第16話 最強の問題、姉妹の問題

 千英ちえは、その樹理じゅりをちらっと見て、軽く笑って、続ける。

 「で、その竜盤りゅうばん類のなかで、トカゲっぽい脚を持ってるのが竜脚りゅうきゃく類、ケモノっぽい脚を持ってるのが獣脚じゅうきゃく類。ま、体をトカゲっぽくこうやって支えるか」

 千英は、両腕を肩から横に伸ばしてひじを曲げ、手のひらを前に向けて下手な腕立て伏せをするように前後に動かして見せた。

 「人間みたいに脚を揃えて体を支えられるか、の違いだね」

 今度は、手ではなく、両脚を、きゅっ、と揃えて見せる。

 体が大きいだけあって、脚は太め。

 脂肪もそこそこ。

 ……そういう問題ではないか。

 「トカゲとかワニとか、横向きに足が出て、それで体、支えるでしょ? でも、ケモノ、っていうか、哺乳ほにゅう類とか、鳥類とかは脚を揃えて立てるじゃない? で、人間みたいに二足歩行するとすれば、脚を揃えてるほうが有利なわけで」

と、千英はその脚をゆるめて、ちょっと開いた状態に戻す。

 脂肪がついた脚を閉じ続けているのはきつかったんだろうけど。

 これ。

 あんまり開くと朝穂あさほのところから千英のスカートの中が見えちゃうな。

 そういう点では、女の子は「ケモノっぽい脚」でよかった、ということになるだろう。

 「で、鳥は脚を揃えて体を支えられるから、獣脚類」

 樹理が何か言いたそうにしたけど、その前に千英が言う。

 「獣脚類のなかにはティラノサウルスとかもいたから、鳥ってティラノサウルスに近い種類、ってことだね」

 「ティラノサウルスって」

と、ゆうという一年生が言う。

 「最強の恐竜っていうのですか?」

 千英は笑って返事する。

 「まあ最強がだれかって、決めにくくて。全員でバトルして勝ち残ったのが最強か、っていうと、そうかどうかわからない」

 つまり、一対一で対決して五勝五敗になっても、どっちが強かった、八重やえがき会が予想外に弱かった、なんてことは言えないわけだ。

 ……って。

 意識してないな。

 たぶん、この千英って子。

 自分の好きな動物の話をするだけでうきうきしまくってる。

 その千英が続ける。

 「まして、恐竜なんて二億年以上前から六千六百万年前まで生き続けたんだから、一億年以上の時間で、どれが最強っていうのも難しくて。たしかにティラノサウルスは強かっただろうけど、生き延びた期間が長い、っていう意味ではそんなに成功してない。その一億年以上のあいだで、何百万年かぐらい。でも、じゃあ、生き延びた期間が長いのが最強か、っていうと、生き延びた期間が長いってことは進化してないでそのままでいた、ってことだから、そういうの強いっていうのかな、ってところ。だから、何を強いと考えるか、って基準によるから、いろいろだね」

 つまり、基準によるから、パンダとか鳥とかのおふざけ短歌と、八重垣会の短歌とで比較しても意味がない、というわけだ!

 「でも」

と、その優という子が食い下がる。

 「強かったのは確かなわけだから、その同じ系統だったら、鳥の祖先も強かったってこと?」

 千英はその優という子に微笑して顔を向けた。

 「じゃあ、あんたって、お姉さんか妹か、いる?」

 優という子は、「ハトが豆鉄砲を食った」という顔で、ぽかん、とする。

 もっとも、鳩であれ何であれ、豆をぶつけられたら「ぽかん」とかせずにすぐ逃げるのではなかろうか。

 「はい」

 千英の後ろで声がする。

 なぜ、一年生ではなく、その場違いの方向で?

 澄野すみのあいが、肩のところに手を挙げていた。

 「わたしが優の姉だけど?」

 えっ、と驚いたのが、その千英と由己ゆき。たぶん朝穂自身も。

 樹理じゅりは口をとがらせて苦い表情をしている。

 知っていたのだろう。

 優自身も、同じような表情だ。

 「ああ。わかりました」

と、その優がかすれぎみの声で言う。

 「姉妹でもぜんぜん性格違うんだから、鳥とティラノサウルスも違ってた、ってことですね」

 あんまり納得はしていないようだが。

 この妹からは、姉のようなとろぉんとした雰囲気はぜんぜん感じないのだが。

 もしかして、この姉妹、ほんとは性格似てるのか?

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