第10話
「はは、お世辞でも嬉しいぜ。あんがとな」
一応礼を言っておくと、小色がブツブツと「う……お世辞なんかじゃないのにぃ……」と言っているが、ハッキリとは聞き取れなかった。
そこへ少しムッとした様子の理九が、話題を変えようとしてか横から入ってきた。
「ところで異世界ってどういうところか聞いてもいいかな?」
異世界という言葉で、小色の興味をも惹きつけようという魂胆だろう。それは見事に的を射て、彼女も期待するような眼差しを向けてくる。
「あーまあ多分想像している感じだと思うぞ。いわゆる剣と魔法の世界だったしなぁ」
「じゃ、じゃあ魔王とかいたんですか!? そして日門さんは魔王を打倒した勇者で世界を救った英雄なんですか!?」
「あ、相変わらず興奮してんなぁ……。まあ魔王って呼ばれる奴はいたけど、そこはちょっと小色の認識とは違えかもな」
「へ? どういうことですか?」
「俺がいた世界じゃ、魔王ってのは魔族の王で悪党ってわけじゃなくて、魔法を統べる王のことで、どちらかってーと尊敬の対象だったしな」
異世界における魔法。様々な系統の呪文が存在し、それらを極めている存在のことを魔王といった。向こうでは魔法は珍しくないし、ほとんどの者が修練すれば扱えるようになる。
当然魔力量や才能などといった天性のもので差がついたりはするが、基本的に呪文契約という儀式を経れば誰もが扱える技術だったのだ。
「で、では、ももももしかして日門さんは魔王だったとかですか!?」
さらに期待を込めた表情を見せてくるが……。
「残念。俺は勇者でもなきゃ、魔王でもなかったぜ。それに魔法の才ってのも低レベルだったな」
「ふぇ? そ、そうなんですか? で、でもさっき見せて頂いた魔法は凄かったし……」
「うん、そうだよな。僕もあの巨大狼ゾンビを一撃で消滅させた魔法を見て、才能がないなんて信じられないね」
どうやら二人にはちゃんと説明しておいた方が良さそうだ。
「マジで魔法を普通に扱う才能は俺にはなかったんだよ。というか異世界人ってのは、あくまでも異世界の住人だし、魔法適正なんてないのが普通じゃねえか?」
実は日門自身も勘違いしていた。創作では異世界召喚された勇者たちなどは、元から魔法が扱え、しかも突出した才能を持っている。そういうのがほとんどだろう。
しかし現実はそうではない。その世界にとって地球人は異物でしかないし、そもそも扱えるなら、地球でも扱えなければおかしい。もっとも異世界に存在する目に見えない概念が必要不可欠というなら別だが。
「さらに言うなら魔力ってのは、異世界人特有の《魔核》っていう臓器があって初めて生み出せるもんだからな」
当然この《魔核》は地球人の日門にはなかったもの。
心臓の隣に位置し、また心臓と同じような役割を持つ第二の心臓とも呼ぶ存在。故にたとえ心臓が潰されても、《魔核》さえあれば即死したりはしない。
「は? じゃあ日門はどうやって魔法を使えたんだ?」
当然の疑問だろう。
日門は「そりゃ簡単だ」と言いながら自分の右胸を親指でトンと叩く。
「ここに《魔核》を埋め込んだだけ」
その告白に、二人がギョッとして日門の胸元を見つめる。
「う、埋め込んだって……そんな簡単にできるもんなのか!?」
「いーや、普通はできねえらしいな。特に俺みたいな魔力に耐性のないヤツに埋め込むなんて拒絶反応が出て、そのままポックリってのも珍しい話じゃねえ」
事実、身体に外から《魔核》を埋め込むというのは危険行為でしかない。持って生まれたものではない臓器を埋め込むのだ。身体が拒否するのは至極当然。その負荷に耐え切れずに身体が崩壊したり心臓がそのまま止まったりと危険極まりないし、向こうの世界でも禁忌とされていた手法だ。
だがそれでも成功さえすれば、複数の《魔核》から魔力を生み出せるという絶大なアドバンテージを得ることができるし、それこそ魔王になることも不可能ではなくなるだろう。
「だ、大丈夫……なんですか、日門さんは?」
「おいおい、こうやって生きてんだろ? ちゃんと心臓だって動いてるっちゅうの」
ニカッと笑いながら言ってやると、小色はホッとした溜息を漏らす。
「でも普通できないことをよくしようと思ったね?」
「理九の言う通り、普通はそんなことするバカはそうはいねえだろうな。けどそうでもしねえと力を手にできなかったしなぁ。魔法が使えるのと使えないのとじゃ、戦闘力に大きな違いが出てきちまうし」
「それはそうだろうけど……ていうかどうやって埋め込んだんだ? 異世界ってほら、よく文化レベルが低いっていうじゃないか。手術とかってできるの?」
「想像している通り、文化レベルは地球と比べると天と地だぜ。だからこそそれが嫌で俺は戻ってきたんだしな。向こうの医療技術なんて魔法頼りだし、科学の進歩なんて牛歩だな。実際手術なんてもんをしようとしたら異端だとか言われて処罰されかねねえ」
人間の身体にメスを入れて切り開く。そんな怖ろしいことをするなんて考えもしない。しているヤツがいたら異端扱いされ下手をすれば極刑ものだ。
「だったらどうやって……ていうか誰がやったのさ?」
「どこの世界でも変人ってのはいてな。生命を研究してたマッドサイエンティストに頼んだんだよ」
「そ、それ……大丈夫だったのか?」
「だーかーら、ここにこうしていることが証明だろ? ……まあ、仮死状態にはなっちまったけどな」
「ええっ!? か、仮死状態って、それとんでもないことじゃないですかぁ!?」
確かに仮死状態なんて死ぬ一歩手前だ。ただ、仮死状態は必然的に起こしたのだ。そうすることで、少しでも拒絶反応を弱くさせるために。
身体の機能が真っ当に働いていれば、体内に入ってきた異物を背一杯弾こうとして拒絶の力が強くなる。しかし生命機能が停止していれば、その反応も起きない。あるいは弱いままで済む。
そうして時間をかけて身体に《魔核》を馴染ませたのである。
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