第109話シーワン王国 王城突入

「じゃぁそろそろ行くよ」




京太は、屋敷の出入り口に向う。




「1人で行くの?」




ラムが聞くと、京太ではなく、ラゴが答える。




「わらわが、一緒だぞ」




「皆は休んでいてよ、フーカは猫人族の里にいる皆に情報を持って行ってくれる」




「わかった」




フーカは、京太達と一緒に屋敷を出た。


無言のまま空に上がると、一瞬だったが、京太の目が冷たく、感情が無くなった様に見えた。




「京太・・・・・」




名前が呼ばれた京太は振り返る。




「ん・・・・・?」




既に、いつもの京太だった。




――気のせい・・・・・だったの?・・・・・




ラゴと京太は、廃屋に戻った。


放置していた者達は、ロープで縛られた状態のまま寝ている。




「いつまで寝ておるのだ!」




ラゴは、男達を蹴り上げた。




「ウグッ!」




「グハッ!」




目を覚ました男達に、京太が尋問を始める。




「ここを探って何をしようとしていたのですか?」




「知らねえよ、俺達は寝床を探していただけだ!」




「本当だ、俺達は何も知らねえ」




この辺りの様子からもっともな理由に聞こえるが、どこか怪しく感じる。




「わかった。


 色々と怖い思いをさせてしまったね」




「へへへ・・・・・いいんですよ、こっちも人様の家を覗いたんですから」




京太は、ロープを外し、解放した。




男達は、その場から足早に去って行く。


京太達の廃屋から、上手く逃げ延びる事が出来た男達は、

そのままスラムの様な場所から立ち去った。




「危なかったな」




「そうだな、だが上手くいった。


 後は、アイツらの事を報告するだけだぜ」




「何処に報告するのだ?」




突然聞こえて来た声に、男達は動揺を見せる。


ゆっくりと空から降りて来たラゴは、同じ質問を繰り返す。




「何処に報告するかを聞いておるのじゃ」




「畜生!」




男達は、二手に分かれて逃走を計った。


だが、男達の敵は1人ではない。


ラゴに追いかけられた男は、直ぐ捕まり、足を砕かれ意識を失う。


そして、逃げ延びたと思った男が足を止めると、肩を叩かれる。




「そろそろ、いいかな?」




男は振り向くと同時に鳩尾を殴られて倒れた。


2人の意識が戻ると、そこは、先程の廃屋だった。




「では、吐いてもらうぞ、誰に報告するのだ?」




ラゴの問いに答えようとはぜず、男達は横を向く。




「答えろ!貴族か!?」




「へへへ・・・・・この国に貴族なんていねえよ」




――貴族がいない・・・・・・




疑問に思い、京太が聞く。




「どういう事?」




「てめえで調べろ!」




一度、解放した事で甘く見られているのか、口を割ろうとしない。




「わかった、1人殺そう・・・・・」




男達の顔色が、一瞬変化したが、脅しだと思ったらしく、直ぐに元に戻る。


その時、ラゴが1人の足の甲に剣を突き刺した。




「ぎゃぁぁぁぁぁ!」




廃屋の中に悲鳴が響き渡る。




「心配せんで良い、直ぐには殺したりはせぬぞ」




そう言うと、刺した剣を抜いた。




「さて、まだ話さんか?」




そう言うと、ラゴは、剣を刺されていない足の甲に狙いを定める。




「ま、待ってくれ、話す、話すから!」




ラゴは、剣を収めた。




「では、この国について話して貰えるかのぅ」




「は、はい・・・・・」




男達の説明は、この様なものだった。




この国には、貴族という階級は無く、王の次に続くのは、


『四富貴よんふうき』と呼ばれる者達だった。


『富貴』とは、王を除くと、もっとも優れた地位にある人物という意味だ。


四富貴と呼ばれる【ヨアヒム】卿、【ライオネル】卿、

【ベンジャミン】卿、【ボッシュ】卿は、

それぞれに領地と港を仕切っている。


そして、四富貴は他国との貿易で利益を上げているのだが、

その中でもヨアヒム卿は、奴隷売買で儲けているとの事だった。


ただ、その奴隷というのは、買い付けるのではなく、

この国に来た、女、子供を攫って売っているのだ。




そして、今回は、偶然見つけたラゴをターゲットにし、

見張っていたとの事。




理由を知った京太は、溜息を吐く。




「この国は、どこまで腐っているんだろう・・・・・」




男達の首だけを地面から出して生き埋めにした後、

京太とラゴは廃屋から出て行き、宿を取ることに決める。


食事を終えると、ラゴと京太は、部屋で二人きりになった。




「ラゴ、明日、王城に乗り込むよ」




「わらわも同行するぞ」




「ありがとう」




その日は休むことにしたが、

ベッドで横になると、腕を失くしたミーシャの姿を思い出してしまう。




――なんか、寝れないな・・・・・




そんな京太の様子を見て、隣のベッドで寝ていたラゴが起き上がる。




「主様、どうかしたのか?」




「ごめん、起こした?」




ラゴは、京太の様子を見て何かを察したのか、

自分のベッドから出ると、京太のベッドに入る。




「主様、ミーシャの事が心配なのは分かるが、

 今の主様を見たら、逆にミーシャが心配するぞ」




ラゴに言われて気付く。




――俺、そんな顔をしていたんだ・・・・・




思った以上に表情に現れていた事に反省し、ラゴに謝罪をした。




「気を遣わせてごめんな」




「気にしてはおらん。


 主様は、わらわに甘えると良いぞ」




そう言うと、ラゴは、京太の頭が胸元に来るように抱きしめた。




「今日は、このまま寝ると良いぞ」




「ありがとう」




京太は、その言葉に甘えて、そのまま眠りに就く。




翌日、京太とラゴは、王城へ向けて歩き出す。


王城の前まで来ると、2人は剣を抜いた。




「行こうか」




「うむ」




歩き始めると、案の定、警備の兵士に止められた。




「貴様らは、何処に行こうとしているのだ?」




「貴様らの王に面会じゃ、そこを開けろ!」




ラゴの言葉に怯むことなく、兵士は答える。




「貴様達みたいな平民が会える筈がないだろ。


 通行の邪魔だ、此処から去れ!」




次々に兵士が集まり、王城への道を完全に防ぐ。




「突破するよ」




その言葉を合図に、ラゴは、京太の背後について走り出す。


集まっていた兵士達を飛び越えると、

京太は、大きな扉を、いとも簡単に蹴破り、

そのまま王城へと突入する。


突然の出来事に、驚き、立ち止まっていた兵士達だったが

我を取り戻すと、慌てて後を追い始めた。



「貴様ら、待て!」



王城に入った2人は、止めに入る兵士達を薙ぎ倒しながら、先へと進む。


先に進めば進むほど、兵士の数も増えたが、

京太とラゴの相手ではなかった。




城内で暴れていた為に、この事は、国王の耳にも届いた。




「その2人を早く捕らえろ!」




国王スピリダスは、鳥人族の里から戻っていたコールドを呼ぶ。




「陛下、お呼びでしょうか?」




「お前も知っておるな」




「城内で暴れている2人組のことでしょうか?」




国王スピリダスは、激怒しながら命令する。




「知っているなら、早く手を打たんか!」




「はっ!」




だが、コールドは、鳥人族の里で殺した者の仲間ではないかと思い、

怯えていた。


そう、コールドは、鳥人族の里で対峙した4人は、

既に死んでいると勘違いをしている。



コールドが、あの場所から退避するとき、4人とも倒れており

ましてや、その内の一人は、腕も千切れ、血だらけだったことから

死んでいると確信して、王国に戻っていたからだ。


だからこそ、この城に攻め込んでいるのが、その仲間だと確信し

怯えているのだ。



しかし、国王の命令には逆らえない。


その為、副団長の【センチ】と【ルコール】に盗伐するように命令を下す。




「陛下から、早急に対処せよとの事だ」




「畏まりました」




副団長の2人は、その場から去ると、京太達の元へと向かう。


城内で暴れ回っているので、京太達の居場所は直ぐに判明した。


透かさず副団長の2人は、先回りをし、

京太とラゴの前に立ち塞がった。




「このまま、生きて帰れると思うなよ」




センチの言葉を合図に、センチとルコールは、攻撃を始める。


剣士のセンチは、京太に接近戦を仕掛けた。


もう一人の副団長、魔法士のルコールは、

離れた距離から魔法を放とうとしたが、ラゴの魔法の方が早い。


ラゴの放った『ファイヤーボム』により、

ルコールは、周囲の兵士も巻き込んで吹き飛ばされた。




その光景に驚いたセンチは、動きが止まり、京太に隙を与えてしまう。


当然、そのようなチャンスを見逃す筈も無く、

センチの体は、2つに切り離された。

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