第12話 ショーグン、王様を育てる

「お~、さっそく芽が出てきたか」


 季節は五月。ウネから顔をのぞかせるのはバナナの先端だ。

 タネをいて数日、さっそく発芽したようだ。


「だが、こっちはまだだな」


 続いて蒔いたのは、ラディッシュとキャベツをかけあわせたものだ。

 一日あとだっただけに、まだ発芽してはいない。


 この二つを比較すればいろいろ分かるのではないだろうか?

 収穫物の味と見た目が混ざらないか、どちらの特性をどう引き継ぐかなどだ。

 また、おなじかけ合せで違った結果がでるかの試験も行っている。

 バナナとラディッシュ、キャベツとラディッシュの二つとも、それぞれ五回かけあわせたのだ。

 すべて蒔いて、育ち方に違いが出ないかの試験となる。


 できれば、差が出ないとありがたい。

 かけあわせる度に違う結果が出るとなると、ちょっとメンドクサイことになるからだ。

 常にこんな形で生長していく。それが分かっていないと、事業としては厳しいだろう。

 あくまで出荷するのは収穫物だ。

 観賞用のように育ち方そのものを楽しむわけではない。

 栽培に適さないものなど、手間暇かけて育ててられないのだ。

 

 それを避けるためには、大量にかけあわせておき、少量だけ試験栽培するといった対策が必要になってくる。

 好みの育ち方をする回のものだけを使うわけだ。

 実にメンドクサくなってしまう。


 また、育ち切ったあと、どのようなタネを残すのかの確認も重要だ。

 というのも、品種改良にはF1品種ってのがある。

 その特性を有するのは、一代限りってやつだな。

 最初のみ特殊な育ち方をして、そこからとれたタネはその特殊さを引き継がないわけだ。

 その場合、また、タネをかけ合わせるところから始めなきゃならない。


 ただ、これに関しては、特性を引き継がないF1品種であったほうが俺にとっては都合がいい。

 販売した収穫物からタネを採取すれば、同じ作物を育てることができてしまうからだ。

 それじゃあ俺の優位性がなくなってしまう。


 そして、固定種の保護もある。

 外来生物が日本の固有種を駆逐してしまうかのごとく、俺の交配した作物が既存の作物を駆逐してしまうなんてことになれば、生態系に影響がでてくるかもしれない。

 とくに栽培に適さない植物が異常繁殖し固定種と混ざりあう、なんてことになればシャレにならない。

 上手くいこうが上手くいかなかろうが、タネの取り扱いは慎重にしていかなきゃならないだろう。



 そして今回。畑に蒔いたのは二種だけだが、ポットに蒔いたタネもある。

 トマトとスイカをかけ合わせたものだ。

 これは畑に直接蒔かず、ポットである程度育てたのち畑に植え替えるといった段階を踏む。


 理由は……しらん。

 トマトもスイカも、みんなそうしているからだ。

 なんかしら意味があるんだろう。

 そのあたりは先人の智恵に習っていこうと思う。

 タメだったとき捨てやすいしな。

 

「旦那様、今日も精がでますね」


 とつぜん話しかけてきたのは品種改良BOXあらため、ショーグンだ。

 コイツは音も気配も少ないので、気がつけばいつの間にやら近くにいたりする。

 心臓に悪い。特に夜は。

 暗闇から突然話しかけられて、とてつもなくビックリすることがある。

 まあ、夜はなぜかコイツも寝てるのでそれほど多くはないんだけどな。


 意外と諜報活動の素質があるかもしれない。

 ショーグンではなく、サスケにした方がよかったか。

 まあ、アホなので、いずれにしても調査結果に信用がおけないが。


「なにを蒔いたんですか?」

「ああ、ラディバナナだよ」


 そのショーグンが畑を見ていろいろと語りかけてくる。

 なんやかんや、興味はあるようだ。

 ちなみに、ラディッシュとバナナの交配したタネに名前をつけた。ラディバナナだ。

 名前をつけるにあたっては何を交配したか分かりやすいほうがいいと考えてのことだ。


「なるほど~、気に入っていただけたんですね」

「まあな」


 こんなものもらってもしょうがないなんて思っていたが、まさかこんな有用だとは。

 申し訳なかったな。あなどって。

 

「蒔いたのはラディバナナだけですか? それにしては、けっこう耕してましたけど」

「ああ、ラディキャベツも蒔いたよ。どっちもそこそこあったから」


 ラディキャベツはもちろん、ラディッシュとキャベツをかけ合わせたものだ。

 これからもこんな感じで名付けていきたいと思う。


「それは、お疲れさまです。早く育つといいですね」

「だな。ラディキャベツの方はまだだけど、ラディバナナの方は芽がでてきたよ」


「へ~、いいですね。わたしのなんて、まだ芽が出る気配すらないんですよ」

「え? おまえもなんか蒔いたの?」


 いつの間に蒔いたんだ?

 そんな話、聞いてないが。


「そうなんですよ。わたしも経営者として頑張らねばと思いまして」


 お! それは!!

 さっそく責任感が出てきたのか?


えらいじゃないか。で、なにを蒔いたんだ?」

「ドリアンと納豆をかけ合わせたものを……」


「今すぐ捨てろ!」


 よりによってドリアンと納豆かよ。

 臭いものの代表じゃないか。


「なんでですか! せっかく蒔いたのに」

「なんでもクソもあるか。いいからやめとけ、ロクなことになんねえから」


「そんなの、やってみないと分からないじゃないですか!」

「分かるわ!」


 ドリアンと納豆なんて、臭くなるか糸を引くかの二択しかねえぞ。

 それか、両方か。


 まったく。ちょっとやる気を見せたかと思うと、これだよ。

 小学生の実験じゃねえんだから、もうちょっとマトモなもんを育ててくれよな。


※ドリアンはフルーツの王様とも言われている。

 とっても臭い。

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