし、あくまで観光を目的とした旅がメインなので、二人に無理強いをすることはできない。
よって、前回の異世界弾丸ピクニックツアーに続き、エマと女で二人旅をすることが決まったのだ。
まあ、浮かれているのは私だけで、今日のエマはちょっぴりセンチメンタルな雰囲気だが。
「王様と会うのか……。王様なー……」
シルフくんの仕事を手伝う目的もあるため、一筋縄ではいかない。
王様に許可をもらうなんて、異世界人であったとしても、人生であるかないかのイベントになるだろう。
普通に異世界を案内するだけなら、エマも不安な気持ちを抱かなかったはずから、しっかりとフォローしてあげなければ……。
こういう時、エマが喜びそうな話題がすぐに見つかるのは、本当に助かるよ。
「みたらし団子の親戚にさ、三色団子っていうのがあるんだよね」
「えっ! おいしそう……!」
「実は団子の仲間は多くて、ゴマ団子とかきな粉団子とかいろいろあって――」
不安そうな表情はいったいどこへやら……。
目をキラキラと輝かせて、真剣な表情で聞き入るエマには、この旅が終わったら、おいしい団子を食べさせてあげようと思った。
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