第21話 お菓子とウーロン茶と翼と羽根

 大柄で、鳥とか恐竜とかについて話しているとき以外はアンニュイな千英ちえが言う。

 「でも、オオウミガラス以外の、オオハシウミガラスとか、ウミスズメとかいう鳥はいまもいて、そういう種類の鳥は動物園とか水族館とかにいたりするよ。このへんもわりとペンギンに似てる」

 「じゃあ」

と、あいが千英に何かきこうとしたところで、一瞬早くドアが開いて、樹理じゅりゆうが戻ってきた。

 樹理がお菓子の入ったトレイを持っている。

 トレイというよりまるいお盆だな。

 ペットボトルを左手で握った優がドアを開けて支えている。樹理が部屋に入り、優がドアを閉める。

 お菓子のお盆の置き場として、ここにいる少女たちに公平な置き場は朝穂あさほ由己ゆきのあいだだと思うので、朝穂が横に寄り、樹理からお盆を受け取る。

 樹理はもともと座っていた朝穂の横に腰を下ろす。

 朝穂に対してはずっとむすっとしている。

 まあ、樹理だからやむを得まい。

 優が、姉に、二リットル入りのウーロン茶のボトルを

「はい」

と渡す。

 なんか、無愛想。

 優も、無愛想。

 相手が姉だから?

 千英が、その「ケモノっぽい脚」を揃えてちょっと横によけた。優がしばらくためらってから、小さく頭を下げてその前を通る。由己までその「ケモノっぽい脚」を揃えて優を通した。

 お盆の上には、個包装のカステラのお菓子が六つ、チョコレートが十二個、小さいどら焼きが六つと、人数で等分できる数が載っていた。

 愛が優から受け取った冷たいウーロン茶をコップに入れている。コップの数が足りなくなり、千英と愛はマグカップになった。

 「それで」

といちばん向こうに座ってウーロン茶を少し飲んだ優が言う。

 「そのマニラプトルっていうのが、翼を持ってて空を飛べる翼竜っていう種類なんですか?」

 さっきの話を再開した。

 たぶん、ここに戻ったらその話をしようと、ウーロン茶を運びながら考えていたのだろう。

 まじめだ。

 こっちは、ペンギンとか、動物園のこととか、オオウミガラスとか、少女らしさをつかまえようとすると少女らしさが絶滅するとか、そんなことを考えていたのに。

 「ああ」

と、千英は、飲んでいたウーロン茶のマグカップを愛の机に置いてから、優のほうを向いた。

 優は胸を張って顔を上げ、千英を見ている。

 この優って子、なんか、かわいいけどなまいきそうなんだよね。

 なまいきかわいい優。

 とろとろかわいい愛。

 最強の恐竜と羽根はね羽根はね恐竜の関係。

 それで、千英の答え。

 「翼竜、っていうのは、ぜんぜん違う種類で、恐竜ですらない」

 「は?」

 すばやく正直に反応したのは、樹理だった。

 優ではなく、樹理だった。

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