第26話 酸素濃度とチョコレート
「つまり」
と、
「違う生き物でも、おんなじようなところでおんなじような生きかたをしてると、進化して似ていく、っていうことだね」
……とはいうが。
同じ
樹理と似てないのはまあ似ないだろうなとは思うけど、由己と朝穂の作風も似ていない。由己と朝穂は仲がいいけど、それでも作る短歌はぜんぜん違う。
「その」
と、なまいきまじめそうな
「翼竜の、翼っていうのが、水かきみたいなもの、っていうのはわかったんですけど、その、羽根の恐竜が、もともと飛ぶために生まれたんじゃないのに飛べた、っていうのだったら、その羽根って、なんで、何のためにできてきたんですか」
なんか……。
質問のしかたが樹理に似ていて、回りくどくてややこしい。
カステラを半分ほど食べていた
「たぶん、あったまるため、だね」
その千英は半分になったカステラの置き場に困っている。
「あ」
愛が椅子から立とうとする。
「やっぱり、フォークとお皿、いるよね」
と言いつつ、千英にウェットティッシュを渡している。
「あ、ありがと」
と千英はまず残ったカステラを口に入れてしまった。ウェットティッシュを受け取って、右手を
愛は立ち上がって戸口に近い流しのほうに行く。
朝穂の隣でふっと樹理が腰を浮かせ、愛のところに行く。
お皿やフォークを出すのを手伝うらしい。
樹理って、こんなに気のつく子、ひとのために自分から動く子だったかな?
千英は、自分では立たないけど、愛と樹理が戻ってくるまで話を止めている。
千英の次に愛と樹理に近いのは朝穂なので、朝穂も行ったほうがいいかな、と思ったけど、場所が狭いので、一人増えてもたいして手助けにはならなさそうだ。
だから立たずにいると、愛と樹理が戻ってきた。
フォークは、先が二本に木の
朝穂は小さくて薄い洋風の皿と木の柄のフォークを取る。
最後に優が先が三つのフォークと分厚いお皿を受け取って、千英のほうに顔を上げた。
不機嫌そうなのは、自分の問いへの答えが中断されたからだろうけど。
しようがないじゃない?
「それで、羽根が生えた理由ね」
と千英が答えを続ける。
しかし。
千英はすでにカステラを食べてしまったので、じつはお皿いらなかったのでは?
朝穂はもらったお皿の上にカステラとどら焼きとチョコレート一個を移して、もうひとつのチョコレートを食べる。
うん。
甘い。
「ダウンジャケットってあるじゃない? あれって羽根のなかでもふわふわの部分を使ってるんだけど、あったかいじゃない? つまり羽根ってあったまる効果があるんだよね。だから、羽根がついてるほうがあったかいから、寒がりの恐竜に羽根が生えて、って」
と、千英は、またチョコレートを取って包装をはずそうとしている。
「ただ、疑問もあって」
と千英は言った。チョコレートを口に入れようとしたけど、話をしてしまってからのほうがいい、と思い直したみたいだ。
「マニラプトル類が出て来たジュラ紀ってもともとあったかいんだよね。いま、地球で氷河が融ける、って大問題になってるけど、ジュラ紀ってもともと地球上にぜんぜん氷河がなくて、南極も氷がなかったって時代で。そんな時代に
「なんで南極が凍らないの?」
と質問したのは、お皿とフォークが必要、と気づいた愛だ。
よく気がつく愛。
「だって、南極って、太陽があんまり当たらないから、いつの時代だってやっぱり寒いはずでしょ?」
千英はきっぱりと答えた。
「酸素が少なくて、二酸化炭素が多かったから」
言って、包装から出したチョコレートをつまんで胸の前まで持って行って、
「そのころの酸素って、いまの半分ちょっとしかなかったから、わたしたちがその時代に行ったら息苦しくて生きてられないね、たぶん」
と恐ろしい話をして、そのチョコレートを口に入れる。
「つまり、いま温暖化したら、人間には生きにくくても、恐竜には生きやすい地球ができる、ってわけ?」
と質問したのが、超まじめな樹理。
千英は答えようとするが、チョコレートが口に入っているので、答えられない。
うむ。
酸素濃度が薄くなくても、チョコレート食べてて息苦しそうなやつ。
朝穂はふふっと笑った。
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