第26話 スイカを食べさせてみる

「みんな食べないんですか?」


 ショーグンはスイカの切り身をシャックシャックと食べながら言う。

 収獲したラディスイカだ。

 うまく食べさせることに成功したのだ。

 冷やして切って食卓に並べたら、ちゅうちょせず食べやがった。


「いや、食べるよ。けど、最初に食べるのはオマエに譲ろうと思ってな。収穫勝負に負けたからさ」


 ショーグンが食べた。だからおそらく大丈夫だろう。

 だが、もうちょっとだけ様子見ようすみしよう。

 おかしな変化がないかを確かめる。


「ふふふ、弱すぎて勝負になりませんでしたよ」


 ちょーしに乗ってんなコイツ。

 ワザと勝たせてやったのに。

 まあいい。変に勘繰かんぐられるより全然いい。


「そうかい、そうかい。将軍様は収穫上手でいらっしゃる」

「ふふふふ。くるしゅうない」


 ショーグンは、ご機嫌な様子でもう一切れとスイカに手を伸ばす。

 よし、どうやら大丈夫そうだ。

 今度は人間で実験だ。


 思い切ってスイカに手を伸ばした。

 つぎに食べるのは俺。

 母、ましてやマイちゃんで試すわけにはいかないからな。


「うまっ!」


 一口食べてあまりの旨さに驚いた。

 シャキシャキした歯ごたえに、爽やかな甘み。

 スイカの中でも、これはかなり旨い方に入るんじゃないか?


「敗者のお味はどうですか?」


 ショーグンはこちらの顔を覗き込んでくる。

 イラッ!

 ここぞとばかりのドヤ顔にムカっ腹が立つ。


「旨いぞ。お前の顔を見てなければ、もっと旨いけどな」


 けどまあ、許してやるか。

 何をやってもダメなショーグンが、やっと成果を出したんだ。

 負け続け、負け続け、初めてつかんだ小さな勝利。

 これぐらい、おおらかな気持ちで受け止めてやろうじゃないか。


「へー、負けてても美味しいんですね。わたしはもっと美味しいですよ。これぞ勝利の味ってやつですかね?」


 イラッ!

 しつこいな。むー、このままだとますます調子に乗りそうだ。

 ちょっとお灸をすえたほうがいいかもしれない。


「あ、そうだショーグン。スイカって塩かけたらもっと美味しいんだぜ」


 そう言ってキッチンにある調味料棚からビンを手にとると、テーブルにトンと置いた。


「へ~、そうなんですね」

「パパっと振りかけてみ」


 ショーグンは言われた通り、ビンのフタを開けてスイカに振りかけた。


「辛! なんです? これ?」


 食べたショーグンは、すぐにしかめっ面になった。


「あ、ごめん。間違った。それ山椒さんしょだった」


 わりーわりー。隣に並んでたからつい。


「ちょっとやめてくださいよ。舌がピリピリするじゃないですか」


 ショーグンの顔文字は何とも言えない表情になる。

 ざまあみさらせ。


 しかし、ちゅうちょなく食べたな。

 やっぱ、食用かどうか瞬時に判断する機能が備わっているんじゃないか?

 しっかりとした味覚もあるし。

 うまい、まずい、辛い、苦いだけでなくシビレまで感じている。

 メカなのにすごいな。 

 もともとそういう風に作られているのか?

 それとも、コイツがただ食いしん坊なだけか。


 まあ、いいや。

 とりあえずスイカもカボチャも出荷可能ってことでいいんでないだろうか。



※品種改良BOX

 子供の知育用品として開発された。

 子供に危険がないように食べていいものかどうか判断できるようになっている。

 また、子供が品種改良BOXに頼らないように知能も落としている。

 自分で学び、考える力をはぐくむようにとのことだ。

 夏休みの自由研究的な位置づけで、大きなシェアを誇っている。

 ショーグンがアホなのにはちゃんと理由があったのだ。


 とはいえショーグンは品種改良BOXの中でも特別だ。

 事故の衝撃で回路に損傷が出た。

 アホがよりアホに。言わばアホのエリートなのだ。


ショーグン「シェアNo1ですから!」

ミノル「こんなアホが大量に!?」

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