第17話 手で盗む恐竜と手で摘まむお菓子と
「まあ」
と、同じ系統だからティラノサウルスと鳥が似てることを、
「その
「羽根羽根っぽい、って?」
短歌部である
……と、
朝穂は、ほんとは「羽根羽根っぽい」って何か使えるかな、と、考えている。
「羽根がある 羽根羽根っぽい 恐竜が」。
いや。
恐竜にすると普通になってしまう。
もうちょっと考えよう。
「ああ」
千英はうなずいた。
「恐竜には、羽根、っていうか、翼じゃなくて」
と手を曲げて、肩の横で手のひらを下に向けて上下にパタパタやってみせるのだが。
右の手のひらのパタパタを避けようと、愛がのけぞっている。
もともと一人用の部屋だからねぇ。
そのまた一部分に六人が固まって座っているので、スペースが狭いわけだ。
「
枕かぁ。
恐竜の説明で、枕。
科学部と話していると、日本語感覚が鍛えられるな、と思う。
「羽根羽根の 恐竜の羽根の 枕にて 寝てみたいよね 君といっしょに」
あ。
ダメだ。
古典文芸部のおふざけ短歌がうつってしまった!
だいたい、「君」とか、思ってもいない相手を短歌に入れるのは断固としてやらない、というのが朝穂のポリシーなのに。
その朝穂からスカートの中が見えそうな場所で
「恐竜は
と、「羽根羽根」を繰り返す科学部員の千英!
ちょっと……。
……スカートの丈、短くないか……?
「羽根羽根の 恐竜の羽根の 枕にて 寝てみたいよね 千英といっしょに」
いや。
愛のほうがいいな。とろぉんとろぉんとしていていっしょに寝る
「羽根羽根の 恐竜の羽根の 枕にて 寝てみたいよね 愛といっしょに」
いや、でもやっぱり
いやいや、何を考えているのだろう、自分。
「あの」
と愛の妹の優が胸の前に手を挙げる。
優が手を挙げた姿はあまり羽根羽根っぽくない。
「マニラプトルっていうのは、フィリピンのマニラで化石が見つかったか何かですか?」
そのことばに「とろぉん」としたところが少しもない。
これがティラノサウルスとマニラ恐竜の違いか?
「あ」
と体の大きい千英が優を振り向く。
「マニラは関係なくて、マニ、ラプトルって切れるんだよね。マニ、が、手、で、ラプトルがどろぼう。手で盗むやつ、って意味なんだけど」
なぜそんな物騒な名が!
「あ」
と反応したのが隣の樹理!
「そういえばこないだ寮で盗難事件があって」とかいう
「そういえば」
と樹理が言ったので、朝穂は軽く樹理を見て牽制する。
ところが樹理が言ったのは
「手で
はい?
なぜ「手で盗むやつ」が「手で摘まんで食べられるお菓子」に?
それはさらにあさっての方向の反応ではなかろうか!
しかし。
「じゃあ、お茶入れようか」
と、そのあさっての方向についていく愛!
やっぱり声がとろぉんとしている。
このとろぉんに惑わされると、愛は行動を起こしてしまう!
しかし、朝穂が動く前に
「あ、いや」
と反応したのは、とろとろティラノサウルス姉に対する「手で盗むやつ」……。
……のような、愛の妹。
「この人数じゃ入れるのたいへんでしょ? わたしが樹理さんといっしょに行って、飲み物持って来るよ」
と言って、優は、樹理を見、そのあと、ちょっと眉を寄せて姉を見て立ち上がった。
早くも由己が脚を揃えて優が前を通りやすくしている。
由己の座ってる場所のばあい、そこまでしなくても、優が通る余裕はあると思うんだけど。
千英の膝と朝穂の膝のあいだがいちばん狭いのだ。
優に見られた姉の愛は、ちらっ、と樹理を見て、
「あ、じゃ、お願い」
と言う。
樹理が立ち上がる。
優は千英と朝穂のあいだをすり抜けて、樹理といっしょに部屋を出て行った。
ふっ、と、空気が柔らかくなるのを感じる。
やっばり、樹理って、いると、それだけで空気が硬くなるのね。
よくわかった。
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