銀と黒の恋物語 ~異世界の数だけ愛をささやくオムニバス~

甘い秋空

第6551異世界 僕は浮気をしません! 貴女が好きだから! 彼女にとって約11回目のお見合いになるのでしょうか?


「遅くなりました、お見合いの席はこちらでしょうか」

 王宮の広い中庭で、ガゼボの中に立っていた見合い相手に挨拶をします。


「僕も今来たばかりです、クロガネです」

 黒髪のイケメンです。


「ギンチヨです、よろしくお願いします」

 と、言って気が付きました。


「「あれ?」」

 お互いに、別のお見合い相手に挨拶した事に気が付きました。


「「失礼しました」」

 急いで、本当の相手を探します。


 別の令息様でしたが、少し気になる方です。


 私は、伯爵家の令嬢、銀髪のギンチヨです。婚約すべき年齢ですが、お見合いが失敗続きで、相手が見つかりません。



    ◇



「ギンチヨ嬢の家は、資産はどのくらい持っています?」


 本当の相手である子爵令息様と、お見合いをしていますが、気が進みません。


 さっきから、お金の話ばかりです。



「少しよろしいですか?」

 先ほどのクロガネ様が、割り込んできました。


「子爵令息様、確か、貴方には婚約者がいらっしゃいましたよね?」


 え? なにそれ!


「な、なな」

 子爵令息様は、しどろもどろになっています。



「子爵令息様、何をなさっているのですか!」

 どこかの令嬢が怒鳴り込んできました。


「違うんだ、誤解だ、この二人を引き合わせていたんだ、ごめんなさい」


 子爵令息様が逃げて、令嬢が追いかけて行きました。



 中庭に、静粛が戻りました。


「助けて頂き、ありがとうございました。クロガネ様」


「ちょうど、通りかかったから」

 彼は、恥ずかしそうな、悲しそうな表情です。



「またお見合いに失敗しました。これで9回目です」


 私は、笑って言ったつもりですが、悲しそうな表情だと思います。


「そうでしたか。僕も、ダメでした。不貞の子だと噂が流されたため、血筋を重要視する令嬢から、断られてしまう」


 彼は、ため息をつきました。


 私も、ため息を一つ、見上げた青空が、まぶしいです。




    ◇




「ギンチヨ嬢、久しぶりだな」

 王宮の夜会で、昔の男に声をかけられました。


 お見合いをしましたが、この男の浮気が発覚したため破談となった、思い出すのも嫌な相手です。


「また、浮気相手でも探しているのですか?」

 男をにらみます。


「お見合いの相手がいないんだって?」


「貴方が、ありもしない噂を流したからでしょ!」


 この男と一晩デートしたと、ウソを流されたため、私にまともな見合いの話が来なくなってしまいました。


「怒るなよ、今夜は俺と踊ろうぜ」



「申し訳ないが、ギンチヨ嬢は、僕が先にダンスを申し込んでいるんだ」


 割って入ってきたのは、クロガネ様です。


「おっと、スネにキズを持つ者同士かよ」


 男の無礼な言葉に、クロガネ様の目が厳しくなりました。


「なりません。さぁ、ダンスを楽しみましょう」

 私は、クロガネ様を引きはがします。


 

「心配なさらないで下さい。もうすぐ、あの男は、伯爵家と子爵家の、格の違いを味わいますので」


 あの男が、このシャンデリアの輝きを見るのは、今夜が最後になるでしょう。



    ◇



 ダンスが終わり、バルコニーに移動して、二人で涼みます。


「ギンチヨ嬢、僕と付き合ってくれないか」


 クロガネ様が、指輪が入った箱を出してきました。


「あなたにとって、10回目のお見合い、これで最後にしよう。婚約して欲しい」


 私は、指輪が入った箱を受け取り、輝きに目を奪われました。

 彼が、侯爵家の正式な第一令息であることは、調べがついています。


 彼は、優しく私の手を取ります。



「……待って下さい」

 私は、その先には、踏み切れません。


「私は、浮気が怖くて、もう誰とも、婚約したくないのです」


 顔を上げることができません。


 


「あら、クロガネ様、お久しぶりです」

 突然、どこかの令嬢が近づいて来ました。


「私との婚約を破棄して、こんな芋令嬢と付き合っているのですか?」


 失礼な令嬢です。


「婚約破棄は、貴女が浮気したからだろ!」

 クロガネ様の語気が強まります。


「あら怖い、浮気されるのは、貴方に魅力が無いからですよ」


 笑いながら、令嬢は会場へ戻っていきました。



 ……私は、魅力がないから、浮気されたの?



「僕が不貞の子だと、ウソの噂を流したのは、あの令嬢だ」

 彼は、悔しそうです。



「心配は無用だ。あの令嬢は、二度と私たちの前には現れない」


 月明かりに照らされたクロガネ様は、魅力的に笑います。



 さわやかな夜風が、私たちを包みました。

 クロガネ様が、私の瞳を見つめてきます。


「誓います、僕は浮気をしません! 貴女が好きだから!」


 彼の真剣さが伝わってきました。でも……



「もし、貴方と、また偶然に出会ったなら、答えを出します」


 そう言って、私は会場を後にしました。



    ◇



 たぶん、私は彼を愛しています。

 でも、男なんて信じられない私がいます。


 もしも女神様が、私たちをもう一度、引き合わせるなら…… 私は、前に進める気がします。



 王宮の中庭は、今日も青空です。


「ずっと、私を待っていたのですか? クロガネ様」


 私たちが偶然に出会ったガゼボに、彼は立っていました。


「偶然ですよ」



「侯爵家の第一令息である僕、クロガネが、女神さまの導きに従い、愛しのギンチヨ嬢へ、あなたにとって11回目のお見合いを、申し込みます」


 彼は、ひざまずき、事前に考えていたようなセリフを言いました。



「その願いは、かなわないかもしれません」

 私は、左手を見せます。


「それは、僕が渡した指輪!」

 彼は、驚き、立ち上がって喜びました。



「私は、すでに貴方からのプロポーズを承諾していますので、11回目のお見合いはできません」


 そう言いながら、彼の顔に、私の顔を近づけると、彼の腕が、私の腰に回ってきました。




 ━━ FIN ━━




【後書き】

お読みいただきありがとうございました。

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