永遠のまどろみの中で

雪村団子

まどろみの中へ

「…はぁ」

今日もまた、一日を無駄に過ごすことになるのか

そう思いながら僕はベッドから起き上がった。


いつものようにパソコンの電源を入れ、FPSゲームを起動する。

朝起きたら必ずFPSゲームをするのがここ1年で習慣化してしまっている。

全プレイヤーの中でかなり上手い部類である自負はあるし、プロになりたい気持ちもほんの少しはあるが、どうすればなれるのかビジョンが全く見えていないから将来の選択肢として考えてはいない。




「あぁー負けちゃった、GGっと…そろそろ朝ごはん食べようかな」


ゲームに負けた辺りで丁度8時になったから、自分の部屋を出てリビングに向かう。

テーブルの上にはおにぎりと軽いおかずが置かれていた。

僕の両親は共働きで父さんは単身赴任中、母さんも僕が起きるよりも早く出勤するから朝ごはんは作り置きしてもらっている。


「大学受験…か」


昨夜、母さんと受験校について話し合った時のメモ用紙や資料が机の上に残っていた。


「大学は行かないとまともな人生が送れないだとか、SNSでよく見かけるし、昨日母さんにもグチグチ言われたけどさぁ…

どうにも勉強のやる気が湧かないんだよね。オープンキャンパス行っても自分がそこにいる未来が上手く思い描けないっていうか、こうエンジンに火がつくような魅力的な未来が思い描けないし…」


朝ごはんを胃に入れながらそう愚痴を呟いたが、実際僕自身も大学に行くべきだと思っているし、やる気が出ないのもただの言い訳に過ぎないのは分かっている。


でも、朝ごはんを片して自室に戻ると

「結局、勉強以外のことをしちゃうんだよなぁ」


ベッドであおむけになりながら漫画を読んでいる現状に自分の理性は警鐘を鳴らし続けているのだが、どうしても自分の人生を他人事のように思ってしまっていて、漫画を読む手が止められない。


「夏休みこのまま過ごしちゃダメなのは分かってるんだけど、うーんどうしよう」




気が付くと時計は午後1時を回っていた。

本来なら昼ご飯の時間だが、母さんからお昼ご飯代は貰っているが、特に昼ご飯を食べなくても困ることは無いため夏休みに入ってからは毎日抜いている。


「はぁ…あー、やることないし寝ようかな」


寝ようと思って、僕はベッドに横になり目を閉じた。




「ん…あー良く寝た」


時計を確認すると時計はちょうど午後1時を回った辺りで止まっていた。

僕は特に不思議に思わずFPSをしようとパソコンの電源を付け、椅子に座ってゲームを起動した。

すると、酷いめまいが襲ってきて、気が付くと大きなホールのような場所の喧騒に満ちた観客席に座っていた。


『え、なんで!?…あっ』

今起きた現象に酷く混乱してつい大きな声が出てしまったが、周りに人が居ることに気付き、すぐに声を潜めた。


眩暈が襲ってきた後急に自分の全く知らない場所に飛ばされて混乱していたが、深呼吸して周りを見渡すと明らかに周りが、もしくは自分がおかしいことに気付く。


自分以外の声が、自分以外の存在が全部ぼやけているのだ。

まるで水中から外の声を、景色を見聞きしているかのように。


再び混乱した自分はステージの上に唯一はっきりと認識できる人影がいることに気付いた。

それは明らかに自分自身だった。

少し年を重ねているように見えるが確かに自分だ、そして自分の存在に気付くと同時に今いるこのホールが自分の好きなFPSゲームの大会の会場であることに気付いた。


僕は自分に合うために観客席の人たちを押しのけてステージへ走った、だけど観客席を抜けてステージに手をかけたその時、再び酷い眩暈がして、再び自分の部屋に戻されていた。


戻された後、しばらくして落ち着きを取り戻すと僕の目に映る部屋の物すべてが丸くないシャボン玉のようなものに変わっていることに気付いた。


机の上に置いてある学校の夏季補講の案内や、参考書たちは僕が大学生になっている姿が映し出されているし、

懸賞で当たったまま手を付けないでいたペンタブレットとイラスト教材は僕がアニメの制作に携わっている姿が映し出されている。

本棚の本はそれぞれが本当に全く異なった未来を映し出していて、ある本は白衣を纏って研究している自分を、また別の本は浅黒く日焼けした自分が知らない大人の人たちと野生動物を観察している光景が映し出されていた。


『これって…未来の僕?』


そう気づくと、突然強い睡魔に襲われ、抗おうにも万力で潰されるように瞼がどんどん狭くなっていき





気が付くと自分の部屋のベッドの上で寝転がっていた。


「あれは…夢だったのかな…」


もうすでに夢の中の出来事はあまり覚えていないが、不思議と今から頑張れが自分は何にでもなれるという希望が心に深く刻まれた気がする。


「取り敢えず、大学選びの前にもう一度将来の夢を考えてみようっと」

そう言いながら僕はノートを広げ、自由に自分の夢を書き連ねていった。

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永遠のまどろみの中で 雪村団子 @alucica0nigiri

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