第29話 雑草野菜がついに収穫をむかえる
「お~い、ショーグンどこだ?」
「ここです、ここです!」
どこだよ?
声は聞こえど姿は見えず。目にうつるのは、緑の葉っぱばかりだ。
「マジでジャングルだな」
いまは収穫の真っ最中である。
そうなのだ、ついに雑草と野菜を掛け合わせた作物が収穫期を迎えたのだ。
確認したところ、実はけっこうなってそうである。
雑草の特性を引き継ぎながらも、ちゃんと野菜として育ったのだ。
だが、問題がある。
育ちすぎたのだ。枝を間引けど間引けど追いつかない。
ついには諦めて放置してしまったのだ。
「恐るべきは雑草の繁殖力だな」
あれよという間に畑がジャングルに。
いちおう他の畑に影響を及ぼさないように刈ってはいるが、そこだけである。
畑じゃない方向へは、モッサモッサと伸び散らかし放題だ。
これだけ株数が多いとムリだよ。
ラディッシュ系の作物の世話もしなきゃならんし。
そもそも雑草系は世話をする手間をなくすために植えたみたいなところもあるわけで。
「あ、ありました、ありました。カボチャです」
ショーグンはカボチャを見つけたようだ。
実、自体はたくさんなっているが、いかんせん枝やら葉っぱやらが茂りすぎて見つけづらいのである。
「日当たりとか大丈夫かねぇ?」
これだけ茂っていると日当たりが悪くなる。
日当たりが悪くなると葉や枝がちゃんと育たない。
それは実も同じで、日光にあたらないと色がおかしくなったり、甘くならないのだ。
「まあ、いまさらか」
そもそも実が甘くなるのは、たくさん光合成して糖分をたくわえるからである。
収獲スピードが早いと、それだけ糖分をためる時間が少ないわけだ。
本来なら生長が早いイコール糖度が低いになるはず。
でも実際はそうなっていない。むしろ甘みが増しているぐらいだ。
ほんとうにどういう理屈なのだろうか?
「うわ! クモの巣が!!」
離れた茂みでガサガサと音がした。
ああ、そこにいたのかショーグン。
どうやらクモの巣に引っかかって暴れているらしい。
これだけ茂ってると、虫にとっては
う~ん……もう刈っちゃうか。
「ショーグン! ハジから刈りとるから、そこについている実を取っていこう」
これからまだ実をつけるかも、とか考えない。
とにかく刈る。
刈った枝についた実を取る。
刈る。
刈った枝についた実を取る。
これを繰り返していくのだ。
機械での収穫に似ているな。
枝豆とか機械でガーっと取って、ブワーと揺らして実を落とす。
その実をコンベアで回収みたいなシステムだ。
それを手作業でやる。
この方が圧倒的に楽だろう。
「いえ、わたしはこのまま収穫します!」
ところが、まさかのNo thank you。
なんで?
結局二手に分かれて収穫することになった。
ショーグンはこれまで通り一個ずつモイでいく。
俺は刈りとってから収穫だ。
ザッ、ザッ、ザッ。
ムシリ、ムシリ、ムシリ。
あんま面白くないなコレ。
栽培の楽しみは収穫なんだけど、このやり方だと作業感が強すぎてそれが感じられない。
クッ、まさかショーグンの方が正解だったとは。
とはいえ、いまさら後には引けない。
このまま刈っては収穫するスタイルを続けていくしかない。
ザッ、ザッ、ザッ。
ムシリ、ムシリ、ムシリ。
疲れた。ツマラン。
ショーグンはどうしてる?
ちらりと見ると、モッサモサのジャングルからカゴを背負ったショーグンが飛びだしてきた。
カゴの中には、いっぱいの収穫物。
ショーグンはそれを地面におろすと、また新しいカゴを背負ってジャングルに姿を消していく。
……なんか楽しそうだな。
よ~わからんけどムカついてきた。
こうなりゃ刈って刈って、刈りまくってやる。
ショーグンが隠れているジャングルをどんどん狭くしてやるのだ。
ハッハッハッー、逃げ惑うがよい。
シリアルキラーのノリでショーグンを追いつめることにした。
俺が手にもっているカマはチェーンソー。
麦畑を逃げ惑うのは、哀れな獲物ショーグンだ。
「死ね!」
殺気を込めて草を刈る。
スパリ。
勢い余って野菜の実を刈ってしまった。
カマにつくのは真っ赤な液体。
トマトを真っ二つに切ってしまったのだ。
「クククク、次はキサマだ。ショーグン」
妄想に浸りながら収穫にいそしむ。
気付けばジャングルだった畑は、わずかな区画を残すだけだ。
「クックック。もう逃げ場はないぞ、ショーグン」
シリアルキラーごっこはついに大詰め。
ショーグンは隠れたまま姿を見せない。たぶんノッてくれてるのだろう。
「これで最後だ!」
そう言いながら、さらに草を刈った。
しかし――
ん? アレ?
なんかおかしいな。
この小さな区画に本当にショーグンいる?
刈り進めるにつれて不安になってきた。
これだけ少なければ、隙間からちょっとは姿が見えそうなのに。
やがて全部の草を刈った。
しかし、ショーグンの姿はそこにはなかった。
まさか……。
さてはアイツ、途中で飽きて逃げやがったな!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます