第6話 なぜか人気者に
「ちょっとお前はここで待ってろ」
品種改良BOXにそう言うと、玄関の扉を開いて中へと入っていった。
正直、母親になんて言うか決めかねている。
宇宙人の話をするか、ただ拾っただけと言うか、それとも、このまま内緒にしておくか。
現物を見せれば、本当のことを言っても信じてくれそうな気はしている。
ここまで人の言葉に応対できるロボットは、まだ地球では開発されていないし。
でもなあ。さすがにタコ星人はなあ……。
「ただいま~」
そう俺が声をかけると、ドタドタドタと走ってくる音が聞こえた。
慌てている感じである。
そりゃまあ心配してるだろう。大丈夫だと電話でいちおう伝えてはいるけれども。
――あれ? でもなんか変だな?
母親らしくないというか、足音が若いというか……。
「ミノルくん!」
客間の障子が開いて姿を見せたのは、金髪の若い女だった。
歳は十代なかばぐらい。ジャージを着て髪を後ろでまとめている。
だれだ?
いや、見覚えあるぞ。
面影にというか、なんというか……。
「もしかして、マイちゃんか」
「そうだよ、久しぶりだね」
びっくりした。マイちゃんはメチャメチャ可愛くなっていた。
いっしょに遊んでいたのは、かれこれ十年前ぐらいか。
彼女がまだ六歳のころだ。
中学生のころに何度か挨拶したことがあるけど、反抗期らしくてあんまり顔見せなかったんだよな。
金髪になってるから、まだ反抗期は終わってないかもだけど……。
「あの音を聞いて家に来たんだよ」
マイちゃんの後ろから、母がひょっこり顔を出した。
「けっこう大きな音だったからね。マイちゃんの家まで聞こえてたみたい。それで心配してくれてさ」
あ、なるほどね。
「結構うちには来てくれてるんだよ。東京へ行ったアンタのことも興味あるみたいでさ、こうして待っててくれたんだよ」
「え、ちょっとやめてよ。あの音がなんだったか、わたしも気になっただけだよ」
母の言葉に対しマイちゃんは顔を赤らめて否定していた。
うわっ、なにこれ。スゲー可愛いんですけど。
これはひょっとして、ひょっとするのか?
お互い無言になり、変な空気が流れる。
――が、その静寂をやぶって、誰かが声をだした。
「へ~、これがワカメ星人のメスなんですね」
この声は。
「あ、どうも初めまして。品種改良BOXと申します」
振り返ると、そこにいたのは、外で待っているハズの品種改良BOXだった。
――――――
「カワイイ~」
チンチクリンの品種改良BOXを見て、マイちゃんがカワイイを連発している。
ムカつく。なんかわからないけど、無性に腹が立つ。
「ええ、よく言われるんですよ。カッコイイ系じゃなくて、カワイイ系だねってね」
「ナニソレ、ウケる~」
褒められてまんざらでもなさそうな品種改良BOXだ。
そして、それの何が面白いのか俺には理解できない。
「ね、ね、もう一回やって。箱がプシューって割れるやつ」
「いや~、それがムリなんですよ。私に命令できるのは、最初に起動した人だけなんです」
なんか勝手に盛り上がっている。
一瞬で主役の座を奪われてしまった。
なんてやつだ。この品種改良BOXは。
「え~、ケチ」
「すみません、規則でして」
なんか楽しそうだな、おい!
「じゃあ、お願いは? 命令じゃなくて、ただのお願い。ね、いいでしょ。もっと見たいの」
「ふ~む、まあ、お願いということでしたら、規則には引っかからないですねえ」
いいのかよ!
コンプライアンス、ガバガバだな!!
「ねえ、ミノル。あれなんなの?」
俺と同じく置いてけぼりになっていた母が俺に尋ねてきた。
「それがさ、落ちてきたのは隕石だって言ったけど、本当はUFOだったんだ」
「え!!」
「で、なんか積み荷を一個置いていってさ。それが、あのヘンテコリンなメカだったわけ」
「……ミノル、あんた大丈夫?」
母は悲しそうな顔で俺を見る。
「いや、マジだって。そうじゃなきゃ、あんなメカなんて持って帰れるわけないじゃん」
「ん~、そう? 最近技術の発達すごいし……」
「いやいや、そんなレベルじゃないでしょ。あんな
「そうかい?」
だめだ。母親は機械にうとい。
ぜんぜんピンときてないよ。
「とにかくホントだって」
「ん~、まあミノルがそう言うなら」
とりあえずは納得してくれたようだ。
逆に俺は、まったく納得してないが。
おかしいな。なんで俺がこんな苦労をせにゃならんのか。
会社でコキ使われて、宇宙人にもコキ使われて、本当のことを言っても信じてもらえない、モテ期がくると思った瞬間奪われる。
いいことねえなあ。ほんとに!
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