君と私の協奏曲
10まんぼると
譜面
私は色音(いろね)。私には昔から親友と呼べるような人がいる。名前は霰花(あらか)という。彼女は責任感がとても強く、学校でも真面目に勉学に取り組んでいる。そんな彼女と私は2人でバンドを組んでいる。小学校からずっと同じ学校で高校になったタイミングで私からやろうと誘った。彼女は、他にもっといい人がいると言って断ったが、誘い続けた結果彼女の方が折れやる事になった。それから、音楽活動と並走しながら彼女に勉強を教えてもらって、音大に2人で入学することができた。
ある日、Twitterを眺めていると一つのツイートが目に留まった。有名な歌手を数多く出している大手企業の新人アーティスト募集のオーディションのものだった。まだ音大生だが、もうすぐ卒業式なのでデビューするとしたら、その頃にはぎりぎり年齢制限には引っかからない。彼女にこの事を話すと、二つ返事で了承してくれた。私は
「今の私達なら受かるよ!」
と、明るい声で言った。2人で本気で目指しているプロデビューに向けて出来る限り時間を取って、スタジオを借りて練習をした。少しずつだか、私達の曲は確実に良いものとなっていった。
オーディション当日、私は緊張してあまり眠れない状態で臨む事になってしまった。順番を待っている時に聴こえてくるのは、美しい声、力強いギター他にもレベルの高い様々な種類で個性のある曲。それが私の緊張を加速させた。
「色音さん。霰花さん。どうぞお入り下さい」
ついに知っている名前が耳に入った。
「霰花、ついに私達の番だね」
「うん」
彼女は震えていた。
「大丈夫だから。今まで通りやろう」
私は手に3回『人』という文字を書いてから呼ばれた部屋の中に入った。終わった後、彼女は泣きそうだった。
次の日、学校に彼女の姿はなかった。
「先生、霰花ってどうしたんですか」
「家庭の事情らしいよ」
「そうなんですか。ありがとうございます」
家に帰ってLINEを送ったが既読はつかなかった。
彼女が学校に来たのはそれから数日経った時だった。
「卒業がかかってるこの時期に休んで大丈夫?」
「まあ、なんとかなるかな」
「なら良かった」
それから卒業式まで今まで通り、2人で楽しく学校生活を送った。少し、私と接する態度が冷たい様な気がしたけど。
卒業式を経て、オーディションの結果が出た。結果は不合格だった。私は酷く泣いた。LINEで彼女にその事を伝えると、
「やっぱり。門は狭いんだね。私たちの実力じゃ無理だよ。もう諦めよう」
その言葉が私の爛れた心臓に突き刺さる。
「それって、どういう意味なの」
彼女の思いがけない言葉に今までの努力を貶された様な気がして、感情に身を任せて連絡先を消してしまった。
「信じていたのに…」
「新郎、新婦。入場してください」
私は会社で、知り合った優しい同僚と結婚をする事になった。式の招待状は音大で関係があった沢山の人に出した。そして、その招待した人に聞いてある1人の女性にも出した。いや、私の脳内のイメージだと大学生のままだ。そんな彼女は、探すと端の方のテーブルで1人ぽつんと座っていた。式が終わると私は直ぐに彼女のところに向かった。彼女は私の目を見ると急いでその場を離れた。
「霰花、待って!」
私は息を切らしながら追いかけた。
「ねえ、なんで逃げるの!」
「だって私、色音に酷いこと言って、傷つけて。」
彼女は走るのを止めた。
「色音の夢壊したから」
彼女は目に涙を浮かばせる。
「霰花のバカ!あんた私に酷いこと言うような人なの?違うよね。そうやっていつも自分ばかり責めないでよ!」
「色音…」
彼女の目から雫が落ちる。
「確かに目指してた所は高いからだよ。でも、そんな高いものを目指すから目標としての意味があって、それを乗り越えるのが仲間ってものなんなじゃないの?」
「ごめんなさい。本当にごめんなさい」
「だから、もう気にしなくていいよ。謝らないで。あと、あの時霰花をひどい人だと思った私も悪かったよ。ごめん」
「そんなことないよ。私、他の人の曲を聴いた時からもう無理だって思ってた。そんなやる気のない私のせいでオーディション落ちちゃったんだ。ごめんなさい」
「だからもう謝らないでよ。さあ、笑って。私は霰花の笑ってる顔が好きだから」
「うん」
彼女のその顔は今までの中で1番輝いていた。私達は近くのベンチに座って、長話をした。
ある日、私の元に一つの招待状が届いた。それは霰花からのだった。
「新婦である霰花さんと1番仲がよかった学生時代の戦友である色音さんに結婚式に似合う曲を歌ってもらいましょう」
私達が口を開けた瞬間会場が歓声に包まれた。彼女と一体化できた様な気がする。
「霰花、良かったね。そしてありがとう」
私は心の中でそう呟いた。
君と私の協奏曲 10まんぼると @10manvoruto
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