碧翠色のナズナたち

水瀬なでしこ

sui side

 新しいメンバーと再スタートしよう。

そう言って清水碧しみずあおを連れてきた沙織さんのことを思わず殴りたくなった。よりにもよってこんな女ウケの権化のような女を選ばなくたっていいではないか。


 今度こそアイドルとして真っ当になろう。

目の前に現れた清水碧はそんな決意をたやすく叩き割る脅威に感じた。一度も染色をしたことがないであろう艶やかな黒髪は肩口でレイヤーが入り、毛先がツンとはねている。長めの前髪から涼しげな双眸が覗き、見透かされているような心地になり心臓がトクンとはねる。スッと通った鼻筋の下には今日食べたさくらんぼのようなふっくらとした唇。さくらんぼは甘酸っぱかったけど、彼女の唇はどうだろうか。


 彼女に見惚れていたことに気付いたのか、沙織さんはパンッと手をうち、私の意識を取り戻させた。

 ふいに涼しげな目と目が合い、反射的に顔をそらす。本能的に見つめ合ってはいけないと感じたのだろう。それからのことはよく覚えていない。心臓の音がやけにうるさくてなかなか静まらないことに苛立っていた。

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