第229話悪魔城 暗い森『魔界』

~悪魔城『魔王の間』~




「これは、どういう事だ・・・・・

 氷の異空間では、上手く行っていると報告を受けていたが・・・・・」




玉座に腰をかけるベルゼブは、エウリノームに、問いただす。


「それは・・・・・・予想外の事がおきまして・・・・・」



ベルゼブの表情は、穏やかに見えるが、瞳の奥は、怒気を纏っている。


「詳しく説明せよ」


エウリノームは、監視者【一つ目の使い魔】から受けた報告をそのまま伝えた。




「ほう、・・・・・

 アイスドラゴンに飲み込まれても生きていただと・・・・・・」




アイスドラゴンの胃液は、何でも溶かす。


だが、生き伸びた者がいるという報告に、ベルゼブの表情が歪む。


エウリノームの報告は続く。



「・・・・・それに、

 エクスカリバーを持っている者がおりました」




「エクスカリバーだと!」 




 ――エクスカリバーに、アイスドラゴンからの脱出者。


    神と、そのような特殊な者がいるのか・・・・・・

    それとも、神が2人いたのか・・・・・




過去の対戦でも、その様な者がいた話は、聞いた事が無い。


その為、ベルゼブは警戒を強める。




「監視者を増やせ、状況を随時、報告せよ」




「畏まりました」




エウリノームは、ベルゼブの前から姿を消す。



「フフフ・・・・・ハハハハ・・・・・面白い」



1人になったベルゼブは、声を出して笑った。




「まだ、この世に、我を楽しませる者がいるとは・・・・・

 これも、神の仕業かも・・・・・


 ならば、まだ何か隠しておるかもしれぬのぅ」




アイスドラゴンの中から出て来た娘が、

『聖剣デュランダル』である事を、ベルゼブは知らない。



氷の空間を抜けたアイシャ達は、暗い森に辿り着いていた。


風も無く、昼夜もわからない暗い森。


警戒をしながら、草を掻き分けてへ進む。



暫く進むと、聞き覚えのある音が聞こえて来る。



「皆、止まるのじゃ」



先頭を歩いていたアイシャが、気付く。



「アイシャ、どうしたの?」


「うむ、誰かが戦っておる」



全員が、耳を澄ます。


遠くの方で、剣がぶつかる音が聞こえた。



「これって・・・・・」


「ああ、ラム達かもな」


「なら・・・・・・」


「焦るでない。


 わらわ達は、静かに近づき、敵の裏を突くのじゃ」


「わかったぁ~」


デュラの気の抜けた返事に続き、皆も頷く。


アイシャは、二つのチームに分ける。




アイシャとラゴ。




クオンとエクスとデュラ。




二つに分けられたチームは、間隔を開けて、音のする方へと向かう。


暫く進むと、どちらのチームにもはっきりと音が聞こえた。



そして、薄っすらと見えて来る光景。


マチルダが、結界を張って仲間を守り、ラムが1人で戦っている。


しかも、弓ではなく、剣を手にしていた。


――どういう事じゃ・・・・・


慎重に近づくアイシャだが、

敵の姿が、よく見えない。



その時、声がかかる。


「アイシャ、後ろ!」


クオンの声に反応し、振り返るアイシャだったが、遅かった。


アイシャの後ろの木が、枝を鞭のようにしならせ、襲いかかったのだ。


直撃を受け、吹き飛ぶアイシャ。


「グハッ!」


他の木にぶつかり、背中を打ち付ける。


アイシャが、一撃で負傷するこの状況。


今迄の敵とは違う。


アイシャ達に気付いたマチルダが叫ぶ。


「皆さん、こっちに来てください!」


その声に反応し、マチルダの元へと向かおうとするが

突如、声が掛かる。



「なんだい、援軍かい、他にもお仲間さんがいたとはねぇ・・・・・

 まぁ、ここで死んで貰う事には、変わらないけどね」



木の枝に立っていた者は

道を塞ぐように降りてきた。



――あれが敵・・・・・



その姿は、エルフに似ている。


「あれ、ラムお姉ちゃんに姿が似ているね。

 でも、全く違う!!!」


クオンは、そう言いい残して、走り出すと

エルフに襲いかかった。



「クッ!」



エルフは、クオンの速さについて来れない。


回り込み、横凪に払われる剣。


防御も、回避も間に合わない。


「貴様が、神かぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


叫び声と同時に、身体が二つに割れる。



倒した相手は、やはりエルフだった。


だが、色が黒く、体には紋章が刻まれていた。



「この人もエルフ?」



キョトンとしているクオンに、次の敵が襲いかかる。



「神を殺ぜぇぇぇぇぇぇ!」



襲い来る木の化け物【キラーウッド】とエルフ達。


彼らの目的は、クオンに絞られた。




キラーウッドとエルフの攻撃が、クオンに集中していると、

再びマチルダの声が響く。



「こっちです!」



ラゴ達は、急いで声の方に向かおうとするが、

何かがおかしい。


先程、聞こえた声の方向と違う。


「皆、待つのじゃ」


気が付いたラゴが皆を止めると、あちこちから聞こえて来るマチルダの声。


「こっちです」


「こっちです」


「こっちです・・・・・・」




『やまびこ』の様に繰り返されるマチルダの声。


罠に嵌められた事を悟る。




「わらわとした事が・・・・・・」



ラゴは、血が出る程強く、拳を握る。



――絶対に許さんぞ・・・・・・



怒りに震えるラゴの手を、アイシャが握る。


「姉上・・・・・今は、辛抱じゃ・・・・・」


たった一撃を受けただけなのに、満身創痍のアイシャ。


助け出した時は、意識を失っていたが、

何時の間にか、目を覚ましていた。


「アイシャ・・・・・」


意識の戻ったアイシャは、何故か、魔力切れを起こしかけている。




「気を付けるのじゃ、

 この森には、『魔力を吸い取る木』があるようじゃ。


 わらわが、倒された時、近くに木があったじゃろう。


 あれは、魔力を吸い取る。


 その証拠に、わらわに魔力は、残っておらぬ」



周囲を警戒しながら、アイシャの話を聞いたラゴは

辺りを見渡す。


『フラフラ』になりながらも、1人で立とうとするアイシャ。


ラゴにもわかる、魔力切れに近い状態。


ラゴは、アイシャを支えたまま、ゴスロリ服を破り、肌をさらけ出した。



「アイシャ、わらわの血を吸うのじゃ。


 そして、今一度戦うのじゃ」



アイシャを抱きしめるラゴ。


アイシャは、ラゴの白い肌に牙を立てる。



――姉上、感謝する・・・・・・



抱きしめられたまま、ラゴの胸元から血を吸うアイシャ。


胸元から零れる血を下から舐め、一滴も無駄にはしない。




血を吸い終えたアイシャの目が赤く光る。


――姉上に感謝じゃな・・・・・だが、今は・・・・・


「わらわが、見て来よう。


 ここを動くでないぞ」




アイシャは、そう言うと霧へと変化して、姿を消した。


だが、『霧』になっていても、魔力を吸い取る木に触れれば、

魔力を吸い取られてしまう。


――急がねば・・・・・・・


『霧』となり、森に広がるアイシャ。




アイシャが、暫く探索を続けると、仲間の姿を発見した。


『霧化』を解き、声を掛けた。


「皆、無事か?」


「アイシャ!」



突然、姿を現したアイシャに、驚きはしたが、

マチルダは、急いで結界の中へと招き入れる。



「早く、この中に!」



アイシャが、結界の中で見たもの。


それは、傷ついた仲間達の姿。




ソニアとサリーは、服も破れ、

それぞれに、大きな傷を負って、意識を失っている。


だが、命に影響は、なさそうだ。


ウルド ツールは、まだ平気そうだが、

ラムザニアとラムールは、

体中に、ひび割れが起こっていた。



「これは、どういう事じゃ?」


「私は、ヴァンパイアだったから平気だが、彼女は海で生きている。


 此処までの戦いで、魔力を失い、限界が来たようだ」



ひび割れた体で横たわるラムザニアとラムール。


ラムザニアの横で手を握るウルドツール。


海水が必要な事は、わかっている。


アイシャは、訊ねた。




「水でもよいか?」




「ん?」




「『水でもよいか?』と聞いておるのじゃ」




「あ、ああ、問題無い」



アイシャは、氷の異空間の事を思い出していた。



「わらわは、氷の異空間から、ここに来た。


 道も知っておる。


 そこには、大きな湖があったのだが、そこでも良いか?」



ウルド ツールの目が見開く。



「構わない、そこに連れて行ってくれ。


 このままでは、ラムザニアとラムールは、死んでしまうのだ」




「だが、敵の攻撃は・・・・・・」




「私に策がある。


 だから頼む。


 案内を!」




「わかった。


 では、直ぐに行こう」




アイシャは、ラムザニアとラムールを抱きかかえたウルド ツールと共に、

結界を出て、氷の異空間を目指した。

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