第28話 ショーグンの不思議。宇宙人の不思議。
SNSがバズった。
UPしたショーグンの画像が、キモカワイイなどど一部で大人気となったのである。
おかげでネット注文が多く舞い込み、梱包作業に追われる日々だ。
とはいえ、バズったのは主に女子学生を中心にだ。
野菜を買う層ではない。
注目の割にはさほど……って感じだ。
おかげで俺とショーグンで、さばける量になっている。
「お~い、ショーグン。そろそろ手伝ってくれ」
一人でやるには、さすがに多すぎる。ポンコツとはいえ、ショーグンに手伝ってもらわないと回らない。
ところが、そのショーグンの姿がない。
ちょっと休憩と言ったまま、倉庫に戻ってこないのだ。
「まったく、アイツ何してんだ。そもそもメカが休憩ってなんだよ」
ブツブツ言いながら家へと入る。
いた。
食い入るようにテレビを見つめるショーグンの後ろ姿があった。
「おい、返事ぐらいしろよ」
さては時代劇だなと思いつつも、テレビへと目をむける。
すると画面に映っていたのはスーツを着た二人組だった。
あれ? 違う。時代劇じゃない。
「なあ君、宇宙人ていると思うか?」
「宇宙人? そんなのおるかいな」
スーツの男たちは、目の前に置かれたマイクに向かって話しかけている。
あ、これは漫才だ。
珍しいな。ショーグンはこんなものも見るのか。
ショーグンの横に座る。
会話に出てきた『宇宙人』というワードに気を引かれたからだ。
「いや、おるで。あいつら日常に紛れ込んどんねん」
「そんなわけあるか。俺見たことないわ」
タコ星人のことを思い出した。
そういやアイツ、人間に擬態してたな。
てことは、人にまぎれて生活しているのだろうか?
「ニブイいヤツやで。こないだこんなことがあってな」
「ほう」
「モニターってあるやん」
「モニター? パソコンとかの?」
「そうそう、パソコンのモニター」
「うん」
「あれしばらく操作しなかったら真っ暗になるやん」
「ああ、省エネかなんかでな」
「そうそう。電気を大切にしようなんかいう取り組みでな。そうなっとるわけや」
「おう、それがどないしたん?」
「うちとこのモニターも真っ暗になっとってん」
「しばらく操作せんかったからか」
「そうそう。でな、あるとき思いっきり屁ぇこいたってん」
「急やな」
「そら、屁ぇなんてもんは急にしたなるからな」
「まあ、そうやな」
「するとや、その瞬間モニターがパッてついてん」
「……ん?」
「ん? やあらへんがな。な~んも操作してへんのに、俺の屁でパソコンが立ち上がったんやで!?」
「まあ、不思議やな」
「やろ? 周りには俺以外誰もおらへん。なんで勝手に立ち上がるねんちゅー話や」
「たまたまちゃうの?」
「そんな偶然あるかいな。操作せんとパソコンが立ち上がる確率ってどのくらいや? そうとう低いで」
「まあ低いけど」
「しかもや、そのタイミングでちょうど屁なんかコクか?」
「いや、コクやろ。屁ぇなんてもんは珍しくもないし」
「アホか! 俺の屁ぇは超レアやで。1000年に一度しかコカへん」
「いやいや、君。昨日屁ぇコイてなかった? 俺、聞いたで」
「それは1000年と1000年の境目や。だから、あと1000年は屁ぇコカへん。そんなレアとレアが重なるなんて有り得るか?」
「境目ってどういうことやねん。意味わからんわ」
「だから、最初の1000年はずっと屁ぇコかんかったわけや。で、最後の最後で屁ぇコイてん。んで次の1000年が始まった瞬間に屁ぇコイたわけや。そこが境目や」
「ややこしいな。まあエエわ、話進まん。そこはそういうことにしとこ。で、その話と宇宙人がどう関係するねん」
「おまえアホやなあ。宇宙人はいろんなものに成りすまして紛れ込んどんねん。
「一緒に病院行こか」
……つい聞き入ってしまったけど、くだらない話だ。
屁と宇宙人て。
――けど、宇宙人が日常に紛れているってのは本当かもしれない。
実際にこの目で見たのだから。
そうなってくると、気になるのは地球人の方だ。
俺たち以外にも知っている人はいるんだろうか?
まったく気づいていない?
それとも気づいているけど黙っている?
この件に関してショーグンは何か知っているだろうか?
ちょっと聞いてみるか。
「おい、ショーグン。タコ星人ってさ……」
そう呼びかけるも返事がない。
それどころかショーグンは、まったく動く気配がない。
え? どうした? まさか……。
「ショーグン、ショーグン」
肩を掴んで揺り動かす。
「冷たい。すでに死んで――」
「死んでませんよ」
ショーグンは
「だって、おまえが返事しねえから」
「すみません、ちょっとウトウトしてまして」
機械がウトウトとか言うな。
ボケに対してボケで返してくるんじゃねえよ。
死んでないことぐらい分かっててボケたんだよ。
なにせ後頭部の模様で動いてるかどうか分かるからな。
めちゃくちゃ緑に光ってるから。
「そういや、おまえ電池切れとかないの?」
ふと気になった。
死にはしなくても、バッテリー切れってのもあるっちゃあるよな。
「ないですね。わたしの動力源はエルドラ素粒子と言いまして」
「あ~、そういやそんなこと言ってたな」
核の一億倍がどうとか。
「ええ、半永久的に稼働できるんですよ」
「へえ、便利だな」
てことは充電もいらないってことか。
……ん? じゃあ、何のためにメシ食うんだ?
「なあ、ショーグン。バッテリー切れがないなら、なんでお前はメシ食うんだ?」
生き物がメシを食うのは栄養を補給するためだ。
栄養を補給する必要がないならば、とうぜん食事も必要ないわけで。
「なんでって……。そりゃあ、お腹が空くからですよ」
「空くのかよ!」
ほんとうにムダな機能だな!
品種改良以外はマジでまったくいらない機能ばかりだ。
「じゃあさ。食ったメシはどこに行くんだ?」
ショーグンはウンコをしない。
水分さえも排出したところを見たことがない。
どうなってるんだ?
すでにショーグンの体積より、食ったメシの体積の方が大きいんだが?
「ちょっと分からないですね」
ショーグンは首をかしげる。
分からないのか……。
まあ、そんな気もした。コイツが知っているわけないって。
じゃあ、これもたぶん知らねえよな。
「地球人てさ。宇宙人がいること知ってるの?」
「え? 知ってるんじゃないですか? 旦那様もそうですけど、お母様もマイさんも旦那様から話を聞いて知っているのでは?」
そういう話じゃねえよ。
それにペラペラ喋ったのはオマエだろうが。
「言い方が悪かった。俺たち以外の地球人が、宇宙人の存在を知ってるか? ってこと」
「う~ん、ちょっと分からないですねー」
やっぱり知らないか。
まあ、タコ星人の口ぶりから秘密にしてるっぽかったからな。
知っててもごく一部ってとこだろう。
けど、そうなってくると何で俺を解放したんだろうなって疑問も湧く。
しかも、ショーグンという証拠まで残して……。
なんか今更ながら心配になってきた。
ショーグンをSNSにUPしちゃったけど、大丈夫かな?
宇宙人が地球に紛れ込んでいるなら、バレちゃうよな。
――いや、もうバレてるか。
タコ星人は知っているわけだしな。
仲間に連絡すれば簡単に知れ渡るだろうし。
それでも、たぶん大丈夫な気がする。
根拠はないけど、そんな気がする。
そう自分に言い聞かせる俺なのであった。
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