第25話 追いかけて
無数の、本。
近現代史を取り扱ったものを中心に、参考書まである。
中には観光案内や、教科書まで紛れ込んでいた。
そこだけ空間を切り取って、留学生の部屋と入れ替えたかのようなミスマッチだ。
高齢の単身男性の所持品としては、明らかに浮いている。
「買ったんだ、大槻古書店で」
あそこは俺の注文に応えて、この手の本を頻繁に入荷してくれていた。
そう。日本に来たばかりの人間が、現地の知識を収集するのにぴったりな本が充実しているのだ。
しかも価格は手頃ときている。
「それにしても、こっちの通貨の使い方まで覚えたのか。……ああ、転送された時はまだこの爺さんに息があったのかもしれないな。教わったのか」
「あのー、お父さん?」
全然状況が飲み込めないのですが、とアンジェリカはたずねてくる。
困惑した様子で、遺体からじりじりと距離を取っている。
こんな怖がりな娘に伝えるのは酷だが、言うしかない。
「……前にも言ったが、地球は霊体なんていない。俺が異世界召喚された時に、それはすぐに教わった。なのに今、この街は幽霊がワラワラと湧いている。おかしいだろ? じゃあどこから来た? 異世界しかない」
「私と同じ世界から来たんでしょうか?」
「同じも何も。同時に来たんだよ」
異世界に何かを送ろうとすると、途方もないエネルギーを要求されるのだ。
高位の神官を何人も集めて、複雑な術式を組まねばならない。金も人員も必要とする、酷く面倒な作業だ。
「複数のものを送り込むなら、一度にやった方がいい」
アンジェリカの、揺れる緑眼を見つめながら告げる。
「神官達は、お前に霊体をたっぷりと憑依させた状態で、ここに転送させたんだ。これならお前も悪霊どもも、一度の手間で送りつけられる」
「……嘘でしょう?」
アンジェリカの顔から、血の気が引いていく。
人形のように端正な顔は、青ざめると一層人工物めいて見える。
「つまりだ」
一拍置いてから、俺は言う。
「アンジェ、お前なんだ。この一週間うちのアパートで目撃されていた白い女の幽霊ってのは、お前なんだよ」
「意味がよく……」
「お前は自分が思っているより、一週間ほど早く日本に送り込まれてたんだ。最初の数日間は完全に取り憑いた霊に操作されてたんだろう」
ただし転送されたのは、俺の隣の部屋だったが。
ほんの数メートル程度の誤差でも、それが狭苦しい日本の住宅事情では「別人の住居」という形になってしまう。
孤独な一人暮らしの老人が、死を待つのみだった部屋。
そんなところに突然アンジェリカが現れれば、天使が舞い降りたようなものだろう。
話し相手になってやるだけで、いくらでも日本の情報を引き出せたに違いない。
が、途中でその情報源は亡くなってしまった。
あるいはアンジェリカがやってきた時には、もう死んでいたのかもしれないが。
どちらにせよ、老人から聞き出す以外の手段で日本の知識を仕入れる必要が出てきた。
やむを得ず、自力学習する方針に切り替えた。
最初のうちは神聖巫女の衣装で出歩き、怪談を生み出すに至ったのだろう。
やがては老人の金と衣服を借りる知恵をつけ、書店で本を買うまでに至った。
悪霊はアンジェリカの肉体を用い、見る見る現代日本の知識を身につけていく。
「ここで数日間寝起きし、シャワーも浴びたんだろうな。死臭の強まっていく部屋だ、臭いを取ろうと思うのは自然だ。それでアンジェの髪は最初からいい匂いがしたんだ。現代日本のシャンプーでなければありえない、科学的な香りが。異世界の香や石鹸を使っても、あんな匂いはしないよ」
その後、肉体の主導権を取り戻したアンジェリカは、己の髪の匂いなど無自覚だったようだが。
寝ている間に勝手に頭を洗われたようなものだし、目が覚めれば異国で、俺が帰ってきたのだ。
仮に気付いていたとしても、自身の毛髪の匂いなど、凄まじく優先順位が低かっただろう。
もし俺が異世界に召喚されて、自分の髪からいつもと違うシャンプーの匂いがしたら?
そんなことよりもっと重要なことがたくさんある。
無視、だ。
「……全部憶測ですよね?」
「まあな。でも状況がそっくりなんだよ、俺がやった時と」
「お父さんが?」
「この戦法はな、俺と神官長があっちで考えたものなんだ。捕虜を捕まえ、手懐けた霊体を憑依させる。肉体の操作権を奪い取り、それから敵地に帰還させる。あとはやりたい放題だ。破壊工作するもよし、仲間割れを狙うもよし。とても勝てそうにない相手や、落とせそうにない城を攻める時はよくこの手を使った。まだステータスの低かった頃は特にな。弱者が強者に使う手なんだ。異世界人が、最強の勇者を攻める時なんかまさにそうだな?」
これをやった後に残るのは、複数の目撃談を残しながら、記憶のない当事者だ。
憑依の日数が経つにつれて、本人の人格が表に出てくるのも典型的な症状である。
権藤がまさにそれだ。
あのヤクザはきっと、アンジェリカの中から出た霊の一体に操作されていたに違いない。
「だってそんな、ありえないですよ」
震える声で、アンジェリカは言った。目には涙が浮かんでいる。
「アンジェ、お前が俺と出会った時のことを覚えているか? 俺がドアを開けるなり、ベランダの方から駆け寄ってきたよな。隣の家のベランダから、こっちに飛び移って来たんだろう。だからあんな場所にいたんじゃないか? 気が付いたら俺の部屋のベランダにいた。そうだろ?」
アンジェリカは答えない。
「アンジェ?」
「……」
「アンジェ。どうなんだ」
「……神官長は、勇者にお礼がしたいって言ってらしたんですよ。それがどうして、こんな」
さあ?
目的なんてわからないし、興味もない。
どうせ胸がむかむかするような内容だ。
「違いますよ、きっと……だって私が最初に会った男の人はお父さんですし、こんなお爺さん今初めて見ましたし……」
「記憶がないのは仕方ない。そういうものなんだから」
そういうものなんだ、と息を吐く。
白く、曇った。
暖房のない部屋は、外気と気温が変わらない。
「これ以外に上手く状況を説明するものがあるか? ないだろ? 他にも疑う材料はある。俺の部屋で感知を使ったら、アンジェを中心に放射状に広がって霊がいたそうだな? それ、アンジェの体から霊が出てたせいじゃないか」
全部お前が原因だったんだよ、と告げる。
「私の、せい」
アンジェリカは凍りついている。
「ところで今挙げた推測は、アンジェに対して好意的な解釈だ」
「……どういう意味ですか」
「もっと酷い解釈はこうだ。――実はお前、何もかも知ってたんじゃないか? 神官長と組んでるのか? 最初から俺に危害を加えるつもりで近付いてきてたのか? 自分から進んで悪霊どもを持ち込んだんじゃないだろうな?」
「私、そんなんじゃ」
アンジェリカは両手で口元を覆い、小さく震えている。
庇護欲をくすぐる、抱きしめたくなるような仕草だ。
それも演技なのか?
「お前は胡散臭いんだよ」
ビクリと、アンジェリカの肩が跳ねる。
「こんな惨めなおっさんにな、急に若くて綺麗な女の子がまとわりついてきたって、裏があるとしか思えない。やたら積極的だったもんな? あれも神官長に吹き込まれた演技なのか?」
「私はお父さんが好きで、それで……」
またそれか。
困った時はそうやって、俺をたぶらかせばいいと思ってるんだろう。
「会って間もないのに好き好き言われたって、信じられるかよ。無理に決まってるだろ」
「……お父さんのこと、ちゃんと好きです」
「男だったら誰でもいいんじゃないのか? 異性が物珍しいだけだろうが」
「――」
その言葉がきっかけだった。
アンジェリカは脇目も振らず、玄関の方へと走って行った。
このままでは暴力を振るわれるとでも思ったのか、精神的に耐え難かったのか。
どっちでもいい。どっちでも。
理由がなんであろうと、「アンジェリカを泣かせた」が答えなのは変わらない。
「……糞っ」
開け放たれた玄関から、冷たい風が入り込んでくる。
カンカンカンカン、と猛烈な勢いで階段を駆け下りる音が聞こえてくる。
俺を好きだと言っていた女の子は、遠いどこかへと走り去った。
俺は何をやっているのだろう。
アンジェリカが幽霊騒ぎの重要なヒントを握っているのは、確かなのだ。
だったら、こんな風に追い出しては意味がないのに。
利用されたにせよ故意だったにせよ、もっと聞き出さなきゃならないことがあるのに。
こうじゃなかった。
本当はもっと淡々と詰め寄るつもりだった。
なのにどうして、途中からあんなに感情的になってしまったのか。
これじゃまるで、年下の彼女と喧嘩しているみたいだ。
保護者になるなんて言っておきながら、俺は全然大人をやれていない。
少し頭を冷やそうと思った。
のろのろとベランダに出ると、来た時と同じように飛び移って、自分の部屋に戻る。
窓を閉め、キッチンに向かう。
コップに水を入れて、飲み干す。
冬の水道水はきんきんに冷えていて、喉に痛みさえ感じる。
すぐにでもアンジェリカを探した方がいいのに、さっぱりやる気が湧いてこなかった。
リビングまで歩き、ベッドに腰を下ろす。
ぼーっとスマホの画面を見る。時刻は午後五時十一分。
冬の日は短い。じきに暗くなる。
そうだ、死体が見つかったのだ。通報しておいた方がいい。大家にも知らせなければ。
腰を浮かしたところで、本棚の前に畳まれた白い布が目に入った。
幽霊騒動の原因となっただろう、アンジェリカの神聖巫女装束だ。
謎めいた素材で編まれた半透明のベールは、異世界でもとびきりの高級品なのだという。
それを、無造作に床の上に置いている。
そしてその巫女装束の上には、茶色い紙袋が乗せてあった。
俺が昨日、アンジェリカに服やお菓子を買ってきた際、それらの品が入っていた袋だ。
綺麗に折りたたまれて、大事に取ってある。
紙袋も包装も、ただのゴミだから捨てていいと言ったのに、取ってある。
お父さんがくれた最初のプレゼントだからと、頑なに捨てるのを拒んでいた。
異世界随一の高級生地を下敷きにして、宝物のように置いてある紙袋。
「俺は馬鹿だな」
呟くと同時に、視界にウィンドウが浮かび上がる。
【パーティーメンバー、神聖巫女アンジェリカの好感度が500減少しました】
本当に俺は馬鹿だ。
勇者業にかまけて学校に通えなかっただけある。
アンジェリカが俺にちゃんと好意を抱いているのは、こんな風にシステムメッセージが知らせていたというのに。
今は好感度が下がってしまったけれど、その前は独占欲を抱いていると表示されていた。
あいつは演技で俺に接近しているわけじゃない。本当に俺を求めていたのだ。
血が上って、そんな大事なことも忘れていた。
というより、頭から吹っ飛んでいた。
アンジェリカの中に大量の霊体が憑依させらていた、と考えただけで気が狂いそうになった。
我を忘れた。
ほんの一瞬だけ湧いた「アンジェリカもぐるなのでは」という疑念に駆られて、癇癪を起こしてしまった。
こんなのは大人の男の振る舞いじゃない。
ガキだ。
どうしてあんな、ムキになったのだろう?
それだけ俺にとって、重要な事柄だったからに他ならない。
信じたかったからこそ、一つまみの疑いで俺はおかしくなった。
あいつが関わると、俺は冷静さを失うのか?
アンジェリカが好きなんだろうか?
自分でもよくわからない。
一つだけ確かなのは、探し出して謝らなければならないということ。
俺は駄目な親父だ。
部屋を飛び出す。大慌てで階段を降りると、足を止める。
闇雲に駆け回っても見つからないだろうから、大きく跳んでアパートの屋根に乗った。
高所から探せば見つけやすいと考えたのだ。
が、見当たらない。
一体どこまで行ったのか。
二度と帰ってこない……とは思いたくない。
飛び降りて、全力で走る。
数百メートル毎に建物の屋根に飛び移り、きょろきょろと見回す。
隠蔽魔法で姿や音を隠しているとはいえ、振動まではカバーしきれない。
謎の揺れに驚く家庭が続出していることだろう。
申し訳ないが、今は配慮している余裕がない。
住宅街を抜け、国道沿いに走る。コンビニの屋根に上がって周囲に目を向ける。
見つからない。
どんどん、アパートから離れていく。
通行人に白人の少女を見かけなかったか聞こうかとも思ったが、アンジェリカも未だに隠蔽がかかったままなのを思い出す。
魔力を持たない一般人には、透明人間に見えているはずだ。目撃証言など集まるわけがない。
俺は地上に降りると、一度アパート周辺に戻ることにした。
肩で息しながら、全力疾走を続ける。
駐車場を片っ端から探す。いない。
もう部屋に帰ってるんじゃないかと期待して、階段を上ってドアを開ける。いない。
「アンジェ……」
俺はものを探すのが本当に苦手だ。自分の人生さえ見失ったくらいだ。
こんな俺に、アンジェリカを見つけ出せるのだろうか?
とぼとぼと、近隣の公園を歩く。
春はまだ遠く、敷地を囲むように植えられた桜の木は、枝と幹だけの姿だ。
肉を削ぎ落とされた鶏ガラのような、貧弱な印象を受ける。
こんなのはただの棒きれだ。
鉄棒、ジャングルジム、平行棒。ブランコ。
遊具さえも、棒の集まった形状ばかり。
ずらりと並ぶ、鉄の骨だ。
そんな骸骨だらけの公園に、一つだけ肉付きのいい遊具がある。
水色の、象を模した滑り台。
幼児用のジョウロにも似た外観で、腹の部分に入り込むことが出来る。
よく子供達が、隠れて遊ぶのに使っていた。……ここに潜り込まれたら、高所からは象の背中しか見えなくなる。
死角だ。
なんとなく、覗き込んでみる。
「こんなとこにいたのか」
この公園は、部屋の窓から見える距離なのだ。
いくらなんでもそんな場所に逃げはしないだろうと思った。
けれど、そもそも逃げるつもりなんてなかったのかもしれない。
追いかけて、探して欲しかったから、近くに隠れた。
そういうことなんだろう。
「すまん、俺が悪かった。帰ろう」
アンジェリカは滑り台の下で、膝を抱えて座っていた。頬には涙の跡が残っている。
しゃがみ込んで、手を伸ばす。頭も下げる。
「いい歳した大人の男が、女の子に言っていいことじゃなかった。反省してる。気が立ってたんだ」
自分でも、しょうもない言い訳だと思った。暴力夫みたいな言い草だ。
【パーティーメンバー、神聖巫女アンジェリカの好感度が300減少しました】
「……お前はあんなに俺に懐いてくれてたのにな。自分に自信がなかったんだ。お前みたいな子がなんで俺に? って思ってたし、異世界のものは何でも疑うようになっていたんだ。あっちじゃろくな目に遭わなかったから……これじゃただの言い訳だな。なんて言えばいいんだ……」
【パーティーメンバー、神聖巫女アンジェリカの好感度が200減少しました】
「お前に霊体憑依なんて仕掛けがされたと思ったら、カッとなって頭の中が真っ赤になっちまったんだよ。なんでか知らないけどそうなったんだ。なんでだ? 頭が沸騰して、考えがまとまらなくなって、いつもの自分じゃない言葉が出てきた。相手がお前だからこうなったんだと思う。他の女の子だと、ここまで取り乱したりしない……」
【パーティーメンバー、神聖巫女アンジェリカの好感度が100減少しました】
「……俺のとこに、帰ってきてくれ。お前がいると、楽しい。感知も、頼りになる。……帰ってきてください。もう酷いことを言ったりしない。大事にする。今より稼ぎのいい仕事を見つけて、いい服を着せてやりたい。美味いものも食わせる。食わせ、ます」
【パーティーメンバー、神聖巫女アンジェリカの好感度が1上昇しました】
アンジェリカはゆっくりと、外に這い出てくる。
目元をごしごしとこすりながら立ち上がると、きっ、と俺を睨みつけてきた。
「アンジェ、すまん」
「……私がなんで、こんな近くに隠れたかわかります? 追いかけてくるだろうな、って予想したからですよ。それくらいの計算はします。馬鹿じゃないんで」
尻についた土をパンパンと払いながら、アンジェリカは棘のある声で言う。
「わざわざ見つけやすい場所を選んだのに、こんなに時間がかかるなんて。……どっかおかしいんじゃないですか」
「すまん」
「すまんしか言えないんですか?」
返す言葉もない。今はただ、許しを請うばかりだ。
「あれは傷つきましたよ」
両手の指をすり合わせ、アンジェリカは視線を滑り台の脇腹に向ける。
「男だったら誰でもいいんじゃないのか、ってやつ。酷くないですか」
「すまん」
「だって何割かは、図星でしたからね。だから効いたんでしょうね」
「……?」
アンジェリカ両手を広げ、くるりと後ろを向く。
そして、首だけで振り返って言う。
「ほんとのところを言いますとね、神殿から出れるならなんでも良かったんですよ。ずっと女しかいないとこで、お祈りばっかな毎日で。うんざりでしたもん。きっかけは別に、勇者様宛ての献上品だろうが冒険者パーティーのスカウトだろうが、なーんでもよかったんですよ」
緑の瞳に、酷薄な色が宿っている。
「お父さんに最初会った時、正直ぱっとしないな? って思ったんですよ。勇者ってくらいだからもっとわかりやすく格好いい顔でイメージしてたのに、やつれたおじさんですし。んーまぁこれでいっか、って感じ。男の人と暮らせるなら、誰でもいいかなあって気分でしたし。ずっと彼氏欲しかったんで」
それにね、とアンジェリカは続ける。
「お父さんとお付き合いして、さっさと破局して、こっちのもっとマシな男の人とくっつくのもいいかな、なんて考えたりもしたんですよ。……お父さんみたいなおじさんが、若い子に無条件に好かれるわけないじゃないですか。思い上がりですよ」
ガッ。と土を蹴る音がする。
アンジェリカの体が反転し、こちらに向き直る。
真正面から向き合う形になる。
「……でも……実際に二人で過ごしてみたら、お父さん優しかったし……夜はエルザさんの名前呼びながらうなされてて、可哀想だったし……他の女の子とも仲良くしてるのわかったら、絶対取られたくないって思いましたし……ちゃんと、こうやって、見つけてくれましたし……」
アンジェリカの両目からは、ぼろぼろと涙が零れ落ちている。
なだらかな頬をなぞり、おとがいに向かって流れていく。
「今はちゃんと、お父さんが好きだもん……」
「わかった。伝わった」
「お父さんじゃなきゃやだもん……!」
多分、抱き寄せるのが正解だと思った。
俺の鈍くて錆びた頭でも、それくらいのことはわかる。
アンジェリカの髪を撫でながら、ぽつりと言う。
「俺も、お前じゃなきゃ嫌だぞ。変にエルザと似た女を送られた方がきつかった。何もかもあいつと正反対だからなお前。一緒にいると嫌なことを忘れる」
アンジェリカはぐしぐしと鼻をすすりながら、俺の胸に顔を埋めている。
「お前がいい、アンジェ。お前だからいい」
【パーティーメンバー、神聖巫女アンジェリカの好感度が9999上昇しました】
システムメッセージを流し読みしながら、アンジェリカの背中をぽんぽんと叩く。
なんだかさっきからずっと、口に砂糖を突っ込まれたようなセリフを吐いている。
いいやもう。今だけ俺はメロドラマの登場人物になったんだと思い込むことにする。
……思い込んでも、恥ずかしくなってきた。
しばらくそうやって照れていると、アンジェリカがふいに顔を上げた。
「言質、取りましたからね」
と笑っている。
……深みにはまっている気がする。
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